【暴虐】の王
全力飛翔する。エアクラさんに待ってもらうように声をかけるがニヒヒっと笑うばかりで一向に速度を落としてくれない。
というよりよく聞こえるな。俺は風切り音だけで周囲の音なんか全く聞こえない。
血力を通常より多く使うのであまり使いたくなかったが血で出来た翼を1対生やす。これでもともとの翼と合わせ2対の翼の完成だ。
エアクラさん程でないが速度が格段にあがる。
「どーだ!!どんなもんよ!!」
エアクラさんはびっくりした顔をして減速、隣に来る。
「へぇ〜、そんな力の使い方あるんだねぇ…」
感心感心といった表情だ。エアクラさんに認められて気持ちよくなりドヤ顔で返す。
「単純に翼の枚数増やすだけじゃうまくいかなくて動かし方にもコツがあってさ…」
ドヤ顔で説明しているとさらに速度が上がる。手加減してあげてたんだよ?と幻聴すら聞こえる。もう目では見えないところまで飛んでいってしまった。
「俺ここまでやってんのに?」
-毎夜バレないように練習していたのも無駄でしたね?-
ため息で返すしかない
エアクラさんが遠くから戻ってくる。その姿を見て驚愕した。背中に3対の翼があるのだ。
もともとある翼に2対の血で出来た翼、計六枚だ。
動きこそまだ鈍いが速度は段違い。すれ違ったのもエアクラさんが遠く後ろに行ったあとだった。
「本当だ!これ面白いね!すごいすごい!」
-モノが違いますね、才能ですか-
「はぁ、勝てないなぁ…結構自信あったんだぜ?」
ビタッと隣についたエアクラさんがこちらを見てくる。
「これほんと凄いね!よく開発したねー!楽しかった!」
すごく機嫌良さそうだしまぁいいか。
-惚れた弱みですか、単純なものですね-
やかましい!
「エアクラさん!結構来たような気もするけど!まだ遠いの!?」
風切音が凄く喋るため声を張り上げる。
「そろそろ見えると思うよ!彼女!目立つからさぁ!」
目立つと言っても人間サイズじゃ点だ。……【暴虐】だから森林火災にならなきゃいいが、幸い遠くまで来たおかげで周囲は岩肌ばかりの山岳地帯だ。
もうしばらく進み山頂を越えると大きな火の鳥が見えた。山が遮蔽物となり隠していたのだ。
「あれがブレンシュだよ!」
あれが?人間型でもないじゃん!
「遠いから見えないかな?真ん中にブレンシュがいるんだよ!」
遠近感のせいでバグるが山一つ向こうなのだ。山を越えたから見えるようになっただけ。実際は目線の先にある山に居る。
「え!?あのサイズの火を一人で出してるの!?」
徐々に距離が詰まっていき視認できる距離まで来る。羽がパラパラと落ちているようだが、触れた箇所が瞬時に発火、爆発している。
背後に神聖騎士団が追ってきているようだが降り注ぐ羽のせいで動けないでいる。
100人くらいいるだろうか。別に何でもないといった顔でいなしているどころか好きがあれば火でできた剣を空中に生成して投擲している。
剣と表現したが実際は人間サイズだ。
「おーーーーい!!ブレンシューー!!久しぶりーー!!」
「あ?………おお!エアクラではないか!!久しいな!!」
エアクラさんがブレンシュさんに突っ込んでいく。鳥の形をしている火などお構いなしだ。実はあの炎は実体じゃないとか……?と疑ったがそれはない。10mほど離れている俺は肌がジリジリと熱が伝わってくるのだ。
「エアクラ、日本に居たそうだな?私もその時期にいたのだ!挨拶に行こうと思ったが行き違いがあったようだ!」
ブレンシュさんは豪快に喋る人だ。赤いタイトなドレスに見を包み優雅に空を飛んでいるが所作からは想像つかない喋り方をする。
「やっぱりそうだったのね。何人か食べちゃった、ごめんね!」
鮮やかな赤いロングヘアー。前髪を無造作に掻き揚げながら豪快にブレンシュさんは笑っている。
「はっはっはっ!!力の差も正確に分からず襲いかかったのだ、無残に打ち捨てられるよりエアクラに食べられたほうが幸せだろうな!」
妖艶なお姉さんといった風貌だが"根性!"といった正確なのだろうか…?
「そういえば紹介したいんだけどいいー?」
銃弾やら光線やらが飛び交う戦場で話す会話ではない気がする。
光線!?と驚いていると当然と言わんばかりに空を歩いている神聖騎士団と思しき一団が地面から上がってくる。
「暴虐の王よ!返してもらおう!」
何やらリーダーの様なおっさんが手を出しているがブレンシュさんはキレていた。
「オマエラが先に奪っておいて何を言う!我々よりよほど化物ではないか!」
ゴォ!と火力が更に上がる。
「ねぇ、いま会話してるって分からない?……次邪魔したら駄目だよ?」
エアクラさんも機嫌が悪そうだ。
本能的にかリーダーらしき人はたじろいでいた。
「……そこの女、何者だ!邪魔するなら」
「ブレンシュ、間引こう。うるさい」
「…久々の共闘!鈍っていたら許さんぞ!」
"存在証明"「「豊穣の神」」
エアクラさんがそうつぶやくとエアクラさんの形をした血で出来た人形が地面や何もない空間から生えてくる
"存在証明"「不死鳥」
火の鳥が消え去り代わりにブレンシュさんの背の翼が炎になっていた。先程までの圧倒的大きさを凝縮されたであろう翼だ。
更に周囲には人の腕ほどの剣が円形に10本ほどならんでいた。
「総員構えろ!神聖礼装の使用を許可する!」
「「遅い」」
神聖騎士団の面々が武器を構えるまえに二人は攻撃を開始した。
ブレンシュさんはロケットエンジンの要領で急加速し敵陣に特攻。向かっている最中も剣をミサイルのように射出し近くにいる騎士団員を燃やしていた。
敵陣に潜り込んでからはまるで龍のようだった。後頭部を火で出来た鉤爪で掴み振り回す。そのまま敵騎士団員を武器にしているのだ。
背後からの攻撃には背後で浮いている剣で迎撃しているが射出した瞬間に補充される。今の俺では剣が射出された瞬間しか捉えられない速度だ。
エアクラさんは血の分身を操り襲わせている。それだけなら対応できそうなものだが分身に気を取られた瞬間に何もない背後から血で出来た剣や槍に貫かれるのだ。当然血を吸い尽くすまで剣は離れない。
背後からの攻撃をくらい血で出来た武器を折ろうとすると今度は前方にいる血分身が抱きついて噛み付くのだ。どうやらそちらのほうが吸血は早いらしい。
……初見殺しだ…
「エアクラ!面倒だ!一気にいくぞ!」
「はぁ、あなただけで十分でしょ?離れてるわよ」
エアクラさんはため息を吐くとくるっと後ろを見る、俺と目があうと「あ」と一言、先程習得したであろう血の羽を3対、計8枚展開する。
「いくぞ!人間ども!消し飛べぇぇ!」
ブレンシュさんの渾身の叫びが響く。
"凝結"「焼失」
グッ!ととんでもないGがかかったと思ったら道中の山の山頂にいた。
「ふぅ、危ない危ない。忘れてたよ…」
どうやらエアクラさんに抱きかかえられてここまで飛んできたようだ。全く気づかなかった…
「マナト君、せっかくだからよく見とくといいよ。これが彼女、火剣のブレンシュ。【暴虐】の血族が暴虐と呼ばれる所以だよ。」
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