ベタネタ集め
41.追放
【本日の勤務】
<早番>
改造人間ガシンギ
<日勤>
魔法少女シズネ、クラッシャーマン
<暇すぎてまだ帰ってない人>
超星剛神アステレグルス
────
存在呑みとの戦いが終わり、N県T市には平和が戻った。
その影響か通常のLDも鳴りを潜めており、ここしばらく緊急出動がない。
昨夜の夜勤のレオンくんも驚異の七時間睡眠をとれるレベルで、寝すぎてまったく疲れていないので俺と昼飯を食べてから帰ると休憩室でぐだぐだしているほどだ。
俺と高遠副支部長も月末の書類ラッシュを片付け、営業もひと段落ついたので急ぎの仕事はない。
そう、この日は俺を含む待機スタッフ全員が暇だった。
ミツさんは眠そうにあくびをしているし、岩本くんは音楽雑誌を読んで時間を潰している。甘原さんは窓際でひなたぼっこしているみたい。
そんな中、休憩室で大の字になって寝ていたレオンくんが事務所側にやってきて突如叫んだ。
「………………追放ごっこ!」
同時に彼は冷たい表情で俺を見る。
元が美形だけにそういう仕種がハマっていた。
「東翔太朗さん。あなたをこの異災所から追放する」
「な、なんだって!?」
俺はいきなりすぎる発言に動揺してしまう。
というか、普通にレオンくんの遊びに乗った。
「なんでだレオンくん!? 俺は今までこの異災所のために頑張ってきたじゃないか⁉ それなのに、急に追放だなんて……!」
「決まっている。俺が夜勤中に“がん○れゴエ○ンでろでろ道中お○けてんこ盛り”RTAをやろうとしたら、理不尽にも咎めたからだ」
「圧倒的に支部長が正しすぎる」
尋常じゃないほど追放理由が理不尽。
まっとうすぎる岩本くんのツッコミをスルーして俺達は盛り上がっていく。
「そんな、俺はゲームを連続でやりすぎて君の目が疲れないか心配しただけだったのに!」
「疲れ目にはブルーベリーがあれば何の問題もない」
「ブルーベリーは魔法のお薬じゃないですよ? 今度、マルティネス君に疲れ目に効くジュース作りますね」
「ありがとうございます」
甘原さんにもほんわか指摘され、レオンくんが普通にお礼を言っている。
「とにかく、お前は追放だ!」
「そんなー!?」
「……こうして、東翔太朗は異災所を追放されてしまった。しかし、レオン・マルティネスは気付いていなかったのだ。翔太朗が、今までどれだけ貢献してきたのかを……」
「あっ、ナレーションはマルティネス先輩なんスね?」
これで導入は終了。
ここから異災所を離れた俺の成り上がりストーリーが始まるのだ。
「まじめな話、俺が異災機構を追放された後の動きはどうなるんだろ?」
「まずマルティネス先輩がレイちゃんに殺されるんじゃないスかね」
「いや、だからまじめな話ね?」
「まじめな話なんだよなぁ……」
なぜか岩本くんが遠い目をしている。
でも氷川さんは優しい子だから、無意味に攻撃したりはしないのだ。
そこは高遠副支部長も理解しているので「彼女ならむしろ喜々として自宅に迎え入れて、東支部長のお世話をしますね」と語った。
それを聞いたら岩本くん、さらに微妙な顔になりました。
「……いまいちですね」
俺達の雑談を余所にレオンくんはしかめ面。
どうやらお気に召さなかった模様で、腕を組んで悩み込んでいる。
「うーん。そもそもの話、トップの支部長をいくら最強とはいえマルティネス先輩が追放って流れはおかしくないスか?」
「それは確かに」
「あ、俺も参加したいんスけど」
「いいよいいよ、大歓迎」
意外と興味を持ってくれたのか、岩本くんも意見をくれた。
言われてみれば確かに設定自体がうまく噛みあっていなかった。
次はそこを修正しよう。
「では、今度は配役を逆にしましょうか。……追放ごっこ、part2!」
その合図に俺は務めて冷酷な表情をつくり、鋭い目でレオンくんを射抜く。
「レオン・マルティネス。お前をこの異災所から追放する」
