襲撃
「マナトだったか!ついてこい!これからが本当の"遊び"だ!」
慌てて付いていく。後ろから刺してやろうと思ったが想像よりも隙がない。
「ハッハッハァ!やっとだ!やっとマトモな吸血鬼のサンプルが手に入る!」
階段を1段飛ばしで駆け上がってくジェラール、息一つ切れていない。流石、戦闘に自信があると言っていただけはある。
地上に出ると建物は半壊していた。囚われていた吸血鬼達も半狂乱で暴れ回っていて状況は混沌そのものであった。
自分の身を守る方向にシフトする必要がある!外に出る。
「トゥド・センザ!来い!」
地下に行ったせいで距離は離れてしまったがギリギリ血編みを維持できていた。爆発されてコチラまで吹き飛ばしたはずだが時間がかかる。
今のうちに周囲を見渡すと上空には助けに来たであろう吸血鬼が15人程いた。司令塔であろう吸血鬼は忙しそうに支持を飛ばしている。
そばに来たジェラールを見ると指を指しながら何かを叫んだ。この距離でも分かる殺気、間違いない!殺傷命令だ!
「さて!マナト。どちらに付く?」
突っ込んでくる吸血鬼をロングソード切り伏せながらジェラールが問いかけてくる。
「と、おっしゃいますと?……あぁ、旗色次第で裏切るかもと思ったわけですか?」
…………いや、待て!!
「なぜ名前を知っている!?」
襲撃してきた吸血鬼など真面目に戦うまでもないのか意に介さずコチラにニヤニヤした顔を向けてくる。
「賢いがまだまだ経験が足らないようだな!【暴虐】襲撃以降の近辺の森は神聖騎士団の監視下にあったのだ、報告書を見ればわかる!」
トゥド・センザが上空から降ってくる。
-結局こうなるのですか……それに手荒すぎます。もうちょっと丁寧に運んでください-
「ほぉ……報告書にあった通りであればそこそこ強いと聞いている。自分の武器を取り戻せたのだ。準備はできた、そうだな?」
くそ、コイツは殺したいが戦闘を見ている限り勝てるか分からない。それに勝ててもその後この状況を切り抜けられるか分からない。吸血鬼だというだけで仲間だとは限らないのだ。
……吸血鬼たちも巻き込むが仕方ない…
"血波煌けっぱこう"!!
両手に凝縮させた血の玉を作り拍手の要領で衝突させる。
限界ギリギリまで圧縮された玉は衝撃によって解放される。が血は無理矢理握りこむ。その結果、絶大な衝撃波が生まれる!
破壊能力は強くないが衝撃波は防御関係なく人体に浸透する。弱い者であれば内臓が破裂するがジェラールであればダメージにならないだろう。
だが、怯んだその一瞬が稼げれば十分!
「マナト!せめて手合せはしないか!?一合でよい!」
ジェラールが何かを言っているがもちろん素直に止まったりしない。翼を広げ飛び立つ。
「はっ!しねぇよ!勘弁してくれ!そのうち殺しに行くから首洗って待ってな!」
"血波煌けっぱこう"のおかげで周囲にいた吸血鬼や人間は吹き飛んでいるため容易に逃走できる
少し離れジェラールを見るとこちらを指差して首を親指で切る動作をしている。はっ、上等だよ!
「いままで、よくもぉ!!!しねぇ!!」
「待ってくれ!どう見ても吸血鬼だろうが!」
奴隷として働いていた吸血鬼は判断能力が低下しているのか襲い掛かってくる。服装のせいだろうが翼を生やしているのだ、分かれよ!
血を吸って戦闘不能にしてもいいがその後を考えると気が進まない。適当にあしらっているが数が多い!
空中だと血編みが使えず拘束手段が限られるため地上に降りるが判断ミスだと気づいた時には遅かった。解放された吸血鬼が複数、物陰に隠れていたのだ。
「くそ!血もそんな足りねぇぞ!」
"血波煌"は燃費が悪い。範囲攻撃として編み出したが殺傷能力がないので多用したくない。だが……
-気づいているとは思いますがジェラールが向かってきてます-
そんなことを言っている余裕は無さそうだな…
悪いとは思うが力を失うが気は失わない程度に爪で切り裂きながら吸血していく。
ズクン…と心臓付近が脈動する。なにか血力が形を変えて体外に出たがっている。この感覚は前に化物と戦闘をしたと同じ…
目くらましの為の地面に向かって手をつき爆発を起こし……
起こし……………?
コロンそんな擬音が似合う黒い……黒く丸い球体に分かりやすく真っ白な導火線が付いている……爆弾…?
ライターで火をつける。導火線から火花が散る!危険を感じ慌てて前方に投げる!
あ。吸血鬼達がそこにいるのを忘れていた………
謝りながらどうしようか、拘束用の縄があれば纏めてどこかに放置するのにと考えていると手のひらがムズムズする。
手のひらの前を反対の手で掴むような動作をし"ナニカ"を引き抜く。血力が抜けていく虚脱感があったかと思うとロープが手から伸びていく。
よく分からないが都合がいい、烏合の衆であるこいつらを倒すのは苦労しない。動けなくなるまで血を吸い一纏めに拘束する。
ヒュン!
背後から風切り音!ガキン!と鎌で受け止める。
「君、その武器どこで手に入れたのかな?確か彼以外使えなかったはずだけどな」
-おい!見損なったぜ!誰でもいいってのかこの尻軽鎌!-
飛び退く、が……
「ヴィクトリアさん!?」
「名前がバレている?なかなかやるじゃないか、情報戦では1枚上手だった訳だな」
細剣でフェンシングの様に乱れ突きしてくる!細かく速い!鎌で防ぐのは至難の業である為避けに徹する。
恐らく奴隷の吸血鬼達を縛っているところと服装で判断されたのだろう。道中の戦いの影響で俺の顔に血がかかってしまい視認しにくいのも一因だろう。冷静になってもらう為に翼を出す。
「………?吸血鬼もいたのか??」
「落ち着いてください!俺ですよ!マナトですって!ここの前の道で喋ったじゃないですか!」
-尻軽とは心外ですね-
「そこの吸血鬼たちは半狂乱で襲い掛かって来たからしょうがなくです!」
-なんだ、ビックリしたぜぇ?血化粧とは随分男前になっちまってよぉ!-
「君、【叡智】の血族だったんだな!まさか同族と会って分からないとは私も未熟だな」
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