良くわからない男に遭遇してしまったせいでいい時間だ。田舎は夜遅くまで店もやってないだろうしさっさと戻らねば。




 吸血鬼の多い村だし飛んで帰ってもいい、が先程のことを考えると走るべきだろう。




 女性の家に行くのにあまり汚れていくべきではないなぁなどと考えながら走り抜ける。地面が比較的硬い土なので汚れずに済、店前に到着した頃には店主が店じまいしようとしていた。






「おっちゃん!ちょっとまって!」






「ん?おお!兄ちゃん!どした??急ぎか??」




「お酒ってなんかオススメのある?2本くらい見繕って欲しくてさ」




「名産ってほどじゃないが果物を醸造したものとそれをさらに蒸留させたものもあるが…どっちがいい?どちらもここ近辺でしか取れない果物だからな!珍しいぞ!」




 醸造したものはアルコール度数が12程度。それを蒸留したものは50%とかなり強いようだ。




 迷ったがエアクラさんは結構お酒強いみたいだし、アルコールが強いものを好んでるイメージがある。……まぁ吸血鬼は酔ってもその気になれば血力で浄化できるのもあるんだろう。






「あーー……迷うしもう両方頂戴!」




 実は旅をする過程で神聖騎士団からお金を剥ぎ取っていたのだ。ほっといても土に埋まるだけだし市場に返さなきゃと思ってね!……ここでも使えるかはわからないが米ドルだし…






「まいど!……………そういやどうだったよ?あの果物役にたったか?


…実はな、緑の果物は女性に覿面でな?悪用しないようにってお触れが出てるんだ」






「っても村じゃ全員知ってるから誰も騙されないがな、ガハハ!


兄ちゃん達みたいに外部の人間しか騙されないってわけよ」








 大爆笑といった感じで笑っている。そうだ、思い出した!このおっちゃんのせいで…!!




「そういうことか!!おっちゃん騙したな!!あれのせいで相当気まずいんだぞ!!」






「そーかそーか、それはスマ……ブフっ、スマンな…っ」






 申し訳なさそうな顔をしようと努力をしようとしているが全然抑えきれていない。






「はぁー、もういいや、ほら!お金置いてくからね!じゃ!!」






 お金をカウンターの上に置き酒を二本持っていく。後ろから店主の爆笑がまだ響いている。






「ご機嫌とりの酒か!そりゃすまなかったな!今度また来いよ!1本くらい土産用に奢ってやるからなぁー!」






 ちっ、悪意がないから余計に質が悪い。おっさんのお節介ってわけか!!






 はぁ、迷彩男のおかげ?ですっかり忘れてたが気まずさは以前変わらず家に戻れないのだ。


 路地を2回ほど曲がったところがエアクラさんの泊まっている場所だ。






 家の前まで来て気がついてしまった。そういえば俺のところに来たのだからエアクラさんの家にも来ているのではないか?


…異性だから男の人がきている…のだろう……






………モヤっとする。あまり認めたくないが、嫉妬だ…。長く生きているみたいだし確実に過去にもあるだろうが…一緒に行動している時にあまりそういったことは考えたことがなかった。






 自分が"そういった事"になった際はエアクラさんを思い出して思い留まったのも大きな原因だろうがなんかムカつく。






……ワガママだって事も理解しているが…なんだかなぁ……理性と感情は割り切れないってところだろう。








「はぁ、どちらにせよ入りにくいなぁ、1人で飲みいくっていうのもなぁ……店とか無さそうだし……」






 酒瓶も邪魔だ。重くはないが袋に入れているわけでもないのでちゃんと荷物になってしまっている。




 ツマミでも買って適当に森の中で飲むかぁ……?野宿で慣れたしなぁ…さっきの迷彩男と会うかもと思ったがそしたら一緒に飲むように誘うか…??






「あれ?やっぱりマナト君だ?恋しくなっちゃったのかな〜??」






 ガチャ、と扉が開きエアクラさんが上半身だけだして不思議そうな顔している。




 目敏く酒瓶を見つけたのか、お!マナト君も分かってきたね!などと言って手招きしている。


 同じ環境のはずなのにエアクラさんの家からはいいにおいがする……気がする。特に男とかいなくて安心してしまった。






 そういえばエアクラさんになぜ帰りにくいか説明するのは嫌だなぁ。でも確実に聞かれる。言い訳考えてから来ればよかった。








「急だね?マナト君がお酒持って来るなんて珍しい、どうしたの?




