稽古


「マナト君、生まれたてなら厳しくしないからそんな緊張しなくてもいいよ」




森の広場に移動し木剣を持たされたが使ったことなどない




「まずは血力をを使わないで打ち込んできていいよ、反撃はしないから安心してね」




 打ち込んできていいって言われてもな…遠慮してしまう




「なるほど、本当に戦闘経験というか吸血鬼が分かってないんだね。分かった、じゃあ思いっきり打ち込むから避けてみて?血力使っていいからね」




 練習の成果を発揮するとき!と全身に血力を巡らせる


避けろと言われているので目には特に集めるようにした




「お、結構ちゃんと練れてるね。準備はいいようだしいくからね、目は閉じないように」




 ガゴン!と音がした時には既に木剣が頭にめりこんでいた!!


痛い!と言いかけたが…痛くない




「吸血鬼は木剣で怪我をするほど弱くないよ、金属じゃないと怪我どころか痛みすら感じないんじゃないかな」




音が派手で驚いたが衝撃があるだけで痛くはない。ハリセンで叩かれたような感覚だ。痛いと癖で言ってしまうか実際はなんてことは無い。




「じゃ、分かったところでマナト君も打ち込んでみようか、血力を使って全力でいいよ」




血力を足に為地面を蹴る、速度が付いたら次は腕に血力を移動。これが俺の最大の成果だ。




「お!それが出来るのか、ならこっちも反撃してみようかな!」




 木剣が右脇腹に迫る。おそらく血力を瞬時に集められるか対応を見ているのだろう。


ギリギリだが対応できる。脇腹に当たった木剣をそのまま右腕で押さえ込み左手で木剣による攻撃をする。




ガッ、と右手で木剣を掴まれるとそのまま前蹴りで吹き飛ばされた。


羽を出し体制を整えるがアスラによって投げられた木剣が額に当たりバランスを崩し地面に背中から落ちた。


俺から奪った木剣か、やられたなぁ…




「マナト君の前世は格闘家だったりするのかな、やけに動きがいいよね。筋がいいっていうか、強いよ、君。」




「地面に転がってる俺の首に剣をかけてなきゃいいんですがね…これじゃ嫌味ですよ…」






エアクラさんに見られてなくてよかった。まだ手加減されているのがよくわかる。




「そういえば武器とか持ってないのかい?荷物にあるんなら取っていてもけど」




 武器を持っているものなのか、今まで誰も持っていなかった。というかそんなに物騒なのか…?




「まぁ爪とかあるしね、君はそっちほうが得意ならそれでもいいんじゃないかな?無手はそれはそれで強みだしね」




「そういえばエアクラさんは血でできた剣で戦ってました、アスラさんは剣を持ち歩いてるんですね」




「血で剣を……か。残念ながら僕にはできないね、血族の力が関係してるんじゃないかな?」




「そういえばアスラさんはなんの血族なんですか?」




 突然アスラさんはムッとした表情になった。




「………ちょっと流石にそれは失礼なんじゃないかな?」




 どういうことだろうか、血族を聞くのは失礼に当たるのか…?


いや、たしかに殺伐とした世界、血族によって能力がある世界じゃそうなのか


「…申し訳ありませんでした。」




「いや、こちらこそごめんよ。面食らって忘れてしまってたけど君はまだ生まれたてだったね。


基本的に血族を聞くのは失礼になっちゃうから気をつけてね、血族能力や"凝結"については知ってる?」




知っている。ローディが使っていた、確か【暴虐】は焼失だったか。巨大な火球が膨大な熱量を持って迫ってくる技だった。




「【暴虐】のを見たんだね、あそこは派手だよねぇ。男の子なら憧れる人も多いんじゃないかな?それに【暴虐】は名乗りを上げたりするからね。」




勘違いしても仕方ないか、と前置きをして続ける




「血族能力や凝結があるってことは血族を教えるのは自分の戦い方や能力を晒すことと同じだからね、基本的には聞いちゃいけないみたいな暗黙の了解があるんだ。


"存在証明"は知ってる……みたいだね、これも絶対に聞いちゃだめだし自分のも他人に教えちゃ駄目だからね!」




 考えてみれば当然のことだった、何も考えずに失言をしてしまったのを反省した




「誰でも最初はする失敗だからね、じゃあ続きしようか!」










そこから何度か手合わせをしてもらった。


どうやら自分は剣などを使うよりも素手のほうがあっているらしい。


爪を伸ばし強化する術を教わったがとんでもない強度だった。丸太に突き刺しても折れないのだ。






「じゃあここまでにしようか、あとで空き家に食事を運んでおくからゆっくりシャワーでも浴びるよいいよ」




稽古をつけてくれたことに感謝をしエアクラさんの待つログハウスに向かった。










 ドアを開けるとエアクラさんが既にお風呂に入ったのか髪の毛を乾かしていた。




「あら、マナト君おかえりなさい。みっちりしごいてもらった?


お風呂先いただいちゃったから入ってきちゃいなさい。」






タオルを受け取り久しぶりのお風呂を堪能する。


上がるとグラスに血液が注がれていた




「さ、食事にしましょ。いつもと比べると寂しい食事になっちゃうけど…」




「血液、ですよね?それだけを食べるのはちょっとまだ抵抗あるけど」






 普段はエアクラさんが気を利かせてくれて人間用の食事を用意してくれているが実際は栄養になっていないのだ。血液のみが栄養となる生き物、それが吸血鬼なのだから。


 とはいえ血液だけで済むなら荷物も減らせる、今後のことを考えると慣れる他ないのだ。


 アスラさんの言い方だと貰い物だろうし文句を言えることではないしいただこう。




「「いただきます」」






 グラスを煽ると…なるほど、吸血鬼になったのだ。思うよりも遥かに飲みやすい。


 濃厚で果実のような甘さがある。舌につくと有塩バターのようなコクと塩味があり、飲み込むと口内にカカオのような香りが残る




「美味しい……美味しいんだよな、見た目は慣れないけど味はいい」




「マナト君は偏見とか先入観あんまりないね。普通慣れないと味とか関係なく吐いちゃう子も多いんだけどね」




「そうかな?物がいいとかあるの?」




「あるよー、これは一般的な味だけどね。やっぱり直接飲むのが一番美味しいね。年齢とか健康状態でも結構違うからグルメは人間を飼ってたりするかな




…………あ、でも人間もストレスなく、健康管理もしっかりしてるから多分会社員よりは幸せだしと思う!


ストレスが敵だからお出かけとかできるし!」




 家畜の幸せ的な問題…か


実際はどうなんだろうか、社畜なんて言葉があるくらいだし


まぁ幸せなんて人次第ってところだろうか




考えているとエアクラさんが急に立ち上がった、ガタンと椅子が倒れる




「マナト君、今すぐここを離れよう。準備して」






珍しく、エアクラさんが真剣な顔をして遠くを見ていた。

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