接待






 しばらく歩きながらいろいろな人に話を聞いた。


 吸血鬼達は全員騎士団に捕まって強制労働をさせられている。一度も人を襲ったことがない吸血鬼までいたので本当に無差別なのだろう。




 飛んで逃げれないのか、人間程度襲ってしまえばと思ったがどうやらそうは簡単ではないらしい。




 手足の枷は聖銀製で引き千切ろうとしても力が抜けてしまう、実際は吸血鬼としての力はあまり発揮出来ておらず人間より多少力が強い程度になってしまっているが根性で石持っているらしい。




 非力な女性は別の業務があるらしく、完全に隔離されているため不明らしい。だから女性はあまりかけなかったのか…




 何より致命的なのは血臓近くに小型の爆弾が1つ、仕込まれているらしい。吸血鬼としての回復力は枷や血があまり吸えてないせいで発揮できず死んでしまう。もちろん逃げれば血臓を爆発される。




 施設の人は比較的優しくしているようだ。人間と姿形が同じなため邪険に扱うのが心苦しいようだ。




 管理をしているのは司祭が数人、司教一人だそうだがそいつらの吸血鬼の扱いは施設員から見ても酷いものだそうだ。






「あの人たち、吸血鬼は生き物じゃないなんていって何してもいいと思ってるのよぉ〜?もう!偉そうにしちゃって!」


と清掃のおばちゃんが息巻いていた。






 影で隠れて吸血鬼にも話を聞けたのは有用だった。




 聞き込みをしていたらいい時間になってしまった。風呂を借り身支度を整えジェラールの元へ向かう。






 ジェラールの部屋前でメイドと目が合う。頷いているところを見るとどうやら取り次いでくれるようだ。






「ジェラール様はそのまま待つようにと仰っております。」




 頷きその場で待機していると扉が開きジェラールが出てくる。先程に比べるとラフな服装だ。




 ついてこい、と言われ、少し後ろを歩き出し連れて行かれた先は小洒落たバーのような場所だった。ドカッとソファに腰を落とすと手を上げてバーテンダーを呼びつける。






「経費で落とす。お前も好きにヤルがいい」




 バーテンダーにいつものと注文しながらメニューを渡される。ここは敵地のため油断はできない……






「え!?ホワイトマッカー45年!?これ置いてあるんですか!?」




 ホワイトマッカー45年、蒸留所が倒産してから10年。希少価値が上がり続けている伝説のウイスキーだ。




「ん?私はウイスキーはよく分からんが珍しいのか?」




 場所に似つかわしくない大きな声を出してしまいジェラールが驚いた顔をしながらこちらを見ている。




「し、失礼しました…生産会社が倒産してしまってもう作れないので希少価値が高く、もともと人気の割には生産量が少なかったので半ば幻になっているお酒でして……」




「ふむ、ではバーテン。それを2つ頼む」




「……よろしいのですか?」




 不思議といい人に見えてくる。俺はチョロいのだろうか?




 その後二人で酒を飲んでいたがジェラールの愚痴から色々と情報が得られた。




 ジェラールはここの責任者として配置されたそうだが納得していないようだ。本部は自分の価値を分かっていない、自分は前線で指揮をし吸血鬼を駆逐したいなど酒が進むほど愚痴がでてくる。




 酒は美味しいので良かったが流石に上司の愚痴に付き合わされているような気持ちになって嫌になってきた。どう切り上げるか悩んでいると驚いたことに向こうから切り上げの提案があった。






「お前のおかげで苦痛な地方任務も気持ちよく終えられそうだ。普段であれば夜は遊んでから眠りにつくが今日はそのまま寝てもよいな」




「普段はどのような遊びをされていらっしゃるのですか?」




「ん?あぁ、そうか。お前はまだ配属されたばかりだったな。…………では共に遊びに行くか。贔屓だと思われてもまぁ良いだろう」




 よく分からないが感謝を伝えると席を立ったのでついていく。廊下を歩いていると剣を掲げた騎士を模した石像がありジェラールはその剣を取ると足元の台座に差し込んだ!