……まさか本当に恋しくなっちゃったかな〜?」






 頬に人差し指を当てながら可愛らしい、憎らしい笑顔でこちらを見てくる。


…困るのがあながち違うわけでもないところだ。




 返答に詰まってしまう。




「…え?本当に?」






 びっくりしたような顔で俯いた俺の顔を覗き込んでくる。


恥ずかしくなり赤くなった顔が更に赤くなる、これなら言ったほうがまだマシだ。






「あ……そっか……嬉しいな……」






 何故かエアクラさんまで赤くなっている。普段ならここぞとばかりにからかってくるはずなのに。


 ちゃんと可愛らしい反応をされるとそっちの方が困るのだ。なんとも言えない空気が部屋を支配している。






「そ!そうだ!エアクラさん!このお酒さ!ここでしか取れない果物から作ったお酒だってよ!」






「そ、そうなんだ!せっかくマナト君が買ってきてくれたんだもんね!飲みましょ!」






 二人してここぞとばかりに話題に乗る。少し面白く思ってしまった。






 エアクラさんがお気に入りのグラスをシンクから取り、注ぎ始める。エアクラさんはお酒を飲むときこのグラスを使う事が多い為キャリーに常に入れている。キャリーを割と乱雑に扱うが梱包がしっかりしているのか割れていない。




 手渡されたのは綺麗に洗われている、透明なロックグラスだ。キラキラと光を反射してコレそのものが宝石のように煌めく。入れるお酒の色や光源の色によってテーブルが色々な光を見せてくれるのがお気に入りだそうで俺も同じものをもらった。








 見た目の割に重いのは鉛の入ったガラスを使っているからだとか。ガラスの良し悪しは詳しくないが、このグラスで乾杯したときの音は確かに美しいなと思った。






「「乾杯」」






 風鈴の様な余韻の長いキレイな音がした。野営で飲むときもこのグラスをよく使うため聞き慣れた音だ。安心感すら覚えるほど聞き馴染んだ音だ。




「甘くて美味しいね!買ってきてくれてありがとう」






 白濁したピンク色。果肉が入っているのかトロリとした、少しざらざらした舌触りだ。


 酸味はほぼ無く、甘くフルーティーだが少しさっぱりとした香り。知っているフルーツだと桃とリンゴを混ぜたような感じだろうか。




「そういえば良く家の前にいるって分かったね?」






「人影がしばらく立ち止まってたからね〜、雰囲気で、あ!マナト君だっ!てね」




「全然気軽に入ってくれても良かったのに、どうしたの?」






「あ、いや。男の人とか居たらなんか悪いかなって」






「ん?私そんなふうに見えるかな?」




「え?来なかった?俺のところは女性が食事だって訪問してきたけど」




「う〜ん、お風呂入ってたときに来たのかなぁ?特に誰も来なかったけどな




……妬いちゃった?」






これも藪蛇だったか。沈黙は金などと言う。先人に習うしかない。




「マナト君はー、どうしたのかな?」






 椅子を立ってまでわざわざ近くまで来る。むふーなんて鼻息を吐きながら




「ねぇねぇ、教えてよー」




 後ろに回って抱きついてくる始末だ。




「エアクラさん酔ってる?」


 意味のない反撃しか出来ない。




「…酔ってるかも…ね?」




 耳元で囁かれる。今日はどんな日だ。こんなイベントばっかか。




「マナト君が介抱してくれるのかな…」






「…………エアクラさん、こんなんじゃ酔わないじゃんか…」




 童貞になった気持ちだ。……いやまて、童貞じゃないよな…?記憶にないから実質童貞なのか…?




「まぁね〜。キツイ方開けよっか!」






満足したのか離れて蒸留酒を開け始める。




 はぁ…やっと開放された。


………ちょっとだけ残念な気もしないでも無い。

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