35.匂わせ系脳破壊ラジオ
【今日のラジオ】
<メインパーソナリティ>
淫魔聖女リリィ
<ゲスト>
魔法少女シズネ
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俺は、ローグラッドという男性四人組のロックバンドでボーカルをやっている。
メンバーは高校時代の友人同士で、十年来の付き合いとなる。
そこそこ人気はあるもののメジャーデビューには遠く、地元のライブハウスで地道に活動している最中だ。
ただメンバー全員「こいつらと音楽をやれるのが楽しい」と考えているため、現状でも衝突はない。デビューは憧れだが、それが叶わなくとも後悔はきっとしないだろう。
それはそれとして俺には最近一つの楽しみが出来た。
土曜の昼間にやっているラジオ、『お昼間ナイトタイム』である。
パーソナリティは過激なサキュバス衣装をまとう十代半ばの美少女、淫魔聖女リリィ。
初めはその容姿に魅了されてだったが、今では純粋にラジオ自体を気に入っている。リリィは勿論、よくゲストにくる聖光神姫リヴィエールやマイティ・フレイムにも興味が出てきた。
「おっと、時間だ」
そうして俺は今日もラジオに耳を傾ける。
……偶然遊びに来ていたウチのベーシストがすげー微妙な顔をしていたけど。
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『こんにちは。異災機構・端末事務所T市支部所属レスキュアー。淫魔聖女リリィの“ラジオ・お昼間ナイトタイム”、始まります。土曜日の穏やかな昼下がり、皆さんはいかがお過ごしでしょうか』
『今日は、ボクの所属する異災所であったことをお話ししようかな。パティスリー・ララってご存じですか? T市R町にあるケーキ屋さんです。ウチにはとっても甘いものが好きな子がいるんですけど、特にララのクリーム系が好きみたいで、ケーキを食べている時はいつも無防備な笑顔になります』
『それで……悪戯心というか。その子がケーキを食べているところに、ボクがフォークを差し出して“あーん”ってしたら、迷いなく食べたんです。それに後から気付いて、顔を真っ赤にしちゃって。申し訳ないですけどちょっとかわいくて笑っちゃいました』
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かわいらしいエピソードに思わずニヤニヤしてしまう。
「甘いものが好きな、しっかりしている子……リヴィちゃんかな? 友達の前だとそういうところがあるのか」
「……………………おう。甘いもの好きは、かわいいな」
俺が感想を漏らしても、ウチのベーシストの反応は悪い。
さてはこの野郎、俺をロリコンだと思ってやがるな? だが違う。純粋にリリィちゃんのラジオを楽しんでいるだけだ。
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『今日のゲストは魔法少女シズネさんでーす』
『土曜日なのになーんの予定もない童貞さん達こんにちは♡ シズネだよー♡』
『ちょ、やめてくださいよ。ボクのラジオけっこう女の子のリスナーも多いんですから』
『えーと、シズネさんは、ご存じの方も多いですが最初期から活躍されている魔法少女さんですねー。カラダは魔法の力で十一歳の頃から変わってないそうです』
『ロリババアって言ったりしたら、こわーい怪人さんが怒っちゃうからね♡』
『どういう脅しなんでしょうね? では今日の一曲目、魔法少女シズネさんで“ばにーないと☆まじっく”。こっちのナイトは夜じゃなくて騎士ですよ、ウサギさんの騎士。きゅーとでポップな曲調に、シズネさんの幼めの甘い声が魅力です。では、どうぞー』
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『……“ばにーないと☆まじっく”でしたー。ちょっと前の曲なんですけど、PVの飛び跳ね回るシズネさんがかわいいって大人気でしたよね。踊ってみた動画もいくつもあげられてました』
『みんなが楽しんでくれて私も嬉しかったなぁ』
『では続いては、お昼間ナイトタイム定番コーナー。“君の言葉が力になる”』
『わー、ぱちぱち』
『このコーナーでは、リスナーさんのお便りで募集した言葉を、ボクやゲストの方に実際に言ってもらう、というものです。あ、えっちなのはダメですからね? 例としては、以前ゲストに来てくださったガシンギさんのセリフが好評でした』
『俺の背中、お前に任せた』
『これはPN.ガシ勢筆頭メガネさんのお便り。名前からしてガシンギさんへの愛が溢れてましたよー』
『んー、ガシンギさん、濃いファン多いもんねー。相棒として肩を並べて強敵に挑むシチュは男の子の憧れだよね♡』
『こんな感じで、前回シズネさんのセリフを募集しました。では、えーと、PN.ざこざこ弱者男性さん。……このペンネームで大丈夫ですか? なにか悩み事があるなら別枠でボクにお便り送ってくださいね? では、シズネさんお願いします』
『ぇぇっ? キモっ。それにぃ、お兄ちゃんちっちゃーい♡』
『……いやこれホントに大丈夫ですか⁉ せっかく読んでもらえるのこれでいいの!? うーん……ボクも背が小っちゃい方ですけど、チビとか言われたらあんまり嬉しくないですよ?』
『あー、まだリリィちゃんは淫魔聖女なのに分からないかぁ。あのね、世の中には、色んな趣味な人がいるの♡』
『わーい、理解したくなーい』
『ちなみにぃ、リリィちゃんはどんな風に褒められたら嬉しい?』
『んー……た、頼りにしてる、とか?』
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「おっと、どこかのお方が言いそうなセリフ来たぞ?」
「どうしたよ? しっかしリリィちゃん、あの格好なのに初心なの可愛くね?」
「まあ否定はしないけどな」
これに関しては一応の賛成をもらえた。
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『気を取り直して質問コーナー。お便りは、PN.淫魔の眷属さんから』
“リリィちゃん、シズネちゃんこんにちは。僕はリリィちゃんのラジオを聞いてからT市の異災所に興味を持った新人ファンです。レスキュアーとして活躍する皆さんはかっこいいしかわいいしで、いつも応援しています。リリィちゃん、シズネちゃんに質問です。調べたらレスキュアーの皆さんは緊急出動に備えて待機していると聞きました。僕もバイトをしているけど、同僚の人とずっと待機しているのは人間関係とか大変だったりしませんか?”
