不意遭遇
「あーー!!やっちまったぁ!」
気が動転して出てきてしまった。なんかまだドキドキしている。
「いや、意味分からないよな、ほんとに」
自分でも意味がわからないのだ。マルスさんなんてもっと意味分からないと怒っているだろう。
つかなんで俺は逃げたんだ?別に逃げる必要は無かった気がする。やる事だけやって何事もなく明日を迎えれば良かったんじゃないか…?
「ああぁぁぁぁ!」
頭を抱えながら言葉にならない雄叫び?をあげる。周囲の人がビクッとしてヒソヒソとこちらを見ている。
「あ、いや……すいません……大丈夫です……」
早歩きでその場を去る。チャリ、とブレスレットの音がし、スンのことを思い出す。「大丈夫ですよ!マナト様!」とスンが言っているような幻聴が聞こえる。
あー。気が多いな俺…
村の端まで歩き途方に暮れる。マルスさんは流石に帰っているだろうが万が一いたら鉢合わせたくない、ので帰りにくい。
まだ恥ずかしい気持ちが収まらずいても立ってもいられない!お風呂に入ったばかりだが森に向かってモヤモヤした気持ちを振り切るように全速力で走る!
道のない道を走っているため木々を避けながらになる。走る事に集中するので考え無くてよいため非常に気が楽だ。が、たまにマルスさんの顔が脳裏をチラつくため「ぁぁぁぁ……!」と声にならない奇声を発する。
誰もいないし!ね!
遠くから悲鳴が聴こえた…気がした。かなり遠いのであろう。聞き間違えかもしれない。奇声を上げながら走っている人を見たらそりゃ悲鳴くらいあげるか…
そうして10分ほど走ると違和感のある場所に出る。
周囲を見渡すとおかしな所はない。だがなにか違和感を感じる。
「なんか気になるんだよな。でも特におかしい所はないしな」
雑草がやたら倒れてる…?動物が座っていたのであれば自然…か?いや、1か所に長時間動物が居座ることはないだろう。巣でも無さそうだし。
いや、普通に酒瓶落ちてるわ。宴会でも開いてたのかな?中途半端に減っているところを見ると飲んでて獣に襲われそうになり逃げたってところか。
「あ、それいいじゃん。」
エアクラさんの家は知っている。寂しくなったの?とからかうように言われるのは目に見えているがまぁ良いだろう。
突然の訪問になっちゃうしお酒でも持ってお邪魔しようかな?そういやおっちゃんの店、果実酒みたいなのもおいてあったし地酒的な感じていいかもしれない。うん、それでいこう!
決まったら急いで行こう。思い立ったが吉日とやらだ!
「………深追いはせずに報告に行くか。慎重だな…」
全身を迷彩服で覆った男が夕暮れの時の木の影から現れる。
「こんばんは…には早いですかね?」
強いのだろう、全く気付かなかった。会話で時間を稼ぎ相手の武装をを見る。
武器はアサルトライフル、暗視スコープのようなものがヘルメットについてる。吸血鬼であれば夜目は効くため人間だと予想できるがブラフの可能性もある。
「いや、もう夜だ、お前らの時間だろう?」
「私の…ですか?そろそろ寝る時間だと思いますが」
俺が吸血鬼だと思えるような言動はしていないはずだ。
「はっ、都市部でもないここの奴らが吸血鬼の存在を知らないわけがないだろう。しらを切るにしても下手だな、吸血鬼」
失敗した。ここらの人間はヴィラジョしかいないのだった。であれば吸血鬼の存在ありきの会話になるのか。
「……で、なんの用ですか?ここで酒盛りするのが趣味の軍人さんですかね?」
顔を迷彩にペイントしている為か表情が読み難い。
カチャと銃器が揺れ動く。こちらも血力をバレない程度に巡らせる。最近言われたことだが急激に血力を回すと瞳が赤くなるらしい。血が濃い吸血鬼にはよく見られる現象だそうだ。
「なぜ気づいた?」
「…………申し訳ない、なんの事か分からないな」
血力が満ちたためトゥド・センザに手を伸ばそうとする…が無いことに気づく
こちらの動きに反応したのか迷彩男は腰を落とし銃をこちら目掛けて乱射してくる。
忘れたものは仕方なく血で鎌を作る、銃弾を弾こうとするが鎌が砕けたため木の影に隠れる。
「お前…暴虐じゃないな…?何をしにここに来た」
聖銀の弾のようだ、触れたところから血力が散るため鎌の形を維持出来ず砕けたようだ。
鎌では木々の間で取り回しが効かない為、剣に再形成しつつ答える。
「ああ、噂は聞きましたよ。なるほど。そりゃ勘違いするわけだ」
剣を自分の相手の間に放り投げ、両手を上げながら木の影からでる。
なんのつもりだ、と聞かれるが話し合いが必要だと思ってね?と返す
「ピリピリしてるのは襲撃の噂ですよね?私は単なる旅行客ですよ。簡単な話です、斥候するならここの村にいる意味はないでしょう?」
周囲が暗くなってきた為か訝しむように暗視スコープを装着している。
「この場所に来たのも色々あってランニングしてただけです、私が去るときそんな深刻そうな顔してました?」
「規模感は分かりませんがこの村に自然に紛れるだけの人員でどうにかなるようなものではないでしょう?
なるべく争いたくないんですよ、私も。」
「…………信じる訳ではない。が、いたずらに戦力を減らすべきでないのは間違いないな。それに武装を解除した上で話し合いをと言っていたな。………無防備ではないようだがな」
……バレていた。実は剣には必要以上の血力を込めてある。少しの衝撃か俺の起爆命令があれば破片を撒き散らしながら爆発する算段だった。
「抜け目ないですね?」
「それはこちらのセリフだ。……本当に無防備になるアホであれば撃ち殺していた。
お前と戦闘して無傷で帰るのは不可能と判断したまでだ」
口元をニヤリと歪ませながら毒を吐いてくる。
「そちらは村の監視ですか?」
「答えるとでも?」
「………………ここは平和に暮らしている者しか居ないはずです。意味もなく荒らすような真似は避けてほしい。……分かりますよね?」
脅しの意味を込めて血力を急激に回す。先程の戦闘の倍ほどを込める。自分では分からないが恐らく瞳が赤くなっているだろう。
「…なるほど、先程は本気出なかったと。藪蛇は避けたい、良いだろう」
「……今の所ここを襲うような命令は受けてない、監視のみだ。
不穏分子がなければ我々もおそらく前線に回されるだろう
………だが命令があれば襲うこともある、それは理解してくれ」
彼なりの誠意だろう。職業軍人のような空気がある為命令には逆らえないといった所か
「わかりました。ではお互いこの出会いはなかった事にしましょう、そっちの方が都合が良さそうですし」
「…………本当にお前のような高位血族が旅をしているだけだと…?」
…疑わしい気持ちも分からなくはない、が真実は真実なのだ。
「証拠……は無いですけどね。本当に旅行みたいなもんです」
信じるも信じないもないか…と言いながら夜闇に消えていった。結局何者だったのか。神聖騎士団であれば全員が来ている白と青のローブだろうしなにより雰囲気が軍人だった。知らないだけで神聖騎士団内部にそういった部隊もあるのだろうか
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