第3話 歌姫
昨日は無事に?魔法検査などを終えた新入生たちはその後すぐに解散となった。寮の部屋も狭いながら一人一人に与えられて各々案内された。そして、詳しい魔法検査の結果は明日発表されその結果に伴いクラス分けがされるとのことだった。
検査の翌日である今日は休みということになっている。先生方が検査の結果を判定したりするためだ。ということで今日は
「リメールを散策してみよう」
してみようと思う。それに今日は散策しながら見つけなければならないことがある。
「何かいい
そう学事。ようは学生の仕事のことだ。
なぜ学校にいるのに仕事を探すのか。これはこの学校の教育方針によるものだ。
この学校は対魔王の教育機関だった。そして卒業後前線にて戦うことが決まれば大人たちに混ざりコミュニケーションをとったり作戦を行わなければいけない。そしてそれができないと命を落とすことになりかねない。
ゆえに、この学校では早い段階から教育として大人たちと仕事を行うことを成績に反映しているのだ。
また、このリメールという都市自体もこの学校の生徒たちを受け入れることには協力的で、むしろ様々な個性を生かして仕事をスムーズにしてくれるため快く思われているくらいだそう。先輩方では研究を手伝ったり、冒険者をしたりしているそうだ。
窓から外を覗いてみるとまだ朝早い時間にもかかわらず他の生徒たちも僕と同じことを考えているのか外に出かけ始めている。 友達と一緒に。
「………………」
おかしい。まだ何もしてないはずなのに…
とはいえ一人だからといって学事を探さないわけにはいかないので出かける準備をして外へ出る。
「んーったはぁ、今日もよく晴れてる」
一人一人に寮の部屋が割り当てられているとはいえぶっちゃけ狭いのだ。やはり広い外に出ると解放感がある。
そんな晴れた空気を体に取り込むようにしながら校門を抜けると目の前で赤い髪が揺れる。
「おはよ、あんたどうせ一人だと思ってきてあげたわよ」
デジャブかのような仁王立ちで胸を張り立ちはだかってくる。僕より身長は小さいはずなのに大きく見えるな。 身長はね。
「顔が失礼なこと言ってるわよ」
おっと危ない。
追及されないうちにさっさと出発しよう。もちろんアリルも僕と出かける理由は同じ目的なのでとりあえず一番当てがありそうな商業通りの方へ向かうことにした。
「さぁ!今日はコレンが安いよ!よったよった!」
「さっきあがったばかりの魚だよ!」
通りに入るとまさに盛況。
通りの横には商店が立ち並んでおり声掛けをしている。
生鮮食品から衣料品、何から何までこの通りに揃っているのだろう。さすがに貴族向けの高級品はないかな。
「とりあえずわかりやすいのだと商店の手伝いとか食堂の手伝いとかだけど…」
見てみるとちらほら商店に交渉している生徒がみられる。
「アリルは何をするか決めてるの?」
アリルは僕には少しあたりがきついけど器用だし見た目も目を引くものがある。引く手あまたではあると思うけどきになったので聞いてみた。
「ええ、魔物研究の手伝いよ」
「魔物研究?」
「そう、魔王があんたの両親に討伐されてからも魔物は出現し続けているわ。その原因を父上は研究してるしちょうどいいからその手伝いをするのよ」
ああ、そういえばアリルの父は魔物研究の第一人者だった。元々は似ているが違う研究をしていたのだが僕の父さんと母さんに出会ってから魔物の発生などについて研究し始めたらしい。
待てよ?じゃあ僕に付き合う必要ないんじゃ…
まぁここで追及するとまたプリプリし始めるので言わないでおくが。
「そっかあ、僕は特にやりたいこともないし片っ端からあたってみようかなぁ」
僕自身は特にこれがやりたいということはない。みんなの役に立って僕自身の経験になればそれでいい。何件か回っていけば大丈夫。
そんな思いでまぁすぐに見つかるだろう。そんなことを思っていた時期が僕にもありました。
―数時間後―
「なぜこんなにも見つからないんだ…」
