夜2


キュポン




 エアクラさんが蒸留酒を開ける。からかい尽くして満足したのか鼻歌を歌うほど上機嫌だ。




 俺は散々照れて顔が火照っている。お酒のせいにしたいがエアクラさん同様酔ってないことはバレているはずだ。お互い詳しいとこういったとき面倒だ。




「それじゃ改めて!」




「「乾杯!」」




再度グラス同士の澄み切った音が響く。涼し気な音で顔の火照りが収まるような錯覚を覚える。




 先ほどとは違い透明でサラッとした液質。アルコール度数が強いからか口に入れた瞬間パッとリンゴの皮の様な青い匂いが広がる。


 後からサラッとした甘さが口内に広がる。十分に堪能してから嚥下する。喉が熱く焼ける。






「ぁあ!、やっぱキッツいねこれ」




「ね!でもサッパリしてて美味しいね!」




うん、いけるいけると言いながらグビグビ飲んでいる。これ度数50%あるんだけどな?




それから色々とこれまでのことを話した。




「そういやここらへんピリピリしてるの、暴虐の人たちが近くの神聖騎士団の基地襲撃するとかなんとかって言ってたよ」




「え?そうなの?…………ここらだとそんなに近くはないかなぁ、でも変な時期に来ちゃったなぁ…」




「だからちょくちょく来る途中に遭遇したっぽいね」




「あー………それは良くないなぁ……うーん、ブレンシュが来ないんなら良いんだけど、多分この規模だと来るんだろうなー」






 ブレンシュさん、なんか偉い人だっけ?二人ともお酒が回ってきたのかだんだんと会話が軽くなってきたし呂律も回らなくなっている。


 血力で浄化できるがあえてしない。ひどい酔い方をしない限りこの状況、酔を楽しむものだ。










「あれ、そういえば果物いっぱい貰ってたのどうしたのー?」






「ん!?んん、あれね、少し食べて置いてあるよ。すぐ腐るものでもなさそうだし」




「んー?そっか。オツマミには………ならなそうだしねぇ…」






 エアクラさんは机にもたれながらグラスをツンツンとして遊んでいる。


 ボトルに残っている最後の一杯をエアクラさんに注いであげる。






「お酒なくなっちゃったね。買いにいく?」




「もうお店もやってないんじゃない?……あ、この前買ったのがまだあったかも!」




 エアクラさんはフラフラとした足取りでキャリーからウイスキーを出す。






「エアクラさん大丈夫?普段より酔うの早いし疲れてた?」




「えへへ〜。大丈夫大丈夫!せっかく来てくれたしね!今日は飲も!」






 ボトルを受取自分のグラスに受け取る。琥珀色の液体がグラスを満たしていく。




 口へ運ぶとアルコールと樽の香りが鼻に抜けていく。チョコレート、ゴム、胡椒のような香りがし余韻が心地良い。




 ポケットからタバコを出しライターで火をつけるの。口の中に残っているウイスキーの香りと共に肺に流し込む。






「ふぅー。エアクラさんこれ結構いいやつでしょ」






「お!マナト君なかなかわかる人だねー!」




 エアクラさんはグラスに入っているお酒をぐいっと飲み干し催促してくる。




「程々にね?」




 そう言いながらグラスにいつもより少なめに注ぐ。何かを訴えかけてくる目線をしていたが無視して蓋を締める。




「そういえば色々な場所連れて行ってくれたじゃん。俺以外の継戦の血族あったこと無いけどどのくらいいるの?」




「それがねぇ〜、マナト君だけなんだよねぇ…」




 マイナーだと言われたから人数ば多くないだろうと思っていたが俺だけだとは思いもしなかった。




「私とマナト君だけ。それ以外にはだーれもいない。マナト君が初めての眷族」




「そうなんだ……。吸血鬼にとって眷族ってなんなの?」




「うーん、難しいね。作り方は前言った…っけ?まぁ吸血したぶん代わりに自分の血を入れていくんだけど…」




「そうだね、眷族って家族作りみたいな物かな。でも吸血鬼になった時から眷族にも自我があるし……人間で言うと親戚みたいな感じになるのかなぁ?」




「へぇ…エアクラさんはなんで眷族全然作らなかったの?」




「作ろうとしたこともあるよ?でも何故か【継戦】の血族になれる器がいなかったの。血を入れると皆死んじゃって…


マナト君は眷族作るとき気をつけてね?多分相手殺しちゃう事になるから」




吸血鬼に必ずなれるわけではないのか、適性?のようなものが存在するみたいだ。






「気をつけるよ。……まぁ多分作ることはないと思うけどね」






「そぉ?まぁそのうちあるかもしれないから心に留めておいてね。マナト君はモテそうだからなぁ〜そのうち女の子が沢山眷属にしてきてって集まっちゃうかも」




 頬を膨らませ唇を尖らせながらこちらを見てくる




「大丈夫大丈夫、俺はエアクラさん一筋だからね」


 普段なら照れて冗談でも言えないが今日は色々あってタガが外れているのかサラッと言える。




「そういうところだよー!まったくもう!……でも全部冗談って訳じゃないんでしょ〜?」




 ニヤニヤしながら机の向こうから身を乗り出し目の前まで迫ってくる。


 若草色の瞳がこちらを猫のようにからかう目で見てくる。暖炉の火がチラチラと反射している。小さな唇は血が付いているかのように真っ赤だ。




ちゅ。




 どちらから、というわけでもなく唇が重なる。動けずに唇がくっついたまま動かない。




 パチッと暖炉の火が爆ぜて正気を取り戻したかのようにお互い離れる。




 えへへ…と顔を真っ赤にさせながら椅子に座り直すエアクラさん。その姿が愛おしくて仕方がない。


 


「エアクラさん……ごめん」




席を立ちエアクラさんの横に行く。エアクラさんも自然と立ち上がりこちらを向きじっと見つめてくる。瞳は火のせいか揺らめいているように見える。






「マナト君…嬉しいけど…………私おばさんだよ?」




 年齢は気になるが今は気にならない。見た目は18程度の少女なのだ。年齢で気にする事があるとすれば倫理だろう。




「何言ってるんだか、エアクラさんはエアクラさんでしょ?」




 抱き寄せ再び唇を重ねる。舌を入れるとびっくりしたような声が漏れるが受け入れてくれる。少し体が硬直している。……本当に不慣れな少女を抱いているような気持ちになる。




 続けていると力が抜け、抱き締めてくる。息継ぎの為に口を離すとお互いに息が荒くなっていた。






「……マナト君……このまま泊まっていく?」




もう一度軽くキスをした。

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