ラブホテル2号店 in サカリーバ

第104話 開店ラブホテル2号店①

 サカリーバ獣人国の西部には犬人族が暮らす集落がある。

 その集落に程近い森の中に、雄々しい勝色をした巨大な塔が出現した。


 塔、、、?

 あれは、、、塔なのか、、、?

 勝色をした巨大な塔が。

 塔?

 あれって本当に塔で良いの?


 失礼、テイク2。


 サカリーバ獣人国の西部には犬人族が暮らすうんたらかんたら。

 その集落に程近いうんたらかんたら。

 雄々しい勝色をした巨大な狼モニュメントが出現した。


 早朝のくっそ寒い中、朝の鍛錬に木組みの家を出た族長が「ははぁぁぁ!」と言って跪き頭を下げてしまう程の威容。

 あれは正しく10/1スケールのワンポ大明神である。


 ワンポとはランドソープ王国のエライマン領にあるピンクの塔、休息宿ラブホテルの愛玩動物件マスコットであり。

 サタンウルフという種類の最強わんわんモンスターでもある。


 因みに体長は3メートルもあって威圧感のある風体をしているが、ゴロンと寝転がって腹を撫でくり回されるのが大好き。

 見た目もゴールデンレトリバーっぽいので主人から狼ではなく犬疑惑を持たれている超絶キュートなワンちゃんだ。


 つまりあれだ。

 サカリーバ獣人国に休息宿ラブホテル2号店が爆誕した。

 まずはその内幕を紹介しよう。



「おっす!おらアイト!いっちょやってみっかぁ!」


 今日もアクセル全開で空回りをしているのは休息宿ラブホテルがあるダンジョンのダンジョンマスターであるアイト。

 日本からの転生者であるアイトは異世界でラブホテルを作って人間との共存共栄を図るというぶっとんだ発想を持つ天才寄りの馬鹿である。


「それって最早天才じゃん!」


 一体何を感じ取ってその言葉を吐いたのか。

 アイトは常人には無いシックスセンスの持ち主なのかもしれない。


「マスターは紛うことなき天才かと思います」


「そうだろうそうだろう!わっはっは!」


 常に隣からアイトをヨイショするのはアイトの秘書であり、ダンジョンのフロアボスでもあるヒショ。

 フロアボスというかアイトよりも余裕で強いのでダンジョンボスと言っても過言では無い魔族だ。

 青白い肌に二本角で眼鏡を掛けたスタイル抜群超絶美人である。


「今日も艶々のもふもふだわん。毎日ワンポ様をお撫で出来るなんて幸せ過ぎるわん」


 アイト達の座っているソファーの傍でゴロンと寝転んだワンポを撫でているのは、ワンポを撫でた過ぎてラブホテルに就職した元冒険者の犬獣人モカ。

 モカは15時から23時まで受付業務を行う従業員だが、今は勤務時間外なのでワンポを探してダンジョンのマスタールームへとやって来た。

 モカはワンポを撫でていると犬獣人なのに尻尾だけ暴れ馬になっている。


「そう言えばサカリーバにラブホテルの2号店を出す事にしたぜ。外観はこんな感じにしようと思ってるんだが、どうだ?」


 アイトはそう言うとフロントの様子を映していたテレビモニターを切り替えてラブホテル2号店のイメージ図を映し出した。

 卑猥だ。

 ナニとは言わないが非常に卑猥な形のナニかだ。

 細長い果実をたっぷりの生クリームとスポンジ生地で包んだ美味しい菓子に倣って言うのならば、“まるごとナニか”と言ってしまっても過言ではないだろう。

 それほどに堂々とした皮が剥いてある仕様のナニかである。


「悪くはないわん。だけどちょっとインパクトに欠けるわん」


 これでインパクトに欠けるの!?

 そして悪くないの!?


