第8話 蒼い火の玉

「では、はじめ!」


ミーシャ先生の合図で実戦形式での魔法訓練が始まる。

最初は第四階梯同士での対戦が行われていて開始の合図と同時に魔法が放たれる。


氷弾アイスバレット!」


雷槍サンダーランス!」


左の男子生徒は第三階梯魔法を右の女子生徒は第四階梯の魔法を放っている。

二つの魔力のが空中でぶつかることによって青白い光が生まれる。

先ほどからずっとこんな感じだ。そしてその均衡状態が崩れて決着はというと


「ぐわっ!」


「それまで!」


第三階梯の魔法を放った男子生徒が勢いに押し負けて倒れる。

先ほどからこればかりだった。階梯の高い魔法を打った方が勝つもしくは同じ階梯でも魔力をより多く込めたほうが勝つという真っ向勝負。身体強化魔法を使って接近戦を仕掛けてみたり一度魔法を逃がしたりすればいいのに。まるで小さい頃の自分を見ているみたいだ。


「次! 第五階梯クラスを始めていく!」


これまでの第四階梯クラスの練習試合が終了していよいよ第五階梯クラスの番だ。

ちなみにアルノーは僕との対戦のためこちらに組み込まれる。


「ウィーザ・ブロウとミナ・ブロウ!」


第五階梯クラス最初の組が呼ばれたのだが…


「ウィーザ・ブロウってあの…?」

「まじかよ…」


見ている者たちの反応が少しおかしい感じがする。皆口々にブロウの名前を出していているだ…


「アリルどうしてみんな騒いでいるの?」


こういうことはアリルに聞いておけば大体知っているので聞いてみる。


「はぁ? あんたそんなこともしらないわけ?」


ほらね。案の定アリルは知っていたようだ。はぁと一つため息をつくと説明してくれた。


「ブロウ家は光系魔法の扱いにたけていることで有名なのよ」


そうしてあまり詳しくはないという前提のもとアリルが教えてくれたことは二人の生まれについてだった。


ブロウ家は代々光系魔法に対する適応が高かったそうだ。

光系魔法は扱いが他の属性系魔法の中でも扱いが難しくきちんと制御しながら使える人間は非常に貴重だった。

そしてブロウ家はこの貴重な光系魔法の使い手として魔王討伐や魔物の討伐に長年貢献してきた。

しかし、今代生まれた子供は双子だった。一方はきれいな金髪の子供に育ちもう一方の子供は黒髪の子供に育った。ミナ・ブロウと名付けられた少女は代々の血を継ぐように光系魔法に対する才能を大いに発揮した。

それに対してウィーザ・ブロウと名付けられた少女には光系魔法の才能は一向に現れずむしろそれ以外の魔法にだけ才能を見せた。

しかし、ブロウ家としては光系魔法に才を発揮したミナのみを表舞台に登場させウィーザ・ブロウに関してはほとんど出さなかった。

そして、今年二人とも学院に入学する年になり初めてミナ・ブロウが表舞台に出ることになった。


それが今目の前で行われているということなのだろう。

この話を聞いている間にも二人の戦いは進んでいく。


光の雨シャイン・レイン!」


ミナ・ブロウが対戦場いっぱいに降り注がせる光弾。相手がどこにいようと関係ないといった感じだった。

そして光系魔法に対する才能は伊達ではないようで一発一発が当たればただでは済まないような威力だった。


高度身体強化ハイ・ブースト!、身体加速アクセル!、魔法反射リフレクト!」


それに対してウィーザ・ブロウは三つの魔法を展開。

今日ここにきて初めての身体強化魔法が見れた。魔法反射の防御を展開しながら円形状の練習場を右回りに走りミナ・ブロウとの距離を詰めていく。ウィーザ・ブロウは近接戦が苦手なのだろうか?