「へへ、ちょっとイケメンだからって調子乗ってた報いっスねぇ」
岩本くんは俺の太鼓持ちのようだ。
三下のように舌なめずりをしている。
「な、なぜ!? 俺は、あなたの役に立とうと頑張ってきたじゃないか⁉」
「ふん、確かにそうだな。だが、だが……だが、えーと、ちょっと待って」
やばい、追放の理由が思いつかない。
困っていると、急に立ち上がった甘原さんが小さな魔法のステッキを取り出して、それを振るう。
定番の光のエフェクトが入り、彼女の身体がきゅるんと小さくなる。
光が消えると、そこにはツインテールの美魔法少女シズネが可愛らしくポーズを決めていた。
そして彼女は、俺の方に体を寄せてくる。
「ねーえ、翔太朗お兄ちゃん♡ マルティネスくんをクビにしてぇ、私をこの支部のトップにしてくれるんでしょぉ?」
まさかの魔法少女シズネ参戦。
どうやら色香で俺を惑わせ、レオンくん追放を促した悪女ポジのようだ。
「なっ、きさま!?」
「だってぇ、彼がいると私が目立たないんだもぉん♡ ね、お兄ちゃん♡」
「あんたに味方はいねーってことっスよ!」
歴が長いだけあって演技もお手の物だ。
こうなるともう一人の女性にも声をかけておかないと。
「高遠副支部長も参加しない? 楽しいよ?」
「大丈夫です。私は最後に、ざまぁされて全てを失った東支部長を抱きしめて“あの頃の翔お兄ちゃんに戻ってよ……”と言う役があるので」
「ごっこ遊びを断る方便か、ただの本心か、どっちなんスかねぇ……」
いきなり素に戻った岩本くんが半目になっていた。
しかし残念だ。良子ちゃんの悪女ムーブも見てみたかったのに。
とりあえずシズネさんに負けないよう、俺も悪の支部長フェイスで告げる。
「そういうことだ。これからは、この異災所の看板は魔法少女シズネ。そして俺の補助はクラッシャーマンがやる」
「悪女とバンドマンに騙されないでください、支部長! 俺はあなたのためなら人に逢うては人を斬り、神に逢うて神を斬る! 現世のすべてを敵に回そうとも戦い、いくらでも屍を積み上げる覚悟があるというのに!」
「わー♡ 忠誠心がエグーい♡」
シズネさんもツッコミを入れつつ、俺は激昂して乱雑に宣言する。
「ええい、うるさい! 追放だ!」
「くそぉ、俺は、俺は……!」
「……こうして、レオン・マルティネスは異災所を追放されてしまった。しかし東翔太朗は気付いていなかったのだ。彼の本当の力が、どれだけ凄まじいのかを……」※ナレーション・魔法少女シズネ
導入終了。今回はいい感じだ
レオンくんもイケメンスマイルで頷いている。
「やはり立場が上の人の理不尽追放の方が収まりいいですね」
「だね。でも、レオンくんの実力に気付いてないって俺ヤバいレベルの無能だな」
「そこは、あれですよ。魔法少女シズネさんの色香には、支部長も勝てなかった的な」
レオンくんの言う通り、シズネさんの悪女ムーブすっごいハマってた。
「ふふん、演技なら私の方が慣れてるもんね。翔太朗くん、誑かしてあげよっか?」
「抜け出せなくなりそうなんでカンベンしてくだせえ」
「えー、どうしよっかなー♡」
うまいことシズネさんに転がされる俺くん。
もちろんお互い本気じゃないから言い合える冗談だ。
「じゃあ、ここからマルティネスくんの逆襲だね♪」
「あー、支部長の下を離れて、本部に栄転。その後実力を発揮して大活躍! って感じスかね」
「そして支部長たちは落ちぶれていく、と。……想像したらあまりすっきりしませんね。後々和解というか、そういう場面が必要でしょう」
レオンくんが難しい顔をしている。
まあ、あくまでごっこ。別に仲悪い訳じゃないしね。
ざまぁされるにはちょっと悪行度合いが足りなかったようだ。
「じゃあ、俺もざまぁされるわけだし、支部長はその後ローグラッドのプロデューサー兼マネージャーになるってのはどうっスか。異災所はダメになったけど、新しい場所で心機一転! 営業で毎日忙しく街を駆け回る。そんな時、異災機構の英雄となったレオンくんとすれ違う。声はかけられないけど、お互い頑張ってるってことを知って、ちょっとだけ笑い合ってそのまま別れる……みたいな」
