別れ


 その後でろっでろに甘やかされた。思い出すのが嫌になるほどだ。途中で あ、俺子供だったわ…なんて洗脳されかけた程だ。




 カシュさんは昔に「なんで私が付き合う人って周りに別れたほうがいいって言われるのかなぁ…?」なんて言っていたがあんなん毎日やられたら何もできない廃人になるわ!






 事情聴取に来たゾリデさんが助けてくれたから良かった。




 神妙な面持ちから驚いて目を真ん丸にした顔、諦観を浮かべた表情に変化していったのが面白かった。というか一回諦めようとしてただろ!




まぁ、半ば逃走するような形で出れたのだ。




 逃走中も寺院のみんなに声をかけてもらったが「カシュさんから逃げてて!またね!」と伝えると両手を合わされるのだ、ご愁傷様と言わんばかりに…




 




 その後ゾリデさんが俺の部屋で話そうと言うことで移動をし、スンも一緒に色々と話を聞かれたがしばらくは警戒を広げ残党が居ないか警戒を強めるとのことだった。




 食堂に移動するぞ、と歩き出す。




 食堂?確かにみんなに混ざって清掃したときにあったが全く使われた形跡が無かった場所だ。教えに粗食があるため部屋でグラス半分の血液を飲む程度。


 人間の食事なんて育ててはいるものの外貨獲得のためらしいし。






ぼーっと歩いていると到着する。ゾリデさんが取っ手を持ち扉を開けると


「さぁ!我らが主役の登場だ!出会え出会え!」




 ゾリデさんに背中を押され食堂に入る。ワッという歓声とともに人が押し寄せる!




「ちょ!!みんな!!?」




 あまりの人混みに声を出すことすら難しい!




「ちょ、マジ、ウザっ、おい誰かどさくさに紛れて殴ってきたろ!」




 めちゃくちゃにもみくちゃにされた。 


 机の上には野菜中心の料理の数々。ボトルとグラスに入った血



ビールやミードなどのお酒などもある。






 元来は教えを習得し修行の旅に出る修行僧を送る儀式らしい。


ゾリデさん達がもう家族のようなものだ!とサプライズで開催してくれたようだ。




 ここには短い間ではしかいなかった、が皆とはもう家族のようなものだ。色々なことを教えてくれた、吸血鬼として生きているが人間と変わらないのだと教えてくれた。






 あまりにも盛大にしてくれた。涙が出そうになるがなんとか耐える。酒を振る舞われる、今日は無礼講だ!とのことだったが…




 遠くで見ているエアクラさんもケラケラと笑いながら親指を立ててサムズアップしていた。




「おっしゃ!!!じゃあ飲むか!!酒をありったけ持って来てくれ!」




























「あー……頭痛いな…………胃もムカムカするし…」




「おはようございます、マナト様。お水飲みますか?」






 ありがとう、そういってグラスを受け取る




 ん?




「スン!?なんで部屋に!?………あ、水ありがとう。」




 


 いえいえ、と前置きをつけて




「本当にひどかったんですよ?」






 半ば呆れながらスンは昨日のことを思い出しながら、笑って話してくれる。


 俺は最初はちゃんと普段通りだったらしい。ゾリデさんが珍しく悪ノリして飲酒対決だ!と言い始めそこからが地獄だったらしい。




 俺は最後の方まで残っていたらしい。生き残りが5人程度になったところでエアクラさんがニヤリと笑いながら圧勝して帰ったらしい。








「本当に珍しくゾリデ様が男の子みたいに笑ってました!


……本当に珍しいんです、よ?」






 スンの声が鼻声になり、すする音が混じり始める。






「ごめん、迷惑かけちゃったね」






「いいんです!迷惑じゃないです!………ゾリデ様、エアクラ様から伝言です。


日が落ちたら出発するから入り口で合流。とのことです……


本当に行っちゃうんですね……」






 声だけを聞くともう泣いているのではないのかと思うほどだ。表情は隠しているのか少し目が赤くなっているだけだが…何か申し訳なくなる。






 スンは小柄なのもあるし童顔なので妹の様に慕っていた。


贔屓目が入っていないとは断言できないが、顔も幼く可愛いので庇護欲を掻き立てる子なのだ。




「ごめんね、行ってくるよ。ありがとう。スンのおかけで修行に集中できたよ。」






 ………つられて俺まで泣きそうになる。一言一言を区切って喋らないと泣き出しそうだ。だが男がここで泣くのはなんか嫌で我慢しなんとか隠し切る。






 スンがこちらを上目遣いでのぞき込んでくる。泣きそうなのがバレないように頭を撫でる。






 ビックリしたみたいだが嫌ではなかったようで受け入れている。隠すことに必死で気付かなかったがこれ、嫌がられたら本当に黒歴史決定してたな。と思うと冷や汗が出てくる。






 サラサラな髪の毛だなーなんて考えていると落ち着いてくる。撫でている俺の手はスンが両手で押さえている。頬を赤らめて自分で俺の手を使い撫でられている、可愛いな……?






「よ、よし!ちょっといろんな人に挨拶行ってくるよ!」






 分かりました、とスンが離れる。ちょっとだけ名残惜しい気持ちになったのは秘密だ。






そこからゾリデさんやみんなに挨拶をしたがみんな泣きながら別れを惜しんでくれた。出入りが少ない環境だけにあまり別れに慣れていないとのことだった。










「マナト君、そろそろ時間だよ。行こっか!」








エアクラさんに声をかけられた。一瞬のように感じたが結構時間がたっていたようだ。


大鎌を持ち、忘れ物がないか確認する。






「エアクラさん、お待たせ。行こっか」








「マナト殿!健勝でな!!」


「いつでも帰ってきて良いからな!」


「人間には気をつけろよー!変なやつもいるからなー!」


「もう家族よ!気にしないで帰ってきなさいよー!」






声が聞こえ振り向くと皆が手を振っていた。2週間程度の短い時間だった。だけど俺にとって、吸血鬼になってからの大半はここにいたのだ。




「ありがとうー!」






「マナト様!!待ってください!」






 涙が出る前に飛び立とうとするが止められる。スンがこちらに走って向かってくる。






「ま、間に合いました、これを受け取ってください!」




 息を切らしながら何かを手渡してくる。金属で出来たブレスレットだ。この前花畑でみた花の形がモチーフだろうか?






「私が好きな花をモチーフに作りました!…………もし、もし良かったからたまにでいいので……ここを……」




 涙が止めどなく溢れている。




「たまにでいいから!思い出して、ください!楽しかったです!ありがとうございました!」






耐えていたのに涙を我慢できなかった、


「こんなん泣くだろ…スン、こちらこそありがとう。俺達には、吸血鬼には時間はあるんだ。また来るからそれまで絶対忘れないよ。…………ありがとう」






「包み用意する時間なくてごめんなさい…手作りで用意したのであんまり上手くできなかったんです。もし嫌なら捨てちゃってください!」






 無理に笑いながら「私に見えない所でお願いしますね?」と言っている。相変わらず自己肯定感の低い子だ。


 スンの腕にも同じデザインのブレスレットがしてあるからか後ろからヒューヒューといった、からかうようなヤジが飛んでくる。






「いや、ありがとう…大事にするよ!」


その場で左腕につける。つけた腕を上に掲げ大声で別れを告げる。






「みんな!ありがとう!」






       「行ってきます!!」








行ってらっしゃいの声に押されて空を飛ぶ。

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