絶賛僕は今、歌劇広場と呼ばれる広場の石階段でうなだれている。なぜかというと、言うまでもなく学事先が見つからないからだ。
行った先としては魚屋からパン屋から始まり酒場、食事場まで回りまくった。回りまくったのに
「ごめんよぉ、さっき決まっちまったんだ」
「今は人手が足りてるからねぇ」
こんな感じでなんだかんだ断られ続け今に至る。しかも、いつも何だかんだ遊びでも最後まで付き合ってくれていたアリルまでもが飽きたと言って帰ってしまったのだ。
それほどまでに過酷な旅だった…
「今日はもう帰ろうかなぁ」
お昼も食べずにぶっ続けで歩いていたのでお腹もすいてきた。もうこの辺では探しても見つからないだろうしまた別の休日に探そう。
そうしてここまでが徒労に終わったなと思いながらも立ち上がりお尻のよごれを払っていると広場の下の方ちょうど広場のステージ横でただならぬ剣幕で怒り散らしている派手な見た目のおばさn、マダムがいた。曲芸師か何かかな?
「どーしてくれんのよ!!今日のステージで一番人気の歌姫“ギルディアーナ”を連れてくるって言ったのはあんたたちでしょうが!!!!!!!」
マダムの前で一所懸命ペコペコしている一人がなだめている。
「す、すみません!マダム・オリアーナ昨日までは出るとの約束だったのですが今先ほど直前になって出演を拒否されまして…」
「ちっ! またドタキャンかい?あの小娘の気まぐれは何とかならんのかい!」
そう言いながら腕を組んで貧乏ゆすりをし始める。なるほどこの広場で今日は公演があるのか。歌姫が誰なのかは知らないけど。しかし、
「歌か…」
正直、歌を歌うことについては多少の自信がある。聖類魔法の中には歌唱系魔法もある。母さんはこの系統の魔法も得意だからティアの時に歌ってきた。
…ここは一度声をかけてみるのはありかもしれない。
もうここまで来ると当たって砕けろの精神である。ダメだとしてもまぁ予定通り別の日にまた探そう。
この状況自体予定外だが。
「あ、あのーすみません」
先ほどまで怒っていたが今はどうしようか頭を抱えているマダムに話しかける。
「あん?なんだいガキんちょ学事ならないよあっち行きな」
こちらをちらりと見て学生だと分かったのだろう。用はないとばかりに手をひらひらさせている。
「いえそうではなく、いやそうかもしれないのですが…先ほどの話が少し聞こえてしまいまして、歌がうまい子を探していませんか?」
この言葉にマダムの耳がピクリと動いた気がする。
「ふんっ確かに探してはいるがあんたが歌えるようには見えないねぇ」
じろじろ見ないでくれ。
「いえ、僕が歌うわけではないのですが…そう!姉がとんでもなく歌がうまいんです!」
自分でうまいというのは気が引けるがこの際いいだろう。
「ふーん、でその姉を今から連れてくるわけかい?」
肯定の意味で頷くと少し考えるようなそぶりを見せこちらに顔を戻す。
「いいだろう、ここであったのも何かの縁だし今は藁にも縋る思いだ、連れてきな!歌を聞いて合格だったら今日のステージわがオリアーナ歌団がお前の姉をあのくそ気まぐれ歌姫より有名にして見せるよ!」
獰猛な笑顔で両手を広げながらマダムは声高々に宣言した。そうと決まれば善は急げすぐに学校に戻りティア用の服を持ち外の女性用トイレに誰にもばれないように入る。
「
魔法を唱える。おそらく世界で僕にしか使えない魔法。
銀色の魔力があふれ出していた体が少し縮み丸みを帯び始める。それと同時に銀色の魔力は金色へと変化していく。
目をつむって変化が終わるのを待つと着替えを済ませ歌広場へ急ぐ。
「お待たせして申し訳ありません。こちらがオリアーナ歌団でよろしかったでしょうか…?」
「…………………………」
こちらをぼーっと見つめてくる。後ろの男にいたっては顔が少々赤い。
「い、いやあのガキんちょもかなり顔はよかったがまさかここまでとは………」
小さい声でぼそぼそ言っているためよく聞こえなかったのだけれど頭に手を当てているマダム。気に食わないことでもしただろうか?
