「あれ………ここはどこだ…?」




 見渡す限りすべてが白に覆われている。右も左も上も、地面すらも。いや、地面は無い。浮いているようだ。






「マナト君。」




後ろから俺の名前を呼ぶ声がする。姿は見なくてもわかる。何度も聞いた声




「エアクラさん!!」




振り向くとダメージなんてどこにもない、いつものエアクラさんがそこにいる。




「エアクラさん!!よかった!!そうだよ!あれは夢だったんだ!!!ねぇ…聞いてよ!怖い夢見ちゃってさぁ!!…」






「ごめんね。お話たくさん聞いてあげたいんだ。でも時間があまり無くって…」






嘘だ




「その夢だとさ…エアクラさんが…」




嘘だ嘘だ!




「うん。一人にさせちゃうね…」




「嘘だ!!!向こうが夢だ!そうだよね!!そうだって…………言ってくれよ………」




「賢いマナト君なら大丈夫だよ。私の事は忘れて、沢山生きて。」




なんでこんな目に合わなくてはいけないのだ。なにもしてないだろう




「私、初めて眷属が出来て浮かれてた。マナト君に迷惑かけてなかった?」






 迷惑なんてかかってない!吸血鬼になってから何度も何度も助けられた!




「吸血鬼の常識もうまく教えてあげられなかったね…


そもそも私が常識あるかも怪しいしね!」




ニシシと子供っぽく笑う。




「そんなこと無いよ…色んなところ行って教えてくれたじゃんかよ…」




「色んなところ行ったね。楽しかったなぁ……、まだ一緒に行きたいところ沢山あったんだけどね…」






 じゃあ!行こうよ!何処だって一緒にさ!




「それにマナト君の存在証明も見てみたかったな!私の子だしきっと強いよ!」




鍛えてくれよ!時間はあるって言ってたじゃん!






「それに!まだ言語だって教えてもらってない!」




「あはは……ごめん、忘れてたかも」


頬をポリポリと掻く。






「ありゃ、もう時間あんまりないかも」




エアクラさんの姿が徐々に傷だらけになっていく。最後に見た姿にボロボロの姿に、下半分がなくなっている姿になっていく…




「マナト君。まだまだ君の人生は長い。それこそ途方のない時間があるの、私の事は、忘れて、ほしいの」






「新しい人見つけて、どこかで平和に過ごして欲しいな。……君の人生は苦難の連続だった。だからこそ生まれ変わった君には自由に生きてほしいな」




 言葉が出てこない。


 嫌でも実感してしまう、これが最後だと。






「最後にわがまま叶えさせてほしいな」






「…なんでも、いってくれ…」


 嗚咽が酷く、我ながら酷い声だ


 エアクラさんは、言わないつもりだったんだけどな…とつぶやく




「愛してるよ!マナト君!ありがとう!」








──────────────










 気がつくとエアクラさんの首筋を噛んで血を吸いきっていた。




 エアクラさんの手から小さな、本当に小さな血晶が胸に空いた穴に入れられる。




 その瞬間、体から痛みが引いていく!霞んでいた思考や視界が鮮明になる。燃えるように体が熱い!!




 「あああぁぁぁ!!」 




 体が勝手に動く、感情が抑えきれない!


 ここまで死にかけていたからか感じなかった怒りの感情が爆発する。






 胸に開いていた穴が急速に塞がる。身体が吸収したから分かる。これはスンの血晶だ!




「スン…ありがとう…これからも一緒だな…!」






 ミシミシと全身が異常なほどの強ばりが筋肉を圧迫している。体内をめぐるエアクラさんの血が強すぎるのだ。




 だが。今ならできる。今なら"アレ"が使えるとエアクラさんの血が教えてくれる!




 まるで最初から出来たかのように。自然に口から言葉が出る。




 標的を捉える。マルスが男の前に立っているので先に潰すため認識する。




 血力を爆発的に起こし血臓に送り込む。






「あぁ、これが……この感覚が概念か……」




 血臓を通し世界に訴えかける。私のワガママを通す力を承認せよ、と。




      "存在証明"「「屠殺」」






 「枢機卿さま!アイツ……ぇ……」






 抵抗する間もなく真っ二つにしてやる、上下半分だ、!




 屠殺はおそらく"食事"の概念だ。抵抗することなど不可能である。マルスから血が集まり自分の前で小さな塊になったので飲み込む。




「次はお前だ!」




 男に狙いをつけて発動しようとする……が、やり方が分からなくなっていた。






「……ふうぅ…焦ったがなぁ…もう使えないんじゃあないかなぁ?」






 トゥド・センザを構える。エアクラさんが負けたとは思えない。俺を庇って負傷したところを狙われたとしか思えない。




 勝てないとは思う。がせめて一矢報いるくらいは…!




「これでも、戦えるぅかな?」




 エアクラさんの血晶を盾にしてくる。赤と紫が混ざったような不思議な色だ。




「ふふふ…はははははぁ!残念!負けのようぅだねぇ!!」




   "ネガティオ"「Χρόνος(クローノス)」


 






 自分の立っている位置からとてつもない不思議な力を感じる。嫌な予感がしたため飛び退くが金属を引きちぎったかのような破壊音が聞こえ始めると同時に引きずり込まれそうになる。




「トゥド・センザ!ごめん!」




 咄嗟に大鎌を振りかぶり不思議な力に向かって切りかかる。






バチンッ!!!






何かが弾けたような、電気がスパークしたかのような音と共にエネルギーが爆発すると同時に意識が吹き飛ぶ

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