本能

「あ。忘れてた。」


飛翔感が消え重力が戻る。


下を見ると地面がかなり遠い。目覚めてから気にしていなかったがここはビルの3階だったのか。


この高さならギリギリ転がれば死なずに済むか?5点設置法だかをテレビで見たことがある


だが死ななくてもしばらくは確実に動けないだろう、遠慮なく人に向かって火炎放射してくる奴らがいる中で動けないのはどちらにせよ……




などと考えているうちに地面はそこまで迫っていた


足がついた瞬間に転がった!ゴロゴロと転がって茂みに頭から突っ込んでしまったがまぁ死んでないのだ。ダサいとか言っている場合ではない。信じる神がいる訳ではないが感謝しておこう。




カツ、カツ




足音がする。革靴の音だ


「んんぅ〜〜??なんかでかい音したけどなんだぁ??


敵か??女だったらいいなぁ〜!」


男の声だ。




頭から花壇に突っ込んだまま足の間から相手を見た。


金髪、ピアス、黒い3ピーススーツ


まぁ見るからに"売れない"ホストって感じのやつがいた


煙草を口に加え、立てた人差し指から火を出し着火している


指から火!?




「あぁ、いやそうか、吸血鬼なのか」

つい声に出してしまった




「おい!!そこの!出てこい!!

…………いや、なにしてんのお前??」




ひっくり返って茂みに突っ込んでいるのだ、まぁその反応になるのも仕方ないし何をしているんだろうと自分でも思う



何事も無かったかのようにしれっと立ち上がる、恥ずかしいが何事もなかったかのように振る舞う事が大事だ。




「おい!そこで何してたんだよお前。王…ではないよな、うん。女だって言ってたし。

こんなところでコソコソ怪しいやつだなぁ!」


何かを探している?女と言っていたしエアクラさんを追っているのか?エアクラさん、物腰も柔らかいし良い人そうであったが実はあまり関わらないほうが良いのか…?



「いや、迷い込んでしまいまして……凄く周りが騒がしいようですがなにかあった」


「まぁ先輩からここにいるやつは全員殺せって言われてるし、まァ残念だったなぁ!」


ヒュっといった風切り音が聞こえた瞬間に男の顔が目の前に現れた!右手を曲げ手刀を胸に突き刺そうと下から上に伸ばしてくる…


……のだが、やたら遅い。


少し身体を捻り避けるが身体もゆっくりとしか動かない。


避けきれず掠ってしまい頬に傷が付く、痛みに驚き飛び退いて男との距離が開く




「マジかよ、今の避けんの!?おとなしく死んどけって!楽に殺してやるからよぉ!


……ってかお前やっぱ吸血鬼じゃねぇかよ、騙しやがって!」




頬に付いた傷に触れようとしたが傷がなくなっている、本当に吸血鬼になったのだなと少しだけだが実感してしまった。




「死ねぇ!」


そう言って再度突進してくる。また世界が遅くなる。自身の体もゆっくりとしか動かせなくなる。


危険な状況なのに何故か全く危機感がない。余裕すらあるし相手の動きも遅い


格闘技経験の記憶はないがやっていたのだろうか?




