カエロサング一族






「望むところです、神聖教の解体が望みですから」




 自然と拳に血が出るほど力が入る。




「……大変失礼ですが、もしよろしければ理由などをお伺いしてもよろしいでしょうか…?」




「簡単ですよ、復讐です。エアクラさんを殺されました……」




「エアクラ様が…?…………なるほど、それではどちらにせよカエロサング一族について知ることになるでしょう。分かりました、私共の知っている限りですがお話しましょう」




「知っているのですか?」






「もちろんです。吸血鬼なら皆知っているのではないでしょうか?」




 何とも言えない微妙な表情をしている。なにか過去にあったのか…?




「ふぅ……ではカエロサング一族についてですがまず神聖教の幹部、枢機卿以上は全てカエロサング一族のみで構成されています。


特徴としては肌が蒼白であり髪は灰銀色、それに特殊な力を使います」






「"ネガティオ"…ですか」




 ミヤコさんは驚いた表情をしている。




「実際に相対して戦ったときに使われました。吸血鬼とはまた違うなにか大きな力を感じました」




 "ネガティオ"エアクラさんを殺し俺も死にかけた力。吸血鬼の"存在証明"とはまた違う、世界自体が敵になった何かを感じた。






「"ネガティオ"を使用されて生き残った例はほぼありません…何か情報頂いてもよろしいでしょう?些細なことで構いません!報酬は別途お渡ししますので何卒!」




 隠すことでもないので話すとミヤコさんはすごい勢いでメモを取っていく。






「なるほど…話から推察するに何かしらの強制力を産む力なのでしょうか…?」




 ブツブツと思考しながら筆を走らせていく。




「……はっ、すいません。自分の世界に入ってしまいました。


……マナト様がおっしゃっている通りカエロサング一族は不思議な力を使います。


我々は吸血鬼とも人間とも違う何か別の生き物なのではないかと推察しています」




「その一族はどのくらいいるのですか…?」




「申し訳ありません、不明ですね……ただ、大きい支部には必ず居るようです」




「それと神聖騎士団の戦い方ですが司祭以上は神聖力を使い戦います。元々は普通の人間だったものが聖別といった儀式を得て神聖力を使えるようになるようです」






「"存在証明"のような強力な技は使えるのでしょうか?」




「いえ、カエロサング一族のみです。ただ、武器に何かしらの特殊な力が付与されている場合神聖力を使用し発動する様です。遺物のようなものですね」




 ミヤコさんは紅茶を飲み一息つく




「ふぅ…一気に話してしまいましたがいかがでしょうか?」






「ありがとうございます。カエロサング一族についてはどの程度判明しているのでしょうか、仇の名前くらい知りたくて…」




 懐から数枚の写真が並べられる




「情報は少ないですが現在数名の写真があります、見覚えは…」




 無言で首を振るとミヤコさんは申し訳無さそうな顔でこちらを見つめる




「そうですか…申し訳ありません…今後情報が更新され次第報告しますね」






 礼を伝えるとトントン、とドアノックの音が聞こえる。




 ミヤコさんがどうぞと伝えるとボスとヴィクトリアさんが入ってくる。




 ミヤコさんが立つのに合わせて自分も立ち上がる。




「我々ブラッドレイブン一同、マナトさんに感謝を伝えます。ご紹介が遅れました、我らがボスのブラッドレイブン様です」




 頭を傾げるとミヤコさんは「ブラッドレイブンはボスの名前でもあり団体名でもあるんですよ」と説明をしてくれた。話す時に混乱しないのだろうか。




「我が白き侍従よ、傭兵には既に対価を渡した」


「ヴィクトリア様、いつもありがとうございます。今回の報酬はご納得いただけましたか?」






「うむ、なかなかの遺物であったな。実用性といったよりはコレクション寄りのものであったが満足だ」


-ヴィクトリアはコレクターだからな!遺物なら何でも喜ぶぜ!-




 ハハハとが笑っていたが途中で示し合わせたかのように笑いが止まり皆がこちらを見つめる。




「……どうかしました…?」




「暗い過去を持ちし我らが同胞よ、その呪われし力を我が剣とせんか?」


「……よろしければブラッドレイブンに加入されませんか?ヴィクトリアさんのように一時的に所属し、その都度報酬を払う形から始めればご負担にはならないかと……」








 どうだろうか…今は行く宛は無いがもう復讐が終わるまではそれ以外しないと心に誓った。 


 だが復讐するにしても相手の名前すら分かっていないのだ。指針が立つまでは一時的に所属するか…?




 だが、人の繋がりは頼もしいが鎖になりかねない。もう俺の両手はエアクラさんとスンでいっぱいだ。これ以上抱えられると思えない。




「………ふむ………マナト殿は迷っている様子。一晩程度は返答に時間をかけても良いのだろう?」




「あ、も、もちろんです!良ければ1室貸しますし、分からないことがあったら何時でも質問してください!後でメイドに案内させますので我々は一度、席を外しますね」




 ガチャリとブラッドレイブンとミヤコが退室するとヴィクトリアさんは近づいて来て耳打ちしてくる。






「彼らとの付き合いはそこそこ長いが騙すなどの意思はないと思うぞ。ただ、交渉や重要な決定はその場で決めんほうが良いな。次から気を付ける様にするのだな」






 礼を伝えると腕を掴まれた。




「よい!よい!それよりも!約束の実験をするぞ!!」


 


 ヴィクトリアは目をキラキラさせながら歩き出す。引っ張られる形で自分も部屋から出る。






「メイド!訓練室を借りるぞ!!伝えおけ!」






 メイドさんがペコリとした姿を後にズンズンと進んでいく。遠ざかっていく姿に「ヤバイのに捕まっちゃったかなぁ…」とぼやきが出た。

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