 ズズズ……と像が横にズレていき下には地下に続く階段が見える。


 


「あぁ、当然だがこの事を口外したら処刑なのは分かるな?」




 勝手に秘密を見せられて強制的に約束させられた。本当の部下であれば災難だな。




「もちろんです。………しかしどこまで続くのですか?」




 カツ……カツ……とレンガ造りの壁に石の階段を降りる音が響く。




 明かりはジェラールの持っている懐中電灯のみだ。吸血鬼の為、夜目が利くので問題ないが不安になる。




「しばらくは続くぞ、吸血鬼対策してあるからな」




 ついてきたのは失敗だったかもしれない。いざ逃げるとなったら飛べるアドバンテージはなくなってしまう。トゥド・センザも持っていない。どちらにせよ大鎌振れるような広さはないが…




 更に降りていくと扉があった。ジェラールが鍵束から鍵を選び開けると真っ直ぐな長い通路だった。




 コンクリートで出来た長い廊下。左右は鉄格子になっている。中を覗き込むと……




「ぅわっ!!!」




 悲鳴を上げてしまった俺を見てジェラールは笑っている。




「化物を見るのは初めてか!そりゃそうだよな、ハッハッハ!」






 鉄格子の中にいたものはまさに化物だった。大きな肉塊に沢山の顔がついたもの。他の部屋には2mほどある人の顔をした、以上に口だけ大きな魚などもいる。






「知っていたか?これが吸血鬼の末路、本性だ」




 ジェラールは得意げに続ける




「吸血鬼は吸血鬼の血を吸わん。なぜかと思い不思議でな、無理やり口の中にねじ込んだ!するとどうだ!!」




 腕を大きく広げながら発表会のように高らかに叫ぶ。




「雑魚吸血鬼同士でも力が強いモンスターが誕生する!これで使い道のない雑魚を有効活用できる!」




 胸糞悪い、だが前に戦った腕だらけの化物からは知性を感じなかった。




「……暴走しないのでしょうか?」




「流石に賢いな、知性が足りんのだ。だが上位の吸血鬼であればまだわからん。なによりもデータが足りないのだ……その為の実験だがな」




「とはいえ今日は遊びに来たのだ。この辺りでいいだろう、奥へ行くぞ!」






 廊下をさらに進むと頑丈な鉄製の扉がある。鍵で開けるとそこには女性が何人もいる。




「ゔっ……なんですが…これ…」




 強烈な腐敗臭、手足が半分千切れているものもいれば金属でできた杭で壁に打ち付けられているものもいる。




 全員羽が切られている………!?




「これ全部吸血鬼か!!」






 壁に立て掛けられている拷問器具を手にしながらジェラールがニヤニヤしている。




「ハハ、お前には少々ハードだったかな?まぁノーマルプレイ用に綺麗なのも用意してある、今日はそっちで遊べばいい。


私は飽きてしまってね」




「なにより血を与えれば何度でも楽しめる!」




「それに壊れても化物にしてしまえば処理も楽だ、人権などもないしな」






 よく見ると人間の女性も混ざっている。血の匂いで分かる。


 コイツは生かしておいてはいけない、頭の血が沸騰していくのが分かる






 ズ……ン ガタガタガタ……




 低い音が響き渡りその後部屋全体が揺れる、化物が暴れているのかと思ったがもっと遠くからの音か…?


 ジェラールの無線機がけたたましく騒いでいる。




「…なに!?吸血鬼の襲撃だと!?強いやつはいるか!?……そうかそうか……待っていろ!逃がすなよ!」




 ニヤリと髭の生えた顎を撫でながらそばにあった剣を取り急ぎで出ていく。青い燐光を纏っているその剣は恐らく神聖礼装であろう。




 襲撃者には感謝しよう、このまま戦闘になっていたら……

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