手刀を伸ばしてくるが余裕で避けれる、左手で手刀を打ち下ろしてくるが右手ではじく。


何度か避けている間に体が軽く動かしやすくなっていくのを分かる


どう動けばいいのか頭の中に思い浮かぶ


脳内に手刀を敵の胸に突き刺せと命令が聞こえる、ような気がした。考える間もなく身体が動いた




「マァジかよぉ、…………ゴブッ…………助けてくれよ…死にたくねぇよ、、、まだ何もしてねぇじゃんかよぉ……」




無意識のうちに動いていた、右手が心臓を鷲掴みしようとするかの様に広がり、敵の胸に指が第二関節まで刺さっていた。


肺まで損傷したのか吐血しながら助けを求めてくる。何もしていないと言っているがそもそも襲い掛かってきたのは向こうだ。


殺す気もないので開放してやった。




「お、………おぉ……見逃してくれんのか………あざっす…


………………いや、ホント助かったっす、襲ってすいませんでした!」




むせていたがすぐに治ってしっかりと喋れている、また襲い掛かってくるのではないかと警戒はするがその様子はなさそうだ




「ここを出たいんですけどここらへん全然知らなくて、とりあえず怖い人たちと出会わないようにしたいんですけどどちらに向かえばいいですかね?」






「おい!いるぞ!!報告のあった目標といた男だ!」




ホスト風の男からの返答を待っている間に3人の男女が走ってくる。


「聞いたわよ!まだ吸血鬼として目覚めたばかりなんでしょ?生まれたばかりなのに申し訳ないけど死んでもらうからね!」


微塵も申し訳無いなんて思っていない口調だ




「姉御!待ってくださいッス!!この人は俺を見逃してくれたんスよ!!」


「はぁ??アンタまさか産まれたての吸血鬼に負けたの??遊んでたとしても本当に使えないわねアンタ!!まとめて殺してやろうかしら!!」


ホストが庇ってくれるが女吸血鬼は激怒している


その隙を見て逃げようと考えたが二人の男がこちらを注視している、逃げれない。説得するしかない。




「待ってください!!こちらに戦闘の意思はありません!!話を聞いてください!!」




「ふぅ…まぁいいわ。帰ったら教育してあげるわ!


………で?戦いたくないって?じゃあ大人しく死ねばいいわ!」




そう言って襲いかかろうとしてくる女を仲間の男が方に手を置き止める。




「今回はお前ばかり活躍しすぎだ。俺にヤラせろ」


低い声、年は40くらい、黒い半袖Tシャツを着ているがムキムキな腕が露出している






「よう、赤ん坊。俺は油断や手加減はしないからな。


まぁ楽には殺してやるよ。ふぅん!!」


そう言ってマッスルポーズを取るマッチョマン


ミチィと音が聞こえそうなポーズをした途端肘から先が炎に包まれた!!






「さぁ!覚悟しろ!」


そう言って殴りかかってくるマッチョ


避けたが肩に掠った、それだけで肉が抉れた


肉が焼ける匂いがする。灼けるような痛みというが本当に焼けている。




「ビックリしているな、我々が暴虐の血族の炎によるダメージは治らんぞ?」






治らない?じゃあ腹を攻撃されたら穴が開く?流石に吸血鬼といえども死ぬだろう。死を間近に感じることなど普段ない。


死を意識した瞬間、現実ではないよな、意識が夢の中にいるかのように遠くなる。非現実すぎる!!!




「何がなんだか分からないといった感じだな、まぁ仕方ないか。


あまり怯えずとも良い、今楽にしてやろう」




そう言い襲い掛かってくる大男。


まただ。また身体が勝手に動こうとする。


いや、どう動けばいいかがはっきり分かる




襲い掛かってくる右手をかわしつつ懐に潜り込む


伸び切ってがら空きの脇腹に手刀を差し込む、ぞぶり、と指がめり込んでいくと共にツバを飲むこむ


「ぐぁっ!力が抜ける!どこの血族だ!?死者のところか!?」


意味が分からないが手刀を差し込むと喉が潤う。


身体がもっとだ!と叫んでいる




大男の傷が治り切る前にこちらから仕掛ける


パワーに頼りきった攻撃だ、下半身ががら空きだ。


しゃがみ、太腿に指を刺す。感覚として分かるのだ、これは吸血行為だと


一気に吸い尽くそうとしたが吸うのにも時間がかかるようだ、逃げられる。




「おい!譲ってやってそのザマはなんだよ!俺に変われ」


もう一人の男が襲いかかる


痩せ型の短髪の男だ


隙だらけだ、喉を殴り怯んだ瞬間に後ろに回り込み




首に噛み付いた




「ぎゃぁぁぁあぁあぁああぁぁ!!!なにしてやがんだぁ!!」


男がそう叫ぶ。


何をしてるのか自分でも分からない。


美味しい   血が美味しい??


死んでしまうのではない   コイツが死んでも関係ない


俺はナニになったんだ?   吸血鬼になったの…か?




「吸血鬼の血は吸えないはず…よね?気持ち悪い。死んでちょうだい」






吸血に夢中になっていて警戒を忘れていた。後ろに最初の女吸血鬼が手に火を持って腕を引いていた。


逃げなければと思ったがもう遅い。女の手は動き出しているし避けようにも吸血している男が邪魔になる。






咄嗟に目を瞑ってしまった。


ヒュッ


吸血鬼になり強化された聴力が風切り音だけを捉えた

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