ジェラール




「おい!そこの新人門番!こっち来い!!」






 立ち去ったであろうジェラールがこちらを手招いている、警備が申し訳なさそうな顔をしている。




「……乗りかかった船です」


 しょうがない、人助けだと思って早くせんかと急かしてくるジェラールの元へ向かう。






「遅い!いつまで待たせるつもりだ!」




 申し訳ありませんと伝えると溜飲は下がったようだった。意外単純な人なのだろうか。




「まぁよい、お前ここにはいつ頃から配属された?」




「はっ!本日です!」




「ほぉ………そうかそうか……じゃあまだここがどういった所かも知らないわけだな」




「はっ!これから勉強するところであります!」


 都合がいい、少し面倒だがこいつから聞くだけ聞いて満足したら立ち去ろう。それまでは精一杯部下を演じてやろう。




 歩いていると手足に銀の枷をつけた吸血鬼たちが腰の高さまである石を手で持って運んで歩いている。


 人間には不可能だが吸血鬼だからこそのパワーだ。




「凄いだろう?ゴミムシ共だが力だけは有り余っている様でな、有効活用している…………吸血鬼は流石に知っているな?」




 頷く。




「……ここにいる吸血鬼はどのようにして集めたのですか…?」




「私はそこらは門外漢だ。そもそもが高貴な私にここの管理など物足りない。もっと価値のある任務を与えろ!


……そうは思わんか?」




 仕事能力はわからないがこの性格じゃ地方に飛ばされるのも納得である。




「おっしゃるとおりです!ジェラール様の様な高貴な魅力溢れる方にはここは少し薄汚れております!」




 なぜかこのような媚びへつらうようなセリフがスラスラと出てくる。吸血鬼になる前何やってたんだろうか…




「家名で呼べ無礼者!……と言うつもりだったが、ふむ、おぬしなかなか見る目があるな。まぁよい。名は?」




「はっ!え…と、マルトであります!」




 名前で詰まってしまったのは不味かった。眉根にシワを寄せている。




「失礼しました!名を尋ねられる栄に浴すとは思っておらず緊張の余り……」




 ジェラールは俯いて止まっている。


 いける……か……?最悪入り口まで戻ってトゥド・センザを回収して逃げるしかないが……




「…………………っく!くくくははは!!そうかそうか!!ならば良い!!」






 上機嫌で歩き出す。こういった自己承認欲求の人間は持ち上げておけば多少粗があってもなんとかなる、運が良かった。




 石切場を過ぎると石作りのかなり大きい建物があった。




「はぁ、久しぶりによく笑ったわ。このまま私の部屋に来るといい」




「はっ!ありがたき!」




 中は質実剛健、機能性重視といった見た目である。窓には鉄格子がハマっている。しばらく歩くと見張りが二人いるところを素通りする。ジェラールは偉いのかすれ違うたびに敬礼されているし見張りも検査などをスルーしている。同行者の俺まで免除だ。






 他とは違い豪華で両開きの大きな扉の前にメイド?が二人立っている。ジェラールが近づくと頭を下げながらメイドが扉を開ける。




「「お待ちしておりました」」






 中は別の建物のようだった。石作りの壁には様々な家具が配置されている。床は全面赤いカーペットが敷かれている。




 大きなデスクに腰掛け葉巻を加えている。




 なるほど、と思いながら机にあるマッチを使い火をつける。




「よくわかっているじゃないか。どこかで使用人でもしていたのか?」




「いえ、そのような経験はありません!ただ考えれば分かることかと!」




「ふぅ〜…………まぁ私もそう思うがな、考えてもわからんものが多いのもまた事実だ。」




「君、煙草はやるか?一本どうだね?」




 一度遠慮をしてから貰う。もちろん火は自分でつける。葉巻は煙草ともまた違うスパイシーで芳醇な香りがした。




 感想を伝え素直に感謝をした。これは恐らく高いものである。




「味も分かるのか、お前は本当に優秀だな。おかげでここに来る事になって沈んでいた私の気持ちもだいぶ晴れた。


…………褒美をくれてやらねばな。夜時間は私のところに来い。よもや酒の味は分からないとは言わんな?」




「はっ!嗜む程度ですがある程度は色々なお酒に触れております!!」




 満足そうに頷くジェラール。ここで馴染む意味はないのだが必要以上に懐かれてしまった。離れるときも気をつけないと面倒そうだ。




「それでは本日は夜まで業務なしとしよう。疲れて潰れてしまっても困る故な。後ほど触れを出しておこう」




 夜に予定を入れられてしまった。だがおかげでその時間まで自由に聞いて回る事ができる。棚ぼただが助かった。




 お礼を言いつつ退出をし門まで戻る。もともとの門番も戻ってきたのか二人で警備をしているが俺に気づくと駆け寄ってくる。




「お!大丈夫だったか!?」


「俺の代わりに……すまねぇ!!」




 咄嗟に配属された新人と嘘をついてしまったこと、気に入られて夜に約束したことを伝えると驚いていた。






「はぁ〜〜、あのジェラール卿がねぇ」


「どうやって取り入ったんだよ!?すげぇな!もうホントに就職しちまえって!」




 苦笑いで誤魔化す。




「ハハ…そんなにエライ人なのか?」




 はぁ!?知らねぇのか!?とすごい剣幕で説明をしてくれた。


神聖騎士団の大司教といった立場の人間らしい。序列もよくわからないと伝えるとどんな田舎から来たのかとまた驚かれてしまった。


どうやら




 教皇、枢機卿、大司教、司教、司祭、助祭、信徒の順で偉いようだ。教皇に関してはほぼ神のような存在で顔を拝謁する事すらできないため見たことがある人はほぼ居ないとの事。






 神聖騎士団……あいつが……


 怒りが込み上げて来たが飲みのんだ。




「へぇ、そうなんですね。ではあなた方も神聖騎士団なのですか?」




「いや、俺らはただの雇われだよ。まぁここにいる殆どは雇われだろうな。」


「そうそう、吸血鬼管理してるやつらは神聖騎士団から来てるけどな。……まぁそもそも神聖教自体がここらじゃポピュラーだからな、信徒はいるだろうが」




「あぁ、ここは神聖教の施設なのですね。では吸血鬼は何かをしてここに収容されている訳じゃなさそうね」




 今までのあいつらを見てれば容易に想像がつく。なぜ吸血鬼を滅さず捕らえるのか。頑丈で人権の及ばない労働力が欲しかったのだろう。




「さぁな?まぁ神聖教じゃ吸血鬼は悪だしな。特に意味はないんだろ」




 らしいですね、と言いながら布に包まれたトゥド・センザを森へ隠す。もちろん回収しやすく細工をする。




 血編みで遠隔発動をし石切場まで吹き飛ばして回収できるようにしておく。距離が長いためキツイが威力も戦闘ほど必要なく1か所に力を絞れるためなんとかギリギリ大丈夫そうだ。








 念入りに隠していたら警備たちが不思議そうな顔をしていたので「見つかったら色々面倒なことになりません?」と問いかけたら納得していた。






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