【余談】ヴィクトリア



「はぁっ!」




 暗い遺跡の中に火花が散る。ゾンビのような見た目の男が真っ二つになるが血すら出さず塵になっていく。




-ヴィクトリア、腕、なまったんじゃねぇか?-




「はは、サーペンタイン。君が鈍なまくらになった言い訳としてはレベルが低いね」






 吸血鬼であるヴィクトリアは当然夜目が効く。だが洞窟の奥深くとなれば光源が一切ないためいかに吸血鬼と言えども視界が悪くなるためカンテラを持っている。




-しっかしよぉ、本当にこんなところに遺物があるのかぁ?-




「ああ、可能性は高い。それに化物が出てきた事によって信憑性があがった。」




-確かに化物が多いところには遺物ありがちだけどよぉ、何でなんだろうな?-




 骸骨が襲い掛かってくるが軽くあしらいながら答える




「吸血鬼が化物になった後は彷徨う事が多い。恐らくだが遺物に惹かれているのではないかといった……はぁ!…学説があったな…!」


 




 しかし疲れる。環境が悪いのもそうだ。洞窟は緩やかな下り坂になっており進めば進むほど熱く暗くなっていく。地熱が強いのだろうか。


 




-ヴィクトリア、水分補給したほうがいいぞ。汗が止まってるぜ-






 忘れていた、脱水の怖いところはある程度を超えると自覚することが難しくなることだ。




「はぁ………物質創造……水…」




 手から水を出す。頭から被り体温を下げると同時に水分補給をする。声に出す必要ないが物質創造は知識とイメージが必要になる。




 水のような簡単なものであればイメージだけで良いが脱水などで認知能力が下がっているときは声に出したほうが間違いがない。






 更に塩を生成して口内に放り込む。






 その後も進むが有益なものは無い。




-またハズレかぁ?じゃここの化物共は何しにここにいるんだよ-






「大きく分けて2つだな………はぁ………単純にまだ見つかってない。…………ふぅ…………それは残滓が残ってるか…だな……10年位は寄ってくると聞く…」




 暑さで呼吸が浅くなってくる




「はぁ……にしても……はぁ……、…呼吸し難いな………、…」




-おい、俺を胸に近づけちゃくれねぇか?-




「はは…、剣でも発情するのか?………残念だが私は剣とどうこうする趣味は……ないよ……」




-ちげぇよ!いいから早くしろや!-




 意味は分からないがいいだろう。サーペンタインがここまで真剣に言ってくるのは珍しい。




-お前……肺に水入ってないか…?-




「ふふ……武器も熱でおかしくなるのか……」




 胸からちゃぷん、と音が小さく聞こえる






「いや!違う!…ゴフッ!………凝結か!!」




 ここの気温と湿度、水蒸気量は異常だ。外気温に比べ体温の方が低い。








 気温は60度近く。湿度はほぼ100%だろう。空気中には大量の蒸気が存在する。


 道の先を見ると赤く光が差し込んでいる場所があり大量の水蒸気が出ている。これが原因だろう。




 呼吸により入った水蒸気が肺で冷やされ水に戻る。蓄積しどんどんと呼吸が困難になる。 




「陸にいながら溺れる経験ができるとはな……」




 吸血鬼は呼吸が出来なくもすぐには死なない。だが酸素不足にて死んだ細胞を血力で再生することになるため長くは持たない。




「ゴポ、………仕方ないか…」




 刃に蛇のような模様が彫られており、鞘には蛇の目のような宝石が飾られている細剣、サーペンタインを引き抜き自らの胸に突き刺す。




 ズルリと引き抜くと同時に穴が塞がらないようにキャップ付のパイプのようなものを生成する。栓を引き抜くとパシャ、と水が出てくる。反対の肺も同じ処置をする。


 


「気持ちいいものではないな、だが陸で溺れる経験は初めてだ、不思議な感覚だな」




-生きている限り味わいたい感覚じゃねぇだろうな、きっとよ-




 マスクを生成する。恐らく大きな意味はないが口呼吸を意識することで肺に入る前に多少なりとも水になって防げるだろう。戦闘時以外は装着しよう。




-道はそこの蒸気吹き出してる場所だけだぜ?…つかそもそもあれを道って呼ぶのか?-




「通れるのであればそれは道だ。だがまともに通れば熱で死ぬだろうな。」




右手の人差し指を持ち上げ掲げる。その指には透明なガラスのような素材で作られており、内部に微細な緑色の輝きが見える指輪が嵌められている。




「エコシフトリング!」




 内部の緑の光が強く輝く。光が一瞬で体を包み込むと呼吸がしやすくなり気温が下がったように感じる。




-それ便利だよな、なんだっけか、周囲を適応させるだっけ?………あ?まてよ?…最初から使っとけば肺に穴なんてよぉ、-




「さぁ!!行こうか!サーペンタイン君!」




-意外と抜けてるところがあるよなぁ…-










 遺物エコシフトリングおかげで火傷はしないが蒸気で塞がる視界は回復しない。それに暑いの感じるのも変わらないのだ。




 少し進むと地下水がマグマに当たって蒸気を生産しているしている地点が見つかる。水筒を取り出し補給するが当然お湯のようだった。




-こんだけ水分が多い場所は俺も錆びちまいそうで不快だ。早く出たいんだが…なんもねぇしよぉ…-




「過酷だか確かに成果はありそうだぞ?ほら見てみろ」




 マグマ溜まりの中央に岩があり、剣が刺さっている。




 


 吸血鬼とはいえ溶岩の中を歩いて行く事はできない。鎖を生成し先端にフックをつける。


 1発で成功はしなかったものの何度が挑戦するうちに鎖が剣に絡まる。




-おっ!今だ!!釣り上げろ!-




 よっ…と。小さく掛け声を出し引き上げる。岩に強く刺さっていたわけではないのか容易に抜けた。




 胸ポケットから片眼鏡を取り出し装着する




「スペクトラル・レンズ」




 遺物を観察する遺物、スペクトラルレンズ。モノクル形で血力を流すと遺物を解析する為の道具だ。




「どれどれ……ほぉ…周囲を強制的溶解させる効果…溶解した状態が自然になるように改変か……なかなか……」




  ゴゴゴゴゴ………




 先程まで剣が刺さっていた岩が沈んでいく。




「トラップか!」




-早く逃げんぞ!-




 バチャン!


 




 大きな音を立て巨大な魚?が出現した

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