道中



「あの…話聞いてもらえませんか……?」




 ハッ!とした表情になり飛び退く先生。


 宙を舞っていた槍がトスッと軽い音を立て地面に刺さる。




「……ええ、なんでしょうか…?」




 槍をチラチラ見ている、2歩くらいの所だが今のやり取りで取りに行くまでに何度も殺すチャンスがある事は理解しているのか隙を伺っているようだ。




「………戦う気はないんですよ、やめませんか?」




「…なんのためですか…?」




 なんのため?どういうことだ?戦いをやめることを提案しているのになんのためって…?


考え込んていると向こうから声がかかる




「……見逃してくれるのですか…?」




「あー、まぁそうですね。そうなりますね。


というかそもそも我々は飛んでいただけで狙撃されたから迎撃しただけですし」




我々…?と先生は警戒を強める。しまった、これじゃ少年のことバカにできない。完全に同じことをしている。




「貴方達!まさか自分からケンカを売ったのですか!?」






「だって先生達、悪魔は見つけ次第殺せって……」






 ゴンと鈍い拳が少年の頭に突き刺さる、あれは痛そうだ、!






 なんだかピリピリした空気を保つのが馬鹿らしくなり構えを解き両手を上げ降参のようなポーズを取る。






「ははは、いいですよ、私は銃程度じゃ怪我しません。鉛の玉でしたしね。許してやってください先生」






「失礼しました。正直に言うと戦いを辞めるように言われたときは家畜にならないかといった提案かと思いまして緊張しました。」






 家畜…?いや、そうか。ありえるか。血を効率的に集めるのであれば人間が牛を買うように人間を飼って血を集めるのが早いのか。






「いえいえ!全然そんなつもりはありませんよ!最初はイラッとしましたけどその子達見てたら毒気を抜かれまして。


……なんというか、先生も大変そうですね」






「まさか吸血鬼から先生なんて呼ばれる日が来るなんて思いませんでしたよ。苦労も分かってくれるなんて…


私はサーシャです。吸血鬼の貴方に呼ばれると色々と問題があるので……」




「そうですよね、よろしくお願いしますサーシャ。私はマナトと申します」






 握手をすると上から翼がはためく音がする。振り向くとエアクラさんが降りてきた。




「マナト君どうしたのー?待ちくたびれちゃったよ






………あれ?まだ食べてなかった?私の分取っておいてくれた感じかな?やさしー!」






 カクカクシカジカ紆余曲折あってこうなったこと説明するとエアクラさんは納得をしてくれた。


 あとで聞いた話だが「狩った獲物をどうするかは狩った人の自由だからね」との事。






「じゃ私達はここらへんで失礼しますね。私達の他にはもう神聖教育会の人たちはいないと思いますが…お気をつけください。」




 少年少女達は先生が負けたことが悔しかったのか「先生が本気出したらすごいんだぞー!」負け惜しみを言っていた。


サーシャさんの金色の三つ編みがゆらゆらと遠ざかっていくのを遠目に見ながら旅を再開した。












「エアクラさーん、あと何日くらいかかるのー?」




あのあと結局3日くらい飛んでいるがまだつかない。




「うーん、今回は遠いからね、国が知らないくらいの僻地にあるし、神聖騎士団の大きい支部が近くにあるから遠回りしてるしねー」




 なるほど、だから教育機関のような物が近くにあってサーシャさんたちが近くにいたのか。度々襲撃にもあっている。






「にしても最近野営の度に襲撃されてない?」






「あの子達はもともと神経質だけど最近はちょっと過剰なのよね、何かあるのかな?」






 そう言いながら降下していく。そろそろ野営準備の時間か。






「じゃ俺は近くの水辺から汲んでくるよ。エアクラさんはテントお願い」




「はーい、気をつけていってきてねー」