「チッ!!」


やはり本人にも苦手意識はあるような動きだ。近接戦に持ち込まれるのを防ぐためにウィーザ・ブロウに向けて直接魔法を放つように切り替えている。


光滅却シャイニング・オーバー


おお!、光系魔法の第六階梯魔法だ。あれは本当に難しいんだよなぁ母さんが見せてくれたんだけどできるまで他の魔法よりも時間がかかった。とはいえ光魔法自体難しかった記憶がある。


―ドドドドドドオオン―


ミナ・ブロウが放つ高密度の光のレーザーがウィーザ・ブロウを近づかせまいと進行方向に向けてはなっている。

ウィーザ・ブロウは魔法反射では防ぎきれないために一旦近づいての戦闘をあきらめてジグザグと動き光滅却をよけることに専念している。これには思わずだろうかミナ・ブロウの表情にも焦りなのか少しの渋さが見える。


「黒髪の方もあんなに戦えたのか…?」

「俺より強いじゃねーかよ…」


周りで見ていた生徒特に第四階梯の生徒からは驚嘆の声が浮かんでいる。今まで自分たちはその場からほとんど動かず魔法に集中していただけ、片や今目の前で行われている戦闘はただ強い魔法を打ち込むだけでなく自らを強化したりポジションの駆け引きを行いながら自分たちよりもさらに難しい魔法の制御を行っているのだから。


「なかなかやるじゃない」


となりにいるアリルも上から目線ではあるが認めているのだろう。

そして魔法の攻防が行われながら二人の戦いは進んでいき二人の間にも疲れが見え始めた頃急に二人の動きが止まり距離を置いて立ち止まった。




「「超身体強化リミット・オーバー」」




超身体強化リミット・オーバー”僕も使える限界身体強化魔法で使用すると感覚から動体視力などが跳ね上がる。動きは今までと比べ物にならない速さとなり魔法に関しても集中力と体の感覚がさえわたることにより魔法制御も格段にしやすくなる。

しかし体力の損耗も激しく限界を超えて使用すると神経が擦り切れてしまいその状態が続くと最終的には廃人のようになってしまう。

この二人の体力の消耗具合から見てもって一分といったところだろう。


超身体強化を使用したことによって二人の魔力がどんどん高まっていく。

ミナ・ブロウからは黄色っぽい魔力をウィーザ・ブロウは青紫の魔力があふれる。



そして二人の魔力が限界まで高まりあふれそうになるその瞬間――




「そこまで!!」


二人の間にミーシャ先生が割り込む。


「二人の実力は十分に測ることができたもう十分だろう」


対戦の終了を告げる。

二人は渋々といった感じと疲労を感じる表情で魔法を解除し対戦場から降りていく。一言も話したりするところがないところを見ると仲はやはりそんなに良くなさそうに見える。


凄まじい戦いの後だからか周りの生徒たちは少し静かになっている。

そんな中ミーシャ先生が淡々と次の対戦を告げた。


「次はノルドー対ノア!」


いよいよ僕の番らしい。座って見ていたところからウィーザ・ブロウが戦っていた側から練習場に上がっていく。先に上がって待っていると遅れて当然のようにゆっくりとノルドーが正面に姿を現す。


「さてさて今からお前の本当の実力をあぶりだしてやろう。そしてお前はパナメラの隣にいるべきではない!」


本当に面倒くさいやつだな。この戦いで少しはわかってもらえればいいんだがね。

こんなことを考えながら待っているとすぐに試合開始の合図が告げられた。


「それでははじめ!」


始まるや否や先ほどの戦いをもう忘れてしまったのだろうかノルドーはその場にとどまり両手を広げながら魔力をゆっくりと引き上げる。


「ははは!ここでは魔法検査の時のようなずるはできまい!」


魔力をゆっくりと高めながら何かを言っている。正直何を言っているのか聞こえない。そんなにゆっくりと魔力展開していて大丈夫だろうか?すぐに打てるけども…


そして、準備ができたのだろうか魔法を打ってくる。


「くらえ!水槍ウォーター・ランス!!」


第六階梯魔法。正直今までの第四階梯クラスの実力的にも第六階梯魔法は打てないと思っていたので驚いた。ただ…


「甘いかなぁ」


きっと自分の制御できるギリギリ、いやそれをちょっと無理しながら扱っているのだろう。うまく制御しきれていない部分があるし無駄に魔力を使っていて威力も落ちている。これならば…


