第2話 普通に

14歳。


これまで結構自分でも頑張ったと思う。

朝早くからノアとして剣術を、朝早くからティアとして魔術を学びかれこれ十年以上たった。父さんと母さんの話だと都の学院でもこれなら苦労せず過ごしていけるだろうと言われている。


というのも今日から学院に通うことになっている。今は入学式を終えてクラス分けをするとのことで必修の魔法検査だ。ここでしっかりと実力を発揮して


―ドォゴォオオオオン!!!―



いつも父さんと母さんが言っていたように“普通に暮らせる”ように友達をたくさん作ってみんなで仲良く卒業したいね。


―ゴゴゴゴゴゴゴ…ゴォォオオオオオン!!―


でも誰も近寄ってこない。どうして?



――――――――――――――――———―――――――――――――――


―遡ること6時間前―


「さ、出発するぞ!」


父さんがいつものように意気揚々といった感じで馬車に乗り込んでいく。それに続いて僕も母さんも馬車に乗り込んでいく。今日はよく晴れてくれてよかった。僕の家から都の方へ行くのには馬車を使ってもかなり時間がかかる雨が降ればなおさらだ。自然にたくさん触れられるのはいいんだけど森がたくさんで魔物は出るし周りに同じ年の子供もいない。

都に同じ年のアリルがいるけど会うのも多くて月に1回といった感じだから今日からはたくさん遊んだり一緒に鍛錬できる。楽しみだ。


3人を乗せた馬車は勇者と聖女の家を背にどんどん小さくしていきながら森の細い道を進んでいく。木の間からはキラキラと日が差していて子供たちの門出を祝っているようだった。


「ん?」


しばらく進んでもう少しで森を抜け街道に出るというところで父さんが何か気になるような声を出した。見ると母さんも少し眉間にしわを寄せている。


「どうしたの?父さん、それに母さんも何かあったの?」


問いに母さんが答えてくれた。


「よく気を張ってごらんなさいノア、あなたも集中すれば多分わかるわ」


母さんがいつものように優しくやってみなさいという。こういう時は大体それが正解なので魔力を体に巡らせ地面を薄く這うようにしてどんどん伸ばしてみる。ノアなのでティアに比べると魔力が少ない。まぁとはいえ魔力感知くらいは余裕で出来るんだけどね。


そうして魔力を伸ばしていくと引っかかったいや、魔力が乱された。おそらくあちらもこちらに気づいているのだろう。


「これか…」


「十中八九まっすぐこの馬車を狙いに来てるな、しかしなぜこんな浅いところまで下りてきてるのか…」


父さんが指を顎に当てながら考えるようにしている。


そして父さんが言ったことはその通りだった。魔物たちは強ければ強いほど森の奥にいる。僕たちが住んでいたところはそこまで奥ではないので魔力感知に引っかかった“イービルウルフ”も自分たちから狩りにいかない限りは絶対に会うことがないからだ。


「とはいえここで放っておけば近くの村や街に被害が出るでしょう、ここで仕留めていくべきだわ」


母さんが聖女たらんという雰囲気で提案する。もちろんぼくや父さんも異論があるはずがなかった。御者には申し訳ないが少し急いでもらいながら急いで街道へ抜けてもらう。あちらがこちらを狙っている以上森の細い道だと戦いにくいからだ。


そうして森を抜けていくと…


「見えた」


森を抜けて視界がぱっと開ける。そして魔力感知に引っかかた馬車の右手側を見ると人間3人ほどの高さはあろうイービルウルフがこちらに向かって駆けていた。


するとここで父さんが1つ提案をする。


「今日は入学式のあとクラス分けがあるしここはノアに任せてみよう。いきなり使って実力を発揮できず学院生活が送れなくなると困るからな」


この言葉に母さんも“確かにそうね”と賛同し、ここで僕が一人で戦うことが決まった。まぁいつも通り戦えば負けることはない。


こちらに走ってくるイービルウルフを迎え撃つため馬車を止めて僕だけ降りる。父さん母さんは魔力障壁を張りながら御者さんを守る。


―グルゥアアアアアアアア―


宣戦布告と言わんばかりの雄たけびを上げながらその大きな体躯を活かして突進してくる。こういう時の戦い方ももちろん知っている。


超身体強化リミット・オーバー


体の身体能力を限界以上に引き上げる身体強化魔法をかけて、腰に差した剣に手をかけながら状態を低くし居合の形をとる。突っ込んできてくれる魔物にはこれが一番だ。


こうしている間にもイービルウルフはどんどん近づいてきていて魔法の効果もあり心臓が早くなるのが分かる。




そしてその時が来た。




―グゥワアアアアアアア―


鋭くとがっている凶器をちらつかせながら大きな口が目の前にある。僕は早刻みの心臓に抗い冷静に体の力を抜くようにしながらイービルウルフの下に潜り込むようにしてその口をよける。それと同時に剣に巡らせていた魔力を一気に解放するようにして下から上に振り上げる。


