枢機卿
「ぁぁ!マナト君!!」
エアクラさんの悲痛な叫びが聞こえた。
自分の右胸も大きな穴が空いている。通りで喋れないわけだ。
空中で灰になってしまったスン、まだそこにいるような気がして何もない空間を抱き寄せる。血晶までもが灰になってしまったようで地面にはお揃いのブレスレットだけが落ちている。
「俺ねぇ、ダブルスコアってのかなぁー?ゴミどもはまとめて倒すのすきなんだぁよねぇ」
「枢機卿!さすがです!」
「マナト君!逃げて!」
エアクラさんが俺の前に庇うように立つ。
「ガブ……エァく……エアクラさん…」
うまく喋ることができない。血が喉に絡む。
「逃げて、マナト君!後で追いつくから好きな方向に!早く!」
「えぇ、逃がすわけぇ、なくないかなぁ?
穿けぇ」
俺の前に立つエアクラさんに大きく太い槍が向けられる、漫画で見るような大きく太い騎兵槍。
大神槍「ボルテガ」
無音で槍から光線が放たれる、エアクラさんは左腕で弾くがボロボロになっている。腕の皮一枚でなんとか繋がっている。
「お願い!マナト君!逃げて!庇いながらじゃキツイの!」
俺がいる事で邪魔になってしまっている。俺のせいでエアクラさんまで!
足手まといなら逃げなければ……!スンのブレスレットを手に取る。
胸に大きな穴が空いているからか力が入らない。膝に力を入れるが一向に立てない。
痺れているとかではなく全く力が入らないのだ。感覚はあるものの長い棒がついているだけで自分の意志で動かせない。
息を吸う、どんなに息を吸おうとしても入ってこない。横隔膜がないのだから呼吸が出来ない。苦しい、!血が流れ落ちて行く…
腕は…動く。腕の力だけでなんとか体を引きずって動く。
「アイツです!枢機卿様!アイツが手引した疑いのある吸血鬼です!」
金髪の女性がエアクラさんの後ろから出た俺を指差す。手引した…?なんの話だ…
いや。気にしている場合ではない。茂みに入れた。なんとか木を使って立ち上がれるくらいに回復した。吸血鬼は呼吸さえ本来は必要ないのだ。肺に穴が空いていても関係ない。
翼を出すがまっすぐ飛べない。高度をあげれば敵の光線に狙われるだろう。
「うぅん。逃がすと面倒だぁね。疲れるけどちぉっと頑張るかぁ」
"ネガティオ"
そう聞こえた瞬間エアクラさんが血相を変えこちらに向かってくる。
「Χρόνος(クローノス)」
金属を無理に引きちぎったかのような甲高い破壊音がする。
「マナト君!ふりむかないで!はやく!!逃げてよぉ!お願い!」
木にぶつかりながら逃げていくことしか出来なかった。
フラフラと飛び回って何度も木に激突した。
「ガフッ……ぜぇ……傷が、………塞がらねぇ……」
-あなた何者なんですか…-
トゥド・センザが声をかけてくるが返事をしている余裕はない。
-私を使えるのはあなただけです。死んでほしいわけではありません-
-色々と気になる点はあります。でも今は生きてください。逃げる体力がなければ隠れてください-
「あ、ああ。少し落ち着いた、ありがとう。」
翼を維持できる体力がなくなり落ちる。見渡すと都合よく岩壁に小さな穴がある。
近くの草葉をとりバレないように体に巻きつける。
………………はぁ………
少し時間がたち落ち着く。エアクラさんは大丈夫だろうか…
"ネガティオ"初めて聞く単語だ。あとに聞こえた音もこの世のものとは思えない音だった。
何をすればあんな奇っ怪な音を立てれるのだろうか。
あの枢機卿と呼ばれた男、間延びした喋り方ではあったがあのエアクラさんがあそこまで言うのだ。相当なのだろう。
見た目は肌が青白く不健康そうであった、髪は灰銀色、中肉中背で決して強くはなさそうであった。
それになぜバレたのだ、ブレンシュさんを追っできたのであれば早すぎる。俺達より早く人間が移動できるわけがない。
「ぐぅ……くそ…、傷が……痛む…」
痛みに耐えかね拳を強く握る、チャリと握ったブレスレットが音を立てる。
スンの最後の顔が脳裏に浮かぶ。まだ実感がない。
いつもは自信なさげに笑うスン。再開したときは満面の笑顔だった。
「いったいスンが何をしたっていうんだよ…」
誰よりも優しかった、みんなに気を使ってスンの周りは笑顔で溢れていた。
「ッ……!!!!」
大声で叫びたくなる。意味なんてない。だが叫びたくとも叫ぶわけにはいかない。
意味もなく叫び見つかるわけにはいかない。
遠くから足音が聞こえる。馬の足音……か…?それに人間の足音が1つ追随しているようだ。
「おーーい!マナトだっけか!?どこに行ったんだよぉ!あたしに恥かかせやがって!逃さねぇぞ!」
近くを通りかかる、さっきの男と女だ!
……………女の方はよく見ると顔に見覚えがある……マルスさんだ!!
あの、気まずくなった!あの女だ!村の人間じゃなかったのか!?
店主のおっちゃんは「ん?この村じゃこの果物は有名だからな、みんな知ってるぜ?」と言っていた。あの果物に興奮作用があるのは周知の事実で誰も引っかからないと。
なぜマルスさんは知らなかった……?
"村の人間じゃなかったから"………。
思い返せば他にもあった。エアクラさんの家には異性が食事として来なかった。つまりそんな風習はない…?
騙された。そう思い敵を見ると……男は馬に乗り片手でエアクラさんの首を持っている。何か違和感を感じてよく見る
下半身が、ない!
そう。右の脇から左の腰にかけて斜めに引きちぎれた跡がある。そこから下が存在しない。
あまりの光景に声が出そうになるのを手で必死に抑え我慢する。
「もう、いいでしょお、血臓撃ち抜いたぁし。多分消滅してるぅんだよぉ。」
「枢機卿様!でも……」
「逆らうのかぁね?」
マルスは青ざめ土下座している。
「分かればいいぃんだよ、じゃあこの女はよぉ済みだ。」
枢機卿と呼ばれた男は首を掴みエアクラさんの体を掲げる。そして反対の手で断面から手を入れ引き抜く!!
「んんうぅ、キレイな血晶だぁ〜」
ガフッとエアクラさんの、口から大量に吐血する。
「エアクラさん!!!!!!」
叫んでしまった。気が付く前にはもう声になっていた、!
「んん?しぶといなぁ?」
男がエアクラさんの体をすごい勢いで投げつけてくる。
正面から受け止めようと体制を整えるとエアクラさんの瞳が開いた!!
「もう、マナト君ったら。私の事見捨ててよかったのに……」
飛んできたエアクラさんの手が首に周り抱き締めてくる。
「口、開けて?」
エアクラさんの強い意志を感じ、意味も分からず口を開ける。ニコリと笑ったのと同時に強い力で抱きついてくる。
そう、エアクラさんの首に俺の歯が食い込み、皮膚が破れる勢いで。
「いいよ。吸っちゃっていいよ?」
口内に血液が流れた瞬間に世界は白く包まれる。
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