「あ、あの…」
「よし!見た目は完全にあのくそ歌姫に勝っている!さあ歌ってみておくれ!」
目をキラキラさせながら顔を近づけてくる。恰幅もいいマダムだから食べられそうなくらいに怖い。
しかし…勢いにまかせて話しかけたから何を歌うのか決めてなかったわね。
ならばここは母さん受け売りの歌にしましょう。
「では、拙いものですがお聞きください」
少し距離をとって宮廷マナーで一礼する。
それから一息つくと私はそれはもう心を込めて歌った。母さんと丘の上で歌った自然に感謝し祈りをささげる歌。初めて聞いた時の記憶はいまも鮮明に覚えている。
「ど、どうでしたか?」
若干不安げに聞いてみると
「素晴らしい歌だ! どうして今までこんな逸材に気づかなかったんだい!合格に決まっているさね。さ、ステージまで時間がないんだから急いで準備するよ!」
言うや否やテキパキと指示をし始める。私もどこから現れたのかわからない化粧道具を両手に持った女性にステージ裏に引きずられていく。とりあえず合格できてよかったわね…
それからはもう人形のようにあれやこれやとされて衣装も金髪によく似合うようにと真っ白なドレスを用意された。そしてあっという間にステージの時間となった。
「いや、今日はギルディアーナじゃない別の人が歌うことになったらしいぞ」
「えーせっかく今日楽しみにしていたのに……」
やはり歌姫と呼ばれる人の歌を聞けずに残念がっている人が多い。席に座るにはお金がかかるためもったいなくて来た人が多いそんな事実がまたティアを不安にさせていた。
魔物相手なら怖くないのだがここまで大勢の前では緊張するものだ。今まで人との深い交流といえばアリルたち一家ぐらいのものだ。しかも今日はかなりのアウェーときたこんな悪条件はないと言ってもいいだろう。
バシッ!
「大丈夫さね!言いたい奴には言わせておけばいい。私が認めたあんたなんだから絶対にあいつらの度肝を抜けるさ!」
肩をたたき私を激励してくれる。うん、そうよね自信を持っていきましょう!
「お待たせいたしました皆様!今日はあいにくにより歌姫の登場はございませんがわがマダム・オリアーナが一押しの歌姫でございます!それではご登場いただきましょう!」
「さ、行きな!」
マダム・オリアーナの顔を見てうなづく。
ーコツ、コツ、コツー
ティアの履いたハイヒールの音が会場全体に響き渡る。
先ほどまでの文句交じりの喧騒がティアのあふれる気品、その美しさによって塗り替えられた。男たちはその姿に目を開き女性たちは頬を朱に染めている。
彼女の登場だけでもこのステージ全体を掌握したと言ってもいいだろう。
ステージの真ん中に着くと一言。
「みなさま、本日は来てくださりありがとうございます。皆様に満足して帰っていただけるよう精一杯歌わせていただきます。」
そしてティアが一息つきこの会場のだれかが息を呑む。その音が聞こえたとき
―Ah―――――――――――――
ティアの神の歌声かというようなその美声が響き渡る。聞くものはそれに心打たれ視線がティアに縫い付けられている。
文句など言う思考すら与えず魅了していく。中には涙を流すものもちらほらと現れるほどだった。
“聖女”この言葉が来た者たちの頭に浮かんでいた。
そうしてこの聖域とも呼べるようなステージは大絶賛で終了し街の中では
“第二の歌姫ティア”が誕生した。
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