第5話 その力について
「さて、白状してもらいましょうか?ノア君?」
とんでもないくらい冷たい目で見下ろされている。そりゃそうだ今僕は学校の裏側で正座させられていてその上から見下されている。
今はクラスも決まり授業などの説明もひと悶着どころかいろいろあったけど何とか終わり昼休み。とりあえず時間がないからと後になった“女子トイレ覗き”について追及されている。
「ノア君、若くてそういうのが気になる時期なのかもしれませんけど覗きはダメだよ!」
この事実とは全く違うことをやたらアリルに吹き込む元凶はパナメラというらしい。
実家は貴族で同じ第五階梯クラスだった。奔放な感じで言いたいことを言いまくるのでそのあとの僕に対する女子の視線ときたら刺さるどころか貫いていたと思う。
「ちょっと待って、説明はするからその大きい声で女子トイレ覗きって言うのやめようか」
裏側とはいえ誰かが聞いているかもしれないのでやめさせる。
「それじゃあ説明するけれど、それを説明するには僕の力について話さなきゃいけない」
そう言って僕は魔力を這わせて周りに人がいないことを確認し防音・認識阻害の結界を張る。
「相変わらずでたらめな速さの魔法展開ね…」
「?」
アリルはさすがに気づいたみたいだけどパナメラは気づいてないみたいだ。
「さて、魔法結界まで張って話すということなのだから相当なことなのね」
「え!? 張ってるんですか!? 気が付かなかった…」
パナメラが結界を感じ取ろうとしているがまあ見た感じわかってなさそう。
「パナメラは知らないと思うけど、僕は勇者と聖女の子なんだ」
「………………はい?」
結界の魔力を感じ取ろうとしていたパナメラがいきなりの事実に呆けた声を出す。
「まあ、普通は最初聞いたらその反応になるわよね」
パナメラの頭からは少しづつ煙が上がっているように見える。
「そしてこれはアリルにも言ってないんだけど…」
いったん言葉を切って魔法を行使する。使う魔法はもちろん
「
二人の目の前で魔力の色を変える。銀色の魔力から金色の魔力へ。そしてその姿も。
少々子供らしさが残るが整いのある男の子から女性らしい体に、金色の髪をなびかせどこか儚げのある美少女へと。
この神の生まれ変わりの再現ではないかというような魔法を見ていた二人も驚きの感情というよりは夜に流れる幻想的なオーロラを見ているかのような感情が流れていた。
「美しい…」
「なんてきれいなの…」
一言ずつ残し、目をくぎ付けにされていた。
そして、ティアは変化が終わると閉じていた眼をゆっくりと開き二人に向ける。
「これが、私の持つ特別な力です…」
先ほどまでいた快活そうな男の子の様子はなく知的な雰囲気で話す。
突然の出来事に脳で処理しきれなくなり頭から煙を吹くパナメラと何とか飲み込んだ様子のアリルがこちらを見返す。そして
「これが・・・女子トイレにいた理由ってわけなのね?」
頭の回転が速いアリルはもう結論にたどり着いたようだ。
「ええ、その通りです」
肯定を示すとアリルが何とも言えない顔でいた。となりでは未だに煙を出しているが。
「まさかノアにこんな力があったなんてね…勇者と聖女の子で普通じゃないとは今までも思っていたけどほんとに普通じゃないわね…」
「私自身もさすがにこの力についてはそう思っておりました…ですのでこの力は極力人には話さないでほしいのです」
一つお願いをするとピッと指を立てるアリルが
「一つ聞きたいのだけれど、今のティアだったかしら?それとノアは別人格なの?」
ここが一番大事といわんばかりの目つきで聞いてくる。
「えっと…別人格といえばそうなのかもしれません、この姿の時でもノアの記憶はあります。ですが好みから性格、感性については全く違うので」
今まで人に見せることはなかったのでこの姿のことを丁寧に言葉にしてみると自分でも不思議な感じがする。
「そ、そうならいいのよ。ノアはノアなのね…」
少し安堵したような表情で先ほどまでの熱い視線を和らげる。
「ティアさん綺麗ですね!」
もう、アリルは考えることを諦めたようだ。目の前にいる人が綺麗であるという事実のみに目を向けている。
「ありがとうございます、パナメラさんも綺麗ですよ」
「いやん、それほどでもぉ」
社交辞令同士と思っていたのだがパナメラは素直な性格のようだ。
「それからもう一つ伝えておこうかなということがありまして、お二人は“第二の歌姫ティア”という名前をご存じでしょうか?」
「第二の歌姫ティア?」
