認識
-起きてください、未だに脅威は去っていません!早く!-
「!!………ここは?……いってぇ!」
気を失っていたのか?周囲を見渡すが木々がざわめくだけで先程の男はどこにもいない。
死んだ…のか?いや、景色が違う。
「トゥド・センザ、ここはどこだ?」
-どこ、でしょうね、あの後謎の力に吹き飛ばされてどこか分かりません。ただ、相当な距離吹き飛ばされてました。追いかけてきている雰囲気は無いようですね-
追いかける価値すらない、か。
全身から痛みが伝わってくる。手足はありえない方向に折れているが胸の傷は塞がっていた。
血力はあまり多くはないもののある程度はあることを感じる。マルスの血を食べたのが効いたのだろう。
「皮肉だな、マルスのせいでこの状況になったのにマルスの血で助かっている。」
……いや、言い訳だなそもそも俺が気づけばよかった。そうすればスンだって、エアクラさんだって…
-あなたに非が無いわけではありません、ですが気付くのも難しい状況だったと思います-
-今はそんな事より回復に専念してください。神聖騎士団がウロウロしている気配がそこかしこにあります-
【暴虐】の襲撃の件で討伐隊が出てきているのか
「近くにはどの程度いる?一番近くてどこだ?」
-……ここから南に1km、3人です。こちらへ向かってきてはいないようです。しばらくは安全でしょう-
「分かったよ、助かる」
翼を広げる。手足が折れていたところで飛翔はできる。
血力で触手を作り鎌を掴みそのまま背中に固定する。
-なにをするつもりですか-
回復に専念しろ、だろ?簡単だ。回復に一番必要なのは食事だ。
-まさかとは思いますが……その身体で戦いにいくとでも!?-
飛翔する。木々の上スレスレを全速力で飛んでいく。
血の触手越しにトゥド・センザから位置が伝わってくる。
-やめなさい!その身体でなにができるのですか!-
「牙は折れてない。正々堂々戦うつもりもない。あいつらにそんな価値はない、ただの食事だ」
目に血力を集める、血力残量が少なくなるがそこに補給が歩いているので関係ない。夜更けだからか焚き火で温まり気を抜いている。
バカが、戦地だぞ?急降下し木々ごとなぎ倒しながら飛び突進する。
飛びながら相手の首に噛みつきそのまま上空へ顎の力だけで連れて行く。時間が無いため回復したそばから消費し血で出来た短剣を刺し吸血を早める。
カラカラになった死体を投げ捨てる。身体を回復させるより先に混乱している敵を襲撃する。
「……え?いまのって……?」
「バカ!!敵襲だよ!敵襲…が………」
「敵が来たと気づくのが遅い、バカめ」
背後に着陸し首に噛み付く。やはり一番早いのは噛み付いての吸血だ。
「きゃぁぁぁーー!!やめて!ヤダ!お願い!許してよぉ!」
「ひとつだけ聞きたい。お前らは何をしにここにいる?」
「お願いします!何でもしますから!許して!」
女は地面に頭を擦り付けて許しを乞う。日本人じゃないが自然と土下座と似たような体制になっていた。
「答えてくれ。何をするためにここにいる」
ばっ!と顔をあげた。
「吸血鬼を見つけたら、その……も、もちろんあなた様には叶いません!
あ、わ、私美人だって評判なんですよ!だから…」
目の前で女が脱ぎ始める。
鎌で首を飛ばす。どうしてもエアクラさんを思い出してしまい比べてしまう。
「穢らわしい…人間が…」
断面から血が吹き出すが吸血する気にはならなかった。
-そう思ってるなら私を使わないでくださいよ-
「……すまん…」
身体を直し動きを確かめる。ついでに設置されているテントから物資を頂いていく。
焚き火に火が灯っている内にテント内の食料を温め、またテントの中に入れていく。
-どうしたのです?-
「運ぶときに入れ物がないからな。テントごと持っていってやれば丁度いいかなってね」
テントを閉め無理やり小さくしてそのまま飛ぶ。
1キロ程度離れた所にテントを広げ直す。食事はパスタやスープなどレーションにしては味もよく非常に満足の行くものだった。
-詳しくないのですが…あなた達吸血鬼は食べてエネルギーになるのですか?-
「ならないらしいよ?でも人間の時の癖だろうな、なんか吸血だけじゃあんま食べた気にならないんだよね、点滴だけ打ってもお腹減るじゃん?」
-私には分かりませんが…そういったものですか-
-……いや、そもそも消化器とかどうなってるんです?-
そういえばそうだ。普通にトイレには行くので消化はされている…みたいだ。吸血鬼を切ったときなど断面を見るとパッと見人間と構造は変わらなそうだしな…?
沸かして水筒に入れておいた珈琲を飲みながら煙草に火をつける。そういえば久しぶりに吸った気がする
煙を吐き出すと木々の隙間から見える夜空に溶け込んでいく。
「そういやエアクラさんと出会ったときも煙草吸ってたなぁ…」
エアクラさんは煙草を吸わなかった。
「そういや結構気を使ったよなぁ…」
エアクラさん。強くて、頼りになって、優しくて、何でも教えてくれた。
「そういや、ずっと一緒に居たなぁ…」
ジジジ…と煙草が燃える音だけが聞こえる。
「はぁ…寝るか……」
-私はあなたが起きて持っていないと周辺を警戒できません。ご自身で警戒してください-
「わかってる、大丈夫だ」
手首を切り地面に垂らしていく。"血編み"の応用で巡らせた血を踏んだら分かるようになっているため警戒網として使えるのだ。
「今の血力じゃ10mが限界だけどテントが騎士団だ。確認もしないで切りかかってくるやつは少ないだろ」
-考え無しにテントを強奪したわけじゃないんですね、感心しましたがあの死体はそのままにして良かったのですか?-
……忘れていた。とはいえ今は周辺に反応もないし大丈夫だろう。
トゥド・センザをたたみテントに入り毛布にくるまる。
「おやすみ」
普段の口癖でそう言うが誰からも返ってこないことに寂しさを感じた。
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