考えている間にもノルドーが放った“水槍ウォーター・ランス”はまっすぐにノアへと向かってきていた。


しかしそれに対して慌てることなくノアは人差し指を一本上に向けると




蒼火の玉レア・ファイア





第一階梯魔法を放つ。






***


―なかなか噂通りのようだ―


先ほどの試合を振り返り思う。


しかしここまでうまく扱えているとは予想外だったな。あの才能の塊を家に閉じ込めておいたとはブロウ家の当主はよほど頭が悪いらしいな。


ミナ・ブロウとウィーザ・ブロウ。


二人の戦いは講師のミーシャから見ても学生にしては高いと言わざるを得ないものだった。


この後にやるものは少々やりずらいか。


などと思いながら心の中で苦笑いをする。周りの生徒たちも自分たちより高いレベルの戦いを見て冷静になってしまっている。


「次はノルドー対ノア!」


次の生徒は第四階梯クラスと第五階梯クラスか…さっきからあの三人組がノアを睨んでいたが大丈夫か?


ミーシャのもとにもノアが名誉公爵であることは伝えられていないしノルドーが侯爵の家の出であることももちろん知っていた。


まぁ危なそうならば私が止めよう。そもそもノアというやつも一応第五階梯クラスなのだ勝負にはなるだろう。


ミーシャは少し心配になりながらも二人を見やる。サーシャ自身長く国家直属魔法師団にて前線で戦っていた経歴がある。学生ほどであれば実力を測るなど造作もなかった。そしてノルドーは第四階梯クラスの中でもかなり高い魔力を持っていると言えた。体からあふれる魔力がそれを物語っていたからだ。そしてノアはというと


ん…? ない?


魔力を全く感じなかった。


試合前だというのにあんなにもゼロ状態からで大丈夫なのか?


今まで行われた試合すべてで生徒たちは試合前からある程度魔力を引き上げておいていつでも魔法として発現できるようにしていた。


これは本格的に助けに入る準備をしておかなければ…


二人が練習場に上がり向かい合ってもまだノアは魔力を引き上げない。それどころかリラックスしすぎな感じすらしていた。ノアが魔力を引き上げるのを待っているわけにもいかないので


「それでははじめ!」


開始早々にノルドーが高めていた魔力をさらに高めていく。


おいおい、あれは大丈夫なのか?


ミーシャから見ても本当にギリギリの制御であった。一歩間違えれば自分の手元で爆発しかねないしただでは済まないものだ。

そしてそれに対するノアは目の前で魔力を高められても未だ落ち着いて観察している。

ミーシャ自身これ以上は止めると思ったところで魔法を発現させた。


水槍ウォーター・ランス!!」


まずいか、そう思った時だ


――ゴウ!――



一瞬なんの音なのかわからなかった。

つい先ほどまで様子見をしていたノアが指先に一瞬にして魔力を引き集め

超超高純度の蒼い火の玉を作った瞬間空気が揺れるような音がした。


まてまてそんなことがあり得るのか……………?


ミーシャの内心では驚くという次元を超えていた。

たしかに魔法は極めて自由自在に操れるとなるとその存在ですら自在に操る。

つまり体から一ミリたりとも漏れないのだ。

ゆえに魔法の扱いにたければ長けるほど魔力を

ただしこんなものは学生ではありえない領域の話である。現に周りの生徒たちも音に驚いてはいたが何が起きたのかを正確に分かっているものはいない。


あいつはいったい何者なのだ…?


ミーシャの額に少しばかりの汗がたれる。

この少年は普通に自分のレベルを超えているのではないだろうか。そんなことが頭をよぎって仕方がなかった。


そしてその蒼い火の玉が放たれる。もちろん制御の乱れなど一切なくミーシャから見てあの凶器をぶつける気はないというのが分かった。


蒼い火の玉はゆっくりと進み水槍はとてつもない速さでお互いのもとへ向かう。


そして二つの魔力がぶつかり


―ジュボッ!―


水槍が跡形もなく消える。

ぶつかった先から溶けるようにその小さな火の中に飲み込まれた。


「えっ………………?」


自信があったのだろうノルドーの顔も呆けている。

しかしミーシャにとっては起こるべくして起きたことでしかない。



「それまで!」



先ほどまでその美しいとも呼べる魔法に気を取られていたが慌てて二人の間に入り

ノアが放った蒼い火の玉も解除するように指示する。



このまま続けてもいいがミーシャ自身の勘が告げていた。


このノアという子供について知る必要があると。




















































































































































































































































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