化物

ヒュッ


風切音だけが静寂を支配する。




「おまたせ〜、ごめんね、遅くなっちゃった!」


 まるでデートの待ち合わせに数分遅れたかのような軽い調子で声が響いた




 目を開くと女吸血鬼の腕を無造作に放り投げるエアクラが笑いながらこちらを見ている


「吸血鬼になって力が強くなってるの伝え忘れちゃってさ

……………うんうん、吸血鬼として成長したねぇ


始めて息子が離乳食を食べてくれた気持ちになっちゃうね!」




「おまえぇ!!アタシの腕を!よくも!!」




 流石に吸血鬼でもすぐに腕が生えてくるわけではないのか


拾って切断面を繋ぎ合わせている






「うん。ゆうきくんもうちょっと待っててね。あ、ゆっくり食べてていいからね?」


 そう言い背を向けて歩き始めるエアクラさん


腕がもう繋がったのか立ち向かう体制の女吸血鬼




 さて、もう時間ないしみんなまとめてかかってきてね等とケラケラ笑いながらエアクラさんが迫る


 当然馬鹿にされていると感じた敵は怒り一斉に動き出そうとした瞬間




 敵二人の頭だけを持っているエアクラさんがホスト吸血鬼の前に立っているのだ…




「待ってくれ!そいつはそんなに悪いやつじゃない!………と…思う…」


「ん?そうなの?………でも生かしといてもあんまり意味なくないかな?」




……そのとおりだ、正直なぜ俺もこいつを殺されたくないのかよく分かっていない


いや、道案内させよう!そう提案することにした。




「なるほど、ゆうき君は頭がいいね。…君名前は?」




「サイトっす、ありがとうございます………兄貴もありがとうございました!」




 サイトというのか、兄貴って一体なんの話だ…?


エアクラさんも、


ふふっもう弟子ができたんだ、すごいなぁ!


なんてなんかすごくご満悦そうだし




「じゃあサイト君、早く逃げよう?案内は任せていいんだよね?」




干からびた吸血鬼の死体を雑に放り投げながらエアクラが先を行くように促す






 走りながら3~4度ほど接敵したが一切苦労しなかった


エアクラさんはお腹減ったからいっぱい食べてるけど普段はこんな食べないんだからね!少食だから!


なんてよく分からない言い訳をしながらいとも容易く蹴散らしていく




 意外と言ったら失礼だが、驚いたのがサイトだった


俺と戦闘したときとは明らかに動きが違う、炎を巧みに扱い視界を塞いだりしつつ的確に倒している。俺との戦いのときは本当に油断してただけだったのだろう。






「あの……エアクラの姐さんに兄貴。さっきから吸血鬼の血を吸ってますよね……?


大丈夫なんですか……?」


大丈夫もなにも普通に吸えるし、さっきからエアクラが渡してくるからだんだん吸血にも抵抗がなくなってきている


「いや、普通は吸血鬼は吸血鬼の血を吸えないんですよ!

え?常識じゃないんスかコレ?」






「私達は【継戦】の血族なのよ、マイナーだし若い子は知らなくてもしょうがないよね」




 


 


 戦闘しながら二人とも平然と喋っている、俺は目で追うのがやっとだというのに


話しながらだがやっと廃墟のビル群から離れ喧騒が遠くなった




「【継戦】の血族ッスか…すんません、知らないッスね……


血族能力が吸血鬼からの吸血なんスカ?」






 エアクラが落ち着いたら説明すると言いかけた時、空から大きな火の玉が降ってきた!






「こんばんは!いい夜だなぁ!継戦の王よ!


暴虐の王の命令だ!確保させてもらうぜ!!」




赤い短髪、ゴリラのような筋肉、強面


何よりも特徴的なのはYシャツを腕まくりした肌からもそうだが全身の皮膚が赤い


スーツをきた赤鬼といった表現がシックリくる




「……ちょうどいいね。ゆうき君、サイト君、二人に【継戦】の能力を実戦で教えてあげるよ!」






「ふぁはは!!俺が!この俺が、噛ませ犬か!

暴虐の血族!第2世代貴族が一人"赤鬼"のローディ!

いざ尋常に!参る!」








ヒビ割れた地面を蹴り上げローディがエアクラに突進する。

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