食事
2階建ての家に入ると暖炉があり横に薪が積んであった。
風呂を沸かすのも薪だろうし暖炉に火をつける。
標高がある程度あるが肌寒い程度の気候、それでも暖炉に憧れがあったのだ。
「……火をつけるのって大変だな。暴虐の血族なら楽に出来そうだけど」
愛用のオイルライター着火しようとするが大きな薪にはなかなかつかない。
やっとついたが火が安定するまでは見てなければいけないため、もらった果物を1つ齧りながら眺める。
「いい村だなぁ、ヴィラジョだっけか」
狭い村だけど活気はある。街を歩いているときは気にならなかったが村人の3割程は吸血鬼らしい。
逆にいえば気にならない程度には共存出来ているのだ。世界中がこうなればもっと平和になるのにな。
吸血鬼の中には悪いやつもいて、それを憎む神聖騎士団もいる。でも人間にだって人間を害する悪い人だっているのだ。
そこは変わらないし吸血だって別に毎日しなきゃいけない訳じゃないし量だって少ない。
精神性も人間と変わらないのだから共存出来るはずだ。
この前あった騎士団の養成所?みたいな子達だってそう教育されただけで吸血鬼を心底恨んでいる感じじゃなかった。先生のサーシャだって話せば分かったのだからなんとかなるのではないか?
「なーんて、俺一人が考えててもしょうがない話だけどね。」
そう、俺一人じゃどうしようもない。だけどきっと俺と同じ考え方の人もいるはずだ。
いや、吸血鬼の長い寿命だ。俺が知らないだけでそういった団体もすでにあるのでは無いだろうか。
パチッ、と暖炉がはぜる音で思考の世界から戻ってくる。火が安定したようだ。
風呂を沸かし、ゆっくりと浸かる。暖かい。
吸血鬼になっても日本人はやっぱり風呂が好きな遺伝子が受け継がれているのだろうと一人笑う
小窓から外を見る。キレイな星空が、星が明滅している。
誰も待たせている訳でもなく、一人で長風呂を堪能できるこの時間こそ実は幸せの最たる例ではないだろうか?
思い返せば吸血鬼になってからはずっと気を張っていた気がする。エアクラさんが悪い訳ではないが人が周りにいたし、何よりも吸血鬼として子供である事実が早く独り立ちしなければといった焦りを生じさせていたのだ。
「吸血鬼とか超能力とか、って男のロマンみたいなところもあるしなぁ」
メキメキと実力を伸ばしていける期間で楽しくて必要以上に励んていたのもあるのだろう。
なにより個人のスキルである存在証明は憧れる。必殺技みたいな物だ。
ゾリデさんやエアクラさんに色々と聞き練習はしている。が2人曰く、そもそも練習でどうにかなる物ではないとの事だった。
血力の扱いがしっかりできる。ここはクリアしていると言われた。
後は存在証明の名前通り、自分が何者か。何をしたいのか。それが分かると頭に名前や使い方が突然浮かぶとの事だ。
存在証明自体、解明されているものではなくなぜ発現するのか?条件は?同じ能力が無いのはなぜ?物理学超越できるのはなぜ?など不明点が多いものだそうだ。
「自分が何者か……か。自分のことは自分が一番良くわかってる、訳じゃないってことだよな」
吸血鬼になる前の記憶が関係するのかと聞いたが関係ないそうだ。記憶がなくても存在証明が発現した例のほうが多い、というより記憶が戻る例が少なすぎるそうだ。
「そういえば俺達の、【継戦】の血族って会ったことないなぁ」
所謂マイナー血族なのだろう。それに血族名すらない血族も多いらしい。吸血鬼になるとき血の変質が起きるケースが多くはないがあるそうだ。
自分探しの旅の前に知らなきゃいけない事が多すぎるな。
吸血鬼の事もそうだし、神聖騎士団の連中もよく知らない。酷い奴らだと思ったが一部だろう。皆が皆そうだとは限らない。
それに吸血鬼を連れ去った後どうするのかも分からないのだ。
吸血鬼にも酷い奴らはいた。スンを攫おうとした奴らや人間を襲ってるやつもいるらしい。吸血鬼同士で戦い血晶を奪い、それを元に血力を増したり人間に宝石として売ったりするそうだ。
「そういや、スンは元気かなぁ」
チャリ…と腕につけた花を模したブレスレットが輝く。あれ以降外していないのだ。どうやら錆びる素材でも無さそうだ。
栗色の瞳と髪。目尻が下がっていて、まん丸で自分に自身がないような表情を良くしていた。ウルフカットになっているシルエットをよく覚えてる。
童顔で妹の様に思っていたが最後の日、誤魔化すために頭を撫でていたら撫でている手を掴んできて、頬を赤らめ上目遣いされた時はドキッとした。
「まぁ身の危険はないか、あそこは強固だろうしなによりゾリデさんもいるしね。
また近いうちに遊び行こう」
思い返している内に長風呂してしまいのぼせそうになってしまった。
上がると脱衣所からタオルを取り体を拭く。着るものがおいてあり拝借した。
長風呂していたこともあり暖炉の火が少し暑い。窓を開け涼みながら水を飲む。火照った体が冷えてゆくのを感じる。
コンコン、と扉を叩く音がしたため返事をし開けると美人な女性が立っていた。
「こんばんわ、お食事をお持ちしました。」
「あ、これは何から何まで本当に申し訳ないです。ありがとうございます。」
ゆっくりと歩き出し部屋の中に入ってくる。その手には何も持っていないように見える。
ストンと椅子に座った女性。
「おまたせしました」
「……………………ん?なにが!?」
「え?………駄目でしたか?作法がわからず申し訳ありません」
ん?テーブルクロスでも引くのかと思ったが本当に座っているだけだ。やっぱりどう見ても何も持っていない。
「ん?食事…ですよね?」
「はい。…………あ、自分で脱ぐのですね!」
上着を脱ぎ始め、インナーだけになった。
「どうぞ。」
………これは襲ってもいいということか?……え?……デリヘル的なサービス……?
「あのー……家間違ってませんか……?」
「……マナトさんですよね?」
肯定する。
「あっている……はずです。…………吸血鬼であってますよね?」
あ、察した。
「…………すいません、自分が吸血鬼だって忘れてました…」
「えっ!?」
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