 吸血鬼でも水分は必要とする。血を水分の代わりにできなくはないがそんな大量に確保するほうが骨が折れる。


 遠くから川の音がする。煮沸する必要はないが癖なのか煮沸消毒してしまうから笑えるのだ。






「あ、そういえばこの前シゥハンジン寺院で茶葉もらったからついでにエアクラさんに振る舞おうかな?」




 独り言を言いながら水筒に水を入れていく。………この感じ、また神聖騎士団がいるなぁ…




 隠れているつもりだろうが4人程度囲むように居る。








-おはよう吸血鬼。またか-




「おはようトゥド・センザ。まただよ。そろそろこっちから奇襲するか」




 木に隠れている敵を一体木ごと断ち切る。悲鳴を上げる間もなく絶命する。




「食料の確保できるからいいんだけどさぁ…多すぎるって」






 敵が慌てて姿を表す。が、もう遅い。一体目を切った時に鎌を振った勢いのまま血の短剣を投げつけている。


 どうせ大量に血力は補給できる。贅沢に行こう。




「はっ、やるな吸血鬼!そこらの雑魚とは違うようだ!」




「はいはい。おまえはどうせそこらの雑魚でしょ。面倒だから死んでくれって」






 敵は笑いながら銀を基調とし青く光る結晶が散りばめられた剣を引き抜いた。




「司祭に渡される武器を使えばお前ら吸血鬼はすぐに死ぬ」




なんというか…


-私に似ていて不快ですね。吸血鬼、さっさと壊しなさい-




 そう、コイツに似ているのだ。青い結晶が。




「へぇ、ちなみにその剣で斬られるとどうなるの?どうせ死ぬなら死に方は知りたくてさ。良いだろそれくらい?冥土の土産ってやつだよ」






「はっ!殊勝じゃねぇか悪魔の癖によ!いいか、これはな……」




纏めると


女神から賜った神聖な鉱物を使った武器


聖銀と神聖な鉱物の合わせ武器は吸血鬼の力を消し去り治癒を遅らせる。


この武器を所有している人間は吸血鬼にとって毒のような血に変化するらしい


なんというか…情報不足だな




「多分だけど君よくわかってないよね?上の受け売り?」




「分かる必要ないからな、切りゃ殺せる。それだけだ!」




 まぁ、そりゃそうか。でも大鎌と似た素材なのは気になるな。エアクラさんに聞いてもいまいち本人もよく分かってないみたいだし。






 剣を持った敵が突っ込んでくる。やっぱアホだな。


 話を聞いている間に罠を仕込んだ。前に薔薇の蔓でトラップに引っかかった事を参考にした技がある。




 血を細く地面に這わせ、上に来たときに隆起させる。捕獲なら茨、殺すなら槍だ。




 「残念。終わりだよ。"血編み・吸血槍"」




 地面から数本の槍が生えてくる。目の前の俺しか警戒していなかったのか呆気なく貫かれる。




 他の騎士団員が赤熱した剣で槍を折って助けようとしている。トラップの範囲に自ら飛び込んできてくれるなんて…楽でいいね!




「"血編み・捕縛蔓"」




 這わせていた血の残量が少ないので足だけを蔓で縛る。


慌ててるが関係ない。大鎌を大きく振りかぶって3人とも纏めて横薙ぎ一閃。真っ二つだ。




うん、血編みいい感じだ。欠点は2つ


 俺はエアクラさんみたいに離れた場所で血液を操れない。必ず体のどこかと繋がってないといけないため血編みしかけてる間は飛んだり跳ねたりできない。した場合はただの血に戻るため血力の無駄遣いになる。




 隆起させる前は強度も低いのでバレて剣などで斬られるとそこから先の血液はやはり全て無駄になる。




 体から離れた血液操れるのは練度の問題では無いそうなのでやっぱエアクラさんはチートだと実感させられた。羨ましい。










「まだまだ課題が多いなぁ。エアクラさんにお土産できたし戻りますか」




水と獲物を肩に担ぎ戻ることにした。

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