断罪剣ジャッジメントスラッシュ!」


常人が見たならば本当に刹那の出来事であったであろう。一部始終を見ていた御者も最初はあんな子供に任せるなど勇者と聖女も落ちたものだと心中で感じていた。しかしふたを開けてみれば一瞬にして魔物の首が狩りとられ立っているのは自分が心配していた子供だった。



そして数年後、御者がこの子供の始まりの日でもある今日を語るには


―普通じゃない―


これだったとのこと。




色々あったが無事に街近くまで現れた魔物は僕が討伐し近くの街からちょうど派遣された大人数の冒険者たちに後処理を任せ学院に足を向けた。

それからはさすがに大きな事件もなく無事に学院まで到着した。


「じゃあ私たちはここでお別れだからしっかりと頑張るのよ」


「何か困ったことがあったら手紙を出しなさい」


そう言って父さんと母さんが僕のことを抱きしめてくれる。


入学式自体は入学する子供たちと在校生によって簡単に行われるため保護者はこの馬車乗り場で別れる。他の子供たちを見ればここから距離が遠いのだろうか涙を流している親子もちらほらといる。それもそのはず貴族でもない限りは多くの学生が学院の寮にに入るからだ。そしてもちろん僕もに生活するために寮に入ることになっている。

僕たち親子は頑張れば会えなくもないのでそこまでしんみりとした別れではない。少々言葉を交わすと寂しそうではあったものの両親と別れ僕は学院の入り口に足を向けて歩き出した。そして


「あ、やっと見つけたわノア!」


見るからに元気いっぱいといった風貌をしている女子が入り口前で仁王立ちで待機していた。そしてその近くを通る男子たちが目を引かれるぐらいにその少女の容姿は整っていた。はっきりとした赤い髪によく開いた目この学院の制服であるスカートを履いているためにすらりとした足が日に眩しい。その少女がこちらに近づいてくると


「もう!あんたが時間を決めたんだから時間ぐらい守りなさいよね!」


怒られてしまった。まぁこれも当然のことだろう。

この学院に知り合いなんてアリルくらいしかいなかったので僕から手紙を出して学院の入り口で一緒に入ろうと約束していたからだ。


「ごめんよ、アリル。イービルウルフを倒してたら遅れちゃったんだ」


遅れた理由を正直に話したら


「…………は?」


僕の手を引き中に入ろうとしていたがバッと振り返りとんでもないくらい呆けた顔をされた。そして二人でそのまま顔を合わせること少々、アリルが口を開いた。


「えっと、イービルウルフってあの大きな牙に巨体のイービルウルフでいいのよね…?」


「多分だけどそのイービルウルフであってると思うよ?」


アリルは片手を腰に当てもう片方を眉間の皴に当てるとため息をついた。正直に話したつもりだったのだけどいけなかっただろうか?


「あんたはやっぱり普通じゃないわね…まぁ今に始まったわけでじゃないんだけど…」


よく聞こえなかったが何かを言いこぼした後よく晴れた空に向かって遠い目をした。


「さ、時間ももうすぐだし早く中に入ろう」


相変わらず遠い目をし続けるアリルを連れて僕たちは入学式に臨んだ。


そしてかれこれ進んでいき…





―ドゴォォオオオオン―


冒頭に戻る。

入学式をつつがなく終えた入学生は各得意分野を学ぶ前に全員共通である魔法検査を行う。どの分野に行こうとも魔法が関わらないものはないためだ。

そしてその検査の内容が魔法耐性の高い材質でできた的に向かい自分の得意な魔法を5発打ち込むというありふれたものだった。子供の頃よくこれで遊んだなぁ。

僕の得意な魔法といってもノアではティアの状態ほど高い階梯の魔法は打てないのですべて第10階梯になってしまう。こればかりは学院ではノアで過ごすと決めているのでしょうがない。


獄炎インフェルノ』・『氷獄アイスインフェルノ』『雷嵐サンダーストーム


ここまで3発撃ちこみ次の魔法を打ち込もうか


「スト―――――――――ップ!!!」


というところで目の前に現れ大きく手を振る女性の試験管さん。その顔は汗たらたらで若干青い気もする。寝不足かな?


「きみ!君の魔法検査は終わり!もういいから後ろの方で待ってなさい!」


「あ…はいぃ」


めっちゃ怒られて思わず語尾が小さくなる。今まで気づかなかったけど後ろを振り返るとさっきよりだいぶ後ろにほとんどの生徒が下がっていた。呆れ顔のアリルを含む何人かはそのままだが…


「全くあいつは普通に過ごす気あるのかしら…」


そのままなぜかわからないが気まずさを感じながら後ろに下がると他の生徒たちの魔法検査が再開された。


「いったいどうして…」


僕はわけもわからないまま気まずさに打ちひしがれながらうなだれた…




















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