理由


「どう?何となくわかったかな?」




「あぁ、ありがとうございます、エアクラさん。そろそろ俺も家に………」




家に帰ります。そう言おうとしたが全く思い出せない


そういえばさっきカイトが言っていたな、記憶がなくなると




エアクラさんが申し訳なさそうなな顔をして泊まっていけばいいと提案してくれる。


財布の中には15000円程度入っているから1泊は出来るだろうしお金は下ろせばいい


……………下ろせれば、か。暗証番号は思い出せない




「……すいません、お言葉に甘えます。」


今は無闇にお金は使えない、この15000円が全財産になってしまったのだから。




「いいのよ、いくらでも泊まっていってくれて!」




「ありがとうございます


そういえばなんで俺は吸血鬼になったんですか?」






申し訳なさそうな顔をしながらぽつりぽつりと話してくれた。




「実は大した理由があるわけじゃなくってね……


映画を見に行ってたの、上映終了間際の映画でね、レイトショーだったのもあってか観客は私と君だけだったの。


私も久々の映画でね、君がポップコーン食べながら映画を見てるのが羨ましくなっちゃって。


私もちょーっとつまみ食いしちゃおっかなぁ……って……」






は?つまみ食いで吸血鬼になったんか俺は




「待って待って!!違うの!あ、いや、違くないんだけど、、


吸血って吸血鬼にするのとただの食事の二種類あるの!


もちろんただ食べただけよ!!吸血するとデトックスになってスッキリするみたいだし、感覚としては寝落ちしたくらいなのよ!


たまに外で寝落ちして普段よりすごい疲れが消えたって人いるでしょ?それ吸血されてることも多いのよ


君、凄い疲れてたみたいだしちょうどいいかなーって」






映画見てて小腹が空いた。疲れた社畜がいるから吸血しよっと、疲れとれるみたいだし一石二鳥!


それで吸血したのか。……まぁここまでは許せる、だけどまだ俺は吸血鬼になってないよな?




「そ、そのまま君は寝てしまったの。実はお財布に入ってた10000円札はその時私が入れたのよ、お礼でね。」




「その後私はレストランに行ったわ、もちろん人間のね。


フルコースは美味しかったわ!!




……で、少し路地に入った所にいつもワイン買ってるお店があってね、道中で君が倒れてたの。


私のせいかと焦ったわ、吸血自体本当に久しぶりにしたの。うまく出来なかったんじゃないかって


見たら本当に死にそうだったの、実は吸血鬼に誰でもなれる訳じゃないの。10人に3人くらいは耐えられず死んでしまうわ」




間違って吸血鬼にしてしまったってことか…?




「吸血鬼にする時は吸血しながらこっちも血を送るのよ、ただすこし入った程度じゃ当然吸血鬼になれないし死なない。むしろ少量の血力なら人間でも元気になるのよ、血臓がないとはいえ種としてかなり近いからね。


それに血液を送ったあとは目覚めないでそのまま吸血鬼化するわ」




隣に座りながらワイングラスを呷りながら続ける






「混乱したわ、でも現実は明らかに吸血鬼化に失敗して死にかけてるキミがいるのよ」




そう言いながらボトルの口をこちらに向けてくる、ありがたく貰いこちらもボトルを借りてエアクラのグラスに注ぐ


柔らかく、安心したような顔をしている






「こうなったら方法は1つしかないのよ。更に血を送って死なないよう吸血鬼に、眷属にするしかないの」




机に突っ伏しながら震え出した声で続ける




「面識もないわ、あなたが眷属になる前、吸血鬼にどんなイメージを持っていたか、どんな生活を送っていたか、何が好きで何が嫌いか


何も知らないのよ………ごめんなさいね…」




そう言い切り顔を少しだけ上げながら涙を湛えた目で、上目遣いでこちらを見ている。


酔い始めたのだろうか、グスグスと鼻を啜り始めた




「なんで路地にいたのか、なんで倒れてたかも分からないの、君にもしかしたら元々吸血鬼になる才能?DNA?があってそれが少量の血力に反応したのかしらね…?前例はないけど何事も初めてはあるものよね…」




エアクラはグラスを一気に飲み干した




「ふぅ……ごめんなさい、私が知っているのはこれだけ。


一気に色々話しすぎただろうしお風呂はいる?」




そんな気分ではないが…確かに身体も汚れているし1度考えをリセットしたい




「………そうですね、お風呂借ります」


「ふぅ…………タワマンは風呂も広いのか………」


記憶はないがなんとなくタワマンに住んでなかった事は分かる


湯船に浸かりながら夜景が見える、贅沢というやつだ




…正直にいうと全然混乱していない、受け入れてしまっている。


いやこれが、これこそが混乱している状態なのか…?


だが、逆の立場なら同じ行動をするだろう。だからかエアクラさんは申し訳無さそうな顔をしてくれているがなんてことはないのだ。




……異常なのだろうか、もっと人間であったことに未練があるのが普通なのか……?それとも人間時代あまりいい生活じゃなかっのか…?社畜っぽかったって話だったし…




 そうか、後悔も怒りもなにも過去の記憶がないのだから出てこないのは当たり前なのか。


どちらかというとこの先の不安のが強い、どう生きていけばいいんだ?あぁ、カイトと連絡先を交換しておくべきだったか


次あったら交換しとこう。あ、エアクラさんとも交換しておこう






いやそうだよ!!スマホ見よう!!写真とかある!マップに自宅登録あるだろ!!

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