 モカは常人が驚愕する反応を見せたが、冷静にナニかを眺めながら難しい顔をした。


「サカリーバに作るなら何処に作るかが重要になるわん。獣人は種族が多過ぎて思想と行動がバラバラだわん。確かにこれは全種族に訴える普遍性はあるけれど、ちょっと普通過ぎて興味を示すかわからないわん」


 モカの冷静な分析に耳を傾けるアイト。

 見ているものがナニかでなければもっと言葉に重みが出るのだろうが、ナニぶんナニかをじっと見ているのでナニだか微妙に説得力がナニ。


「じゃあモカの出身地の近くに作るとしたらこんな感じで良いのか?」


 アイトはすぐさま考えを纏めてモニターの映像をナニかから別の映像に切り替えた。

 やけにリアルなワンポがおすわりしている姿が映し出される。

 それはまるでアイトの前世で人々が群がる例の忠犬銅像のワンポ版である。


「これで良いわん!ワンポ様なら間違いないわん!」


 あまりにもワンポ愛に溢れ過ぎているモカの一言によって、休息宿ラブホテル2号店の外観はワンポ大明神とする事が決定したのであった。

 そうと決まれば次は2号店開店に向けた準備である。


「まずは作戦会議室と地図を見る用に前衛的なテーブルゲーム機みたいなのを作るか」


 アイトはこうやって気軽に新しい部屋や階層、ダンジョンの装飾を作り出す。

 ダンジョンマスターはダンジョン力というエネルギーを使って、ダンジョン内に限り自分のイメージを具現化する事が可能なのだ。


 今回はゲームやアニメなどからインスパイア、、、パクった近未来的な、やたらと青い作戦会議室を作って中央にビリヤード台ぐらいのテーブル型モニターを作り出した。

 そのモニターを円状に囲む形で小型モニターの載った机が並んでいるが、恐らく誰も使う事も無い単なる飾りである。

 アイトは使う使わないは別にして無駄に雰囲気作りを拘る男なのだ。

 本当に無駄としか言いようがないのだが。


 作戦会議室を5分も掛からず完成させたアイトは、手の空いている従業員を集めた。

 とは言っても参加は自由だし賑やかし要因でダンジョン農園で農作業に従事している色とりどりの変異種オーガ達、通称オーガズを集めただけなのだが。

 オーガズは人間の言葉を喋れないし、特に意見もしないので本当に賑やかし要因である。


 作戦会議と作業の中心となるのはアイトとモカだけだ。

 ヒショはアイトの隣で一升瓶を持って酒を呷るのが基本のスタイルであるし。

 ワンポはテーブル型モニターの上にゴロンと転がって撫でて欲しそうに体をくねらせている。


「よーしよしよし!」


 おらがダンジョンのアイドルワンポを360度から皆で撫でくり回し。

 ワンポが満足した所でモニターに外の世界の世界地図を映し出す。

 アイトからすると前世の世界とは違う異世界の事を敢えて外の世界と言っているのは、ダンジョン内が外の世界とは別の世界だからである。


 ダンジョンの外装が存在し、ダンジョンと繋がる入口が存在する。

 但しダンジョンの内部は亜空間の別世界。

 だからダンジョン内をアイト達の世界と定義して、ダンジョン外を外の世界と定義している。

 要するにダンジョンという世界の長であるダンジョンマスターは神にも等しき存在であるのだが、その辺の話は置いておいて。


「ワンポが動くから地図がブレブレで草!」


 モニター自体が識別甘々のタッチパネルになっているせいで、ワンポが身を捩る度に地図の中心がずれる。

 しかし面白いのでそのまま続行を決断したアイトは、ブレブレのモニターでラブホテルのある現在地にピンを刺した。

 因みに映像上で刺したのでは無く、物理である。


 次に地図をランドソープ王国とサカリーバ獣人国が収まる範囲で拡大する。

 拡大して現在地がずれてしまったのでピンを抜いて現在地に刺し直した。


 二度手間。

 と言うかただでさえブレブレなんだから物理じゃなくて映像方の地図上に刺せば良いのに。


 そしてアイトはモカから犬獣人が住む集落の場所を聞き出してピンを刺し。

 現在地と集落の近くにある森の中心辺りを赤い糸で結んだ。


 どうして頑なにアナログを止めようとしないのか。

 こんなにも前衛的な作戦会議室で、どうしてそんなにもアナログに拘るのか。

 そもそもワンポが動く度にピンを刺し直す作業がアイト自身もちょっと面倒臭そうじゃないか。

 しかしアイトはアナログを継続する。


 何故ならこちらの方が絵面的に面白いからである。


 基本的にアイトは笑いに妥協しないタイプだ。

 それがウケるかどうかは別にして。


______________________________________

第3章開幕です。

基本的に土曜日の更新となります。

更新が無い場合はお休みと思って頂けたら幸いです。

よろしくお願いします。

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