「あ、昨日父上がその名前を言いながら騒いでましたね」
二人の反応は正反対のものだった。しかし二人ともさすがに気づいたようで
「「ん? ティア?」」
揃って声を出すとまさか?という顔でティアを見た。
「お二人のご想像の通り、私が第二の歌姫ティアです」
いよいよアリルが頭を押さえ始めて、パナメラは何も考えないようにしている。
「昨日、アリルさんといっしょに探していたのですがなかなか見つからず、最後の最後にちょうど声をかけて歌わせていただいたら思いのほか人気が出てきまして…」
続けてこのなぜ歌姫になったのかについては詳しく話した。マダム・オリアーナのことなどについてもだ。
「なるほどねぇ、私が帰った後にそんなことになっていたとは」
アリルは思いのほか受け入れるというかあまり引いている様子はない。パナメラについては先ほどから変わらず考えないようにしているようだ。
「確かにこの力についてはあまり言いふらさない方がよさそうね、あまり期待はしてないけどティアはどのくらい戦えるの?」
「えっと…一応いくつかですが第十五階梯魔法まで使えます…」
「「…」」
すごい。何かを感じ取ってる時のハムスターみたいな顔になってる。
「な、なるほど、そうよね勇者と聖女の子で戦えないわけがない…」
「すごいですね!ティアさん!」
まぁさすがに全部とは言わずとも第十五階梯魔法まで使えるのは私自身もおかしいと思いますね。
「と、とにかくこのことについては他言無用ね!パナメラもいいわね?」
「わかりました!お父様にも内緒です!!」
こうして女子トイレ覗きの疑いは晴れてノア(ティア)の力についても知る人間が生まれた。
「それでノアは今後ティアとしての学事の活動はどうするつもりなの?」
とりあえず姿をノアに戻して結界なども解除していた。午後ももちろん授業はあるため教室に戻る。
「んー続けていこうかなとは思ってるよ、まぁそのためにもまずはマダム・オリアーナさんを探さなきゃいけないし今日の放課後探しに行こうかなと思ってる」
正直続けていくにしてもこの業界のことなんて全く知らないし詳しい話を聞きたいと思ってる。なんなら契約とか結んでくれたらうれしいよね。マダム・オリアーナさんいい人そうだったし。
「そう、じゃ私もそれについてくわ」
「え?」
「なによダメなの?」
「いやもちろん一緒に来てくれるなら嬉しいけどいいの?」
たぶん今日は見つかるかもわからないし面白いことは何もないだろうそう思っての確認だったのだが
「いいわよ、あんたを一人にするとなんだかもっとやばいことに巻き込まれてそうな気がするのよね…まぁもう遅いかもしれないけど…」
アリルの勘は昔からよく当たるからそんなことは言わないでほしい。
「私もいっしょに行ってもいいですか!?」
横で聞いていたパナメラも元気よくはいってくる。
「うんいいよ、じゃあ今日の放課後三人でマダム・オリアーナさんを探しに行こうか」
まだまだ他の女子たちの誤解は解けていないが二人の誤解は解けて、ノアの力について知る人間が二人となった日だった。
***
「報告いたします」
夕方の光が沈みかける首都リメールを囲う砦の頂上にて部下からの報告を受ける“何でも屋”。
その本当の素顔を見たことのある者はおらず依頼人ごとに顔が変わる。
そしてその姿も若い男の姿の時もあれば老婆の姿であったともいわれている。
もちろんギルディアーナにも見せたことなどない。
「第二の歌姫が現れる少し前に学事を探している男がいたとのことです、そしてその男が走ってどこかへ行った後に第二の歌姫が現れたとのこと」
「学事…」
このリメール以外にも学校はあるが学事をわざわざこちらまで来てすることはないだろう。となると対魔王学院が怪しいと考えるのは必然のことだった。
「とろしい、私は学院に潜入することにしましょう、お前たちは引き続きマダム・オリアーナの監視と捜索を続けなさい」
「御意」
必要最低限の言葉を交わして一瞬にして消える。
「さて、どうしたものか…」
学院に潜入するとしても、もちろん警備などはそこらの施設よりは厳重である。いかに凄腕の何でも屋とはいえ簡単なことではなかった。
「ふむ…」
顎に指を当て考えていたがまとまったのだろう。そのまま脱力し塔の上から飛び降りると地面に着く直前その姿が消える。
それと同時に夕焼けも地平線に隠され夜の闇が街を覆い始めた。
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