『……はい、淫魔の眷属さんどうもー。ボクたちの異災所は和やかな雰囲気で、待機も苦ではないですねー』
『うん♡ 休憩場所はぁ、男女で分かれているから女の子ばかりで固まるけど、皆仲良しだよねー♡ ウチはすっごくゆる甘で優しい子が一人いるから、その子の影響でのほほんな感じになってるんだ♡』
『あー、それはありますよね。ボクもそ、その子のお世話になってる自覚あります』
『強がりだけど可愛いところもある感じだよ♡』
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「あー、確かにゆる甘な子はいるな。みんなに優しいな」
「へー、誰だろ? 俺はニワカファンだから今一つピンとこないんだよな。意外と、獣装甲アイゼンヴォルフちゃん、だったり? てか、お前実は詳しい?」
「ノーコメントで」
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『仲がいいと言えば、私は参加できなかったけど、この前お泊り会したんでしょ?』
『はい! みんなでボクのうちに泊まりに来てくれました!』
『リヴィちゃんから聞いたよー? 皆でお風呂入ろうと思ったのに、ひとり恥ずかしがって拒否する子がいたって。リヴィちゃんが“いっしょに入ろう”っていくら誘っても頷いてくれなくて、“許してください!”って逃げちゃったんだって? かわいいよね♡』
『……………そ、そうですね! いえ、ボクも恥ずかしくて無理ですけど』
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「この感じで行くと、恥ずかしがってるのはマイティ・フレイムちゃんか? 元気っ娘っぽいのに照れ屋ってことか……いい……」
「間違ってはないけど間違ってるんだよなぁ……」
ウチのベーシストがすげー疲れてる。
バイト、大変なのかね。
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『今日のお便り最後の一通は、PN.ヒーローのお嫁さん、さん』
“リリィさん、こんにちは。私の職場の上司であり婚約者(予定)でもある男性は、ゆる甘で優しいのに自分には厳しくて一人で無理をしちゃうような人です。強がりなところが可愛いくて、いざという時は怖いくらいに私たちを大切にしてくれます。そんな男性を私はとても尊敬しています。リリィさんはそういう人、どう思いますか?”
『えーと、いいんじゃないでしょうか。一人の人間として、うん』
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「火種やめろやぁぁぁぁぁぁ!?」
「うぉ⁉ ど、どうした!?」
いきなりウチのベーシストが叫び声を上げる。
もう情緒がおかしい。
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『そろそろお時間となりました。リスナーの皆さん、お付き合いありがとうございます。今日のお相手は淫魔聖女リリィと』
『魔法少女シズネでしたー♡』
『また昼間の夜に会いましょう』
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ふう、今日も良かった。
リリィちゃんの可愛らしい声を堪能した。午後からはスタジオを借りて演奏の練習がある。リリィちゃん成分を補給した俺は、ぱんと両の頬を自分で叩いて気合を入れる。
逆に気が抜けたようになっているのがウチのベーシストだ。
「恭二、お前……大丈夫か?」
「俺は大丈夫だよ。むしろ大丈夫じゃねーのは支部長だよ」
「意味が分かんねえ」
全く理解できないが、何らかの葛藤があるらしい。
ともかく、メジャーデビューを目指してしっかりと練習に励もう。
人気アーティストになったら俺らの曲をお昼間ナイトタイムでかけてもらえるかも、なんて想像すると自然と笑みが零れるのだった。
◆
後日。
「マイティ・フレイムさんが照れ屋さんで、リヴィエールさんが甘いもの好きかつ友達大好きっ娘。現状どこにも炎上は起きてない。しかも休憩室が別だからいつも女の子で固まっている、なんて印象操作までやってるんだよなぁ。……シズネさん、注意しようにもできないよこれ」
「嘘言ってる訳じゃないんスよねぇ……」
魔法少女シズネがゲストの回はとても好評だった。
リヴィエールとマイティ・フレイムもSNSで「仲良しでかわいい」みたいな意見が多い。
しかし放送を聞いていた東支部長とクラッシャーマンは、色々と裏を知っているだけに頭を抱えていましたとさ。
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