襲撃
「マナト君、今すぐここを離れよう。準備して」
エアクラさんがそう言い手早く荷物を纏め始める。
あまりの事に頭がついていかなかったが幸いまだキャリーを開けただけで広げていなかったためすぐに準備ができそうだ。
外がざわめき始めたのを感じ外を見る。
アスラさんを先頭に5人の男たちが村の中心に集まっている。
「本当は明日長老に挨拶したかったんだけど…難しくなりそうね」
「エアクラさん!何があったの?」
「本当はもうちょっとしてから説明したかったんだけど、吸血鬼の敵がきたのよ、包囲されてるみたいね…」
敵、その一言は現代では余りにも実感するのが難しい言葉だ。
「本当の敵よ。殺しに来てる。ただただ話し合いの余地もなく、殺し合いをするだけの、ね」
荷物が纏まり、グラスに残っていた血液を飲み干す
エアクラさんも準備ができたようだ。明かりを消し闇に身を潜めた
喧騒がより大きくなり、金属同士がぶつかる音や何かが壊れる鈍い音の中に人の悲鳴が混じっている。
窓から覗くとエアクラさんに小声で怒られた。
「こら!バレちゃうでしょ!」
「ごめん、でもあの変な服着た人たち見たことあるんだよね…うーん、どこで…」
真っ白なロングコートに黒いズボン
いくら北海道とはいえこの時期は暑いのかコートも薄い布のような材質でできていた。左側に前後を横断した青い十字架がデザインされている奴……
「あ、そういやここの村来る前の駅で見たんだ、10人位固まって歩いてたっけ」
エアクラさんがよく覚えててくれたねと褒めてくれた
「外には5人しかいないわ、逃げ出した吸血鬼を逃さないように後方で待機してるのね…」
アスラさん達は劣勢だ。加勢に行きたいが…俺が行っても足手まといになるだろう…
「駄目だからね、君は自分のことを守る意外は戦うとか考えちゃダメ」
顔に出てたのか釘を刺される。
「流石に分かってるよ、今の俺じゃどう頑張っても足手まといになっちゃう。アスラさんに勝てない俺がいってアスラさんが勝てない相手に行く意味がない」
それどころかより劣勢になってしまうだろう。こんな事ならもっと力をつけておくべきだったのだ。
「安心して、マナト君は将来ここにいる誰よりも強くなれるから
さて、どうしようかしら。森に逃げ込んでも待ち伏せされてるだろうけど一人なら危なくないわね」
男女問わず剣で切られていく。高温を帯びているのか赤熱化して光っている。
切られたくらいで吸血鬼は死なないだろうが足を切られると逃げることは出来なくなる。
目の前で女性の足が切られ、再生できないように切り離された足をずたずたにされていく。切り離された状態で時間立つかある程度切り刻むと灰になっていく。
手足すべてもがれ心臓に細い針のようなものを打ち込んでいる
遊ぼうと声をかけてきた男女の子供が手を繋いで怯えている。
白いコートの集団は容赦なく切りかかる。アスラさんが達は自分達で手一杯のようでどんどん吸血鬼達は殺されていく。
子供たちは腕が皮一枚で繋がっている状態だ。
赤熱化している剣の腹で腕の断面を焼いている、人間の所業とは思えない。
見ていられない、目を逸らすとエアクラさんが手を引っ張ってきた。
「裏口があるわ、今なら敵も表に集中してから逃げられる。
待ち伏せも分散してるだろうし一人ならなんとかなるわ。
気持ちは分かるけど今マナト君が行っても無駄死によ。」
言い返せなかった。気が付くと拳から血が出るほどに力を込めていた。
最低限の荷物だけを持ち裏口から逃げる。断末魔が響いている。
白ローブ達の笑い声を背に逃げる
「エアクラさん、あいつら誰なの……?」
「あれは神聖騎士団、吸血鬼を浄化するための組織よ。
あいつらは吸血鬼を捕らえてどこかに連れて行くの。トドメは刺さずに生け捕りにする趣味の悪い連中よ」
「何のためにそんなことをするんだよ!」
「それはお前ら吸血鬼共を浄化するためだよ、ゴミ虫が!」
声と共に赤く輝く剣が降り掛かって来る、わざわざ声を掛けながら切りかかってきたので避けれた。
「浄化!?浄化ってなんだよ!わざわざあんな酷い事する必要あるのかよ!」
手足を焼いて笑っているやつが浄化?
「お前呪われた化物には当然だろ?焼かなきゃ再生してすぐ逃げやがる!大人しく女神様のもとに召されろよ!」
全く戸惑いもせず剣を振り下ろしてくる。普通はもっと戸惑いながらやるものだろ…慣れているとしか思えない
「こんな餓鬼2匹で昇進できるんだ!ラッキーだぜ!
……つーか逃げんな!」
…………戸惑っているのは俺の方だった。アスラさんの動きを見慣れてしまったせいでひどく遅く見える。
殺そうと思えばいつでも出来る、覚悟が出来てなかった
首筋から熱を感じた、敵と離れた瞬間に振り返ると燃えていた。
集落に放火されたのだろう。
稽古中アスラさんになぜ畑を耕しているのかと尋ねた事がある。
"吸血鬼は食べても意味ないのになんで畑や鶏小屋があるかって?そりゃ人間に血を貰ったあとに渡すのさ、貰った分血になるもの食べてもらってるんだ"
そう言っていた。労働、食糧を提供した状態で同意の上血を貰っていたはずだ。
「あの村の人たちが何をしたんだよ…」
「はぁ?つかさっきから人って言ってるけどよ、吸血鬼を人って呼んでるの気持ちわるいから
そもそも存在が悪だろ?」
会話になってすらいないように感じる。
「お前らが人間と吸血鬼の関係を壊しているんだぞ…?」
「関係?人間と吸血鬼が関わっていたのか?
よし、そいつらも連行対象だな!大量得点だな!よっし!」
会話に意味はないのだろう。
「たまにはゴミの鳴き声に耳を傾けるのも悪くないなぁ!いやぁ、本当にラッキーだった!!」
自分の納得の為に言葉を重ねていたのだ。
本気で怒るのは意外と難しい。怒るために、覚悟を決めるために材料を探していた
「もう十分だ、ありがとう」
そういって首を爪で跳ね飛ばした
あっさりと、拍子抜けするほど簡単に終わった。
ドサッ
首の無い体が倒れる音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます