吸血鬼でも人間でもない生物
……さま、…………ナトさま…
「マナト様!」
「!!………おはよう……?」
「マナト様、うなされてましたよ?」
ジットリと嫌な汗をかいたせいか服が纏わりついて気持ち悪い。
「はっきりと覚えてないけど嫌な夢を見た気がする……」
「大丈夫ですか?お水お持ちしました、ごゆっくり落ち着いてください」
「………ありがとう、なんかスンの顔見たら落ち着いてきたよ」
スンが手を握ってくる。
「ど、どうしたの?何かあった?」
「……なんでもありません、嫌な夢なんて忘れちゃいましょう!」
……飲んだ水の味がしない。というよりは温度も感じなければ感触もない…、分かっている。だけど今この瞬間だけは…
「あはは、マナト様は頭良いですもんね。」
「もしかして、顔に出てた?」
「今にも泣きそうな顔してますよ、気にしなくて良いんです」
「もし」
スンの手が俺の胸に触れる。
「もしも、良かったら、ですけどね?」
「マナト様の中に溶けた私の血晶。私のことをたまーに、思い出してくれたら、それが一番嬉しいです。」
陽だまりのような温かい笑顔でこちらを見ている。
「スン……あのさ…」
バツン!!!!!
「がぁ!!」
右腕に激痛が走る、剣で肩の先を切り離された。
「こんな所で寝てるなんて不用心だなぁ、騎士団様よぉ!」
吸血鬼の二人組だ。騎士団の人間だと勘違いされているらしい。テントが災いしたか。
人間だけを警戒していたがこのパターンは失念してたいた。上空から襲撃されたのだろう、血編みが反応してないな。
「まってくれ、俺は…」
「残念だったなぁ!もう右腕は俺らと違って生えて来ないんだろ?食っちまうから繋げるのももう無理だなぁ」
俺の右腕を口に運ぶ。そういえば吸血鬼の共食いはヤバイんじゃなかったか…
「待て!話を聞け!おい!」
ニヤニヤしながら吸血する。…が顔が苦痛に歪んでいく
「がっ……おい、お前もしかして吸血鬼………、がはっ……、おい、だまじたな…」
顔が青くなっていく。尋常じゃない量の吐血。
「ぐ…ぐぐ、ごぶぅ……ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ」
口を抑えて吐き出すような、喉に何かが詰まったかのような反応を見せる。隣の吸血鬼が背中を叩いて心配している。
抑えた口元から何かがチラチラと見えている…何だあれは………指のような…
「ごぽ……ごぼ、……げぇぇぇぇ!!」
大きく開いた口から腕が生えてくる、それも一本だけではない、何十本もだ!!
俺ともう一人の吸血鬼は驚いて動けないでいる。無限に思えるほどの腕が口から生えていき口がちぎれ瞬く間に腕だけで構成されたマリモのような化物が誕生する。
人の倍はあるサイズで足はなく複数の腕で自重を支え立っている。
「うわぁぁぁぁ!!」
隣にいた吸血鬼は耐えられず悲鳴をあげる。当然だ、知り合いが化物になったら悲鳴を堪えられないだろう。
化物は聴覚はあるのか振り向く。とはいっても顔がないためどちらが前かはわからないが。
無言で腕が振りぬかれ吸血鬼を弾き飛ばす。派手に木にぶつかり動かなくなる。
「吸血鬼を吸血鬼してはいけないってのはこういう事か……?いや、特別なことなのか…?」
考えている時間はない。この化物と戦う理由が無い為逃げるべきだろう。
翼を広げたときに違和感に気づく。背中にいつもいるあの邪魔な感覚がない。
トゥド・センザがないのだ。周囲を見渡すがテントに入れていたはずだ。そのテントは化物の下敷きになっている。
置いていくことも選択肢として浮かぶ。だがエアクラさんから貰った形見のようなものだ、置いていけるわけがない。やるしかない。
化物を観察する。目、耳、口、おおよそ外部を把握するための器官は見えない。だが先程は声に反応していた、内部にあるのかそれとも予想もつかない方法で把握しているのか。
今現在は俺は動いていない、音を立てていないからか化物の止まっている。とりあえず視覚はなさそうだが油断は禁物だ。全て見えていることを想定するべきだろう。
右腕がない状態ではあまりに不利であるため回復する必要がある。気絶している吸血鬼から血を拝借するべきか…?
「"血編み・茨"!!」
わざと大声で叫ぶ!化物がこちらを振り向くと同時に気絶している吸血鬼に向かって飛翔する。
化物は腕を伸ばしてくるが血の茨が拘束をする。そこはさっき俺が大量に出血した場所だ!前日に仕込んだ分だけじゃないので太く頑丈な茨が腕に食い込んでいく。
吸血鬼を掴み上空へ避難する。下を見ると茨を引きちぎった化物が先程まで吸血鬼がいた場所を吹き飛ばしている。木が根本から折れ吹き飛んでいる。
「さて、済まないけど俺を殺そうとしたんだ。血だけなら良心的だろ?」
首筋に歯を立てる。男の首筋に顔を埋める日が来るとはな…
戦えなくはなるだろうが動ける程度の血をもらい遠くに投げ飛ばす。
吸血鬼だ、この程度の高度なら死にはしないはずだ。
「さぁて、化物退治してお姫様を救いますかね。」
鎌だけど。
生やした手で顔をパンッと叩き気合を入れる。
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