「おお、岩本さんそれだ。罪が許されるわけではないが、ほんの少しの慰めが残る……メリーバッドエンド」
いい大人がバカな話でわいわい盛り上がる
俺とレオンくんの関係性にはオチが付いた。となると、魔法少女シズネさんの立ち位置が微妙になる。
「でもこの設定だと、一番ざまぁされるべきはシズネさんになっちゃうよなぁ」
これは困った。
俺が上手く追放できなかった弊害がここに来ている。
「そだねー。マルティネスくんに殴られるくらいする?」
「いえ、カラダの年齢を考えると規制されそうですし。むしろ大泣きして“ごめんなさい、許してー”でヒロイン化……すると不倫になるし、マスコット化じゃないですか?」
「じゃ、それでいこっか♡」
そうして三度目の正直。俺達は追放劇を始める。
「レオン・マルティネス。お前をこの異災所から追放する!」
超星剛神アステレグルスことレオンくんは、理不尽な支部長東翔太朗によって虐げられる。
その部下であるクラッシャーマンはにやにやと嫌な笑み。
魔法少女シズネの色香に惑わされた翔太朗は、彼女に操られるままレオンくんを言い渡されてしまった。
忠誠を捧げたのに裏切られた星の戦士は失意のまま異災所を去るし、シズネさんがメスガキポーズ中だ。
「おーい、バカやってないで昼飯どうするー?」
なお途中でミツさんから声がかかったので、俺達の寸劇はそこで終了。
シズネさんも変身を解いて甘原さんに戻る。
追放ごっこよりお昼ご飯だよね。
「あ、終わりました? 私は、今日は甘原さんとお蕎麦屋さんの予定なので」
「ええ。ですから、男性陣が先にお昼休みでかまいませんよ」
良子ちゃんと甘原さんはもうお目当ての店があるらしい。
「お蕎麦屋さんって、駅前の?」
「ええ。夫と昨夜映画を見ていたのですが、主人公たちがお蕎麦を食べていたのでつい」
「あー、なんか分かる」
テレビのワンシーンとか妙に美味しそうに見えるのだ。
でも俺の方は微妙に蕎麦の気分じゃない。
なので皆に確認を取る。
「俺らはどうしよっか?」
「今日はせっかく残ってくれたんだし、マルティネス先輩に合わせる形でいいんじゃないスか?」
「いいんですか? なら、お好み焼きが食べたいです」
「お、いいね。ミツさんもそれでいい?」
「おう、構わねえよ」
わりと簡単に決まった
ということで今日のお昼はお好み焼きだ。
女性陣に感謝を伝えてから俺達は外へ出る。
「お好み焼きなんて久しぶりだなぁ。俺は明太餅チーズと豚+エビ+イカのデラックス玉ね」
「ウチは息子がいるから、家ではたまにやるな。スタンダードにブタ玉。ビールは、やっぱダメか」
「俺もデラックス玉。あと、焼きそば頼んで皆で分けねーっスか?」
「いいですね。肉を倍増した上ブタ玉に、チーズと卵を追加で。あと締めに焼きおにぎりも」
俺の言葉に各々食べたいモノを上げていく。
こういう時、争いにならないのがウチのいいところだ。
「そういやマルティネス先輩、マジで支部長から追放されたらどうします?」
「されない。もしもされたとしたら、それは俺のことを考えてでしょう」
「あっハイ」
強い。
からかうような岩本くんの問い。でもきっぱりとしたレオンくんの答えに何も言えなくなってしまった。
それに触発されて、今度はミツさんが俺に聞く。
「じゃ、支部長はどうだ?」
「俺はこの仕事好きだし、考えたくないなぁ。追放されないよう頑張るので、ゆるゆる異災所を続けさせてくださいませ」
情けなくもお願いする。
その時に見せてくれた皆の表情が、ちゃんと答えになっていた。
ということで相変わらず俺らはバカをやっていますよ、という話です。
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