第103話 ランドソープ王国御一行歓待パーティー

「ちょ、ちょっと待って下さいよぉ!湯気出てるから!それマジのやつだから!」


 時間は夜になり。

 ここはラブホテルがあるダンジョンの中に作られた豪華絢爛なパーティー会場。

 その正面に作られた舞台の上では蒼剣の誓いのリーダースミスが同じく蒼剣のニックに羽交い絞めにされていた。

 舞台の上に用意されたテーブルの上にはぐつぐつと湯だったおでんが置かれていて。

 蒼剣のルイスが箸でたまごを掴む。

 そして掴んだたまごをスミスの顔から僅か3㎝の距離まで持っていき。


「おい!止めろよ!?それ本気で火傷するやつだから!本気で火傷しちゃうやつだから!」


 これから何が行われるのか理解しているスミスはジタバタと逃れようとするが、スミスよりも力のあるニックがそれを許さない。

 するとスミスの抵抗も虚しく湯気が出ている熱々のたまごは更に近付き。


 手元を狂わせたルイスによってスミスの眉間をたまごが襲う。


「熱い熱い熱い!馬鹿!眉間は駄目だろ!眉間は危険って教わっただろ!子供の頃に!教わっただろうが!」


 スミスはちょっとした小粋なジョークなんかを交えながら見事なリアクションを披露し。

 ランドソープ王国一行からの小笑いを獲得した。


「おい、もういいだろ!もうオチもついたから十分だろ!もう十分やっただろ!」


 スミスはそう主張するが、どうやらルイスは続行するつもりらしい。

 ルイスは再度たまごをスミスの顔面付近まで持っていき。

 スミスの頬に付けようとした所でスミスが顔を逸らし、たまごはスミスを羽交い絞めにしていたニックの眉間を襲った。


「あっつ!避けるな!お前も勢いを付け過ぎだろうが!」


 誰もがスミスのリアクションを予想していた中でのニックのリアクション。

 ランドソープ王国一行からの中笑いを獲得した。


 そして最後はクライマックス。

 持っていたたまごは少し冷めてしまったので、新しいたまごに変えてスミスの口からルイスの顔面にバウンドさせる伝統芸の幕開けある。

 早速ルイスは持っているたまごを皿に置いて土鍋の中にあるたまごに箸を伸ばしたのだが。


 日本酒のつまみを探していたヒショが舞台に上がってミトンも使わずに素手で土鍋を持っていった。


 いきなり予定が崩れてピンチになる蒼剣の誓いの4人。

 モルト、お前も舞台上にいたのか。

 現在開催中のリアクション芸に必須のアイテムである熱々おでんを失った4人は苦渋の表情を浮かべ。

 伝統芸能の腹踊りでどうにかその場を乗り切ったのであった。


 最終結果はややウケだった。


「わっはっは!飲みねぇ食いねぇ!盛りたくなったら何時でも部屋を用意するから言ってくれよな!舞台上に大画面モニター置いて全員で鑑賞会するから!」


 そんな事を言われて盛りに行く者はいないだろう。

 ちょっとだけイレタッテが色んな意味でイキたそうに隠密王妃を誘っているが。


「ふむ、アイト殿。あのリアクション芸というのは素晴らしいな!パーティーの余興として最高ではないか!」


「わかるかねイレタッテ君よ。まずはリアクション芸人を育成する事からお勧めするよ。あれは専門職だからね。芸人の腕が良ければ熱くないおでんでも熱々おでんに変わるのさ!」


「ほぅ、つまりは熱さを魅せるのに特化した役者を育てるのだな?冷たい筈なのに熱い。その矛盾も含めて笑いに変わると。なるほど、勉強になるな」


「そう言う事だよ。しかしリアクション芸は熱々リアクションだけでは無いのだがね。我がラブホテルが誇るプロ芸人であるスミス君の処女作、プール落ちリアクションの映像もお見せしようか」


「うむ。それは非常に楽しみだ」


 休息宿ラブホテルとランドソープ王国。

 そのトップであるアイトとイレタッテは、だだスベりしたミュージカルネタから意気投合して物凄い勢いで打ち解けていた。

 そんな二人の様子を見て宰相のレスリーは頭を抱える。


 二人の仲が深まるのは王国側としては大歓迎だ。

 どう考えたって攻略不可能なダンジョンのダンジョンマスターと友誼を結んでおけば、何かのきっかけで国が危機に陥った時にも救いの手を伸ばしてくれるかもしれない。

 だからダンジョンがあるエライマン領の領主であるフォルカー共々、アイトと良好な関係を気付く事は非常に重要だ。


 しかしアイトからイレタッテに伝わっている情報は、その殆んどが新たな娯楽に関するものであり。

 イレタッテは確実にそれらを取り入れようとして自分達に無茶振りをして来るだろう。

 フォルカーがイレタッテとアイトは似たタイプだと言っていたのが良くわかる。

 この二人、立場は違えどテキトーで面白い事が大好きで直ぐ見切り発車をする性質だ。

 アイトから仕込まれた色々を実現すようとするイレタッテの姿を想像すると、頭が痛くなるレスリーなのであった。


 因みにヒショはアイトに仲の良い友人が出来たのを喜んでゴキゲンにペリニョンロゼをパカパカ空けている。


「あ、どうも」


「ええ、どうも」


 会場の隅っこでは誰からも話掛けられたくないエマと、あまり目立ちたくない隠密王妃が共に息を潜めていた。

 息を潜めていると言っても存在感が絶大のワンポがいるので全然潜んではいないのだが。


「その子、大きいけど可愛いですね」


「はい、大きいのも含めて可愛いですよ。触ってみますか?」


「良いのですか?では失礼して。もふもふで物凄く心地良いですね」


「ですよね。抱き枕にして寝ると気持ち良いんですよ」


「まぁ。それは羨ましいわ」


「オーナーに頼めば等身大のワンポ人形が作って貰えるかも。後で頼んでみます」


「嬉しいわ。ありがとう」


 こちらでは平穏で平凡な会話が繰り広げられて。

 エマに人族の友達が出来た。


「はあぁ!せあ!」


 フォルカーと護衛騎士の面々は会場の中央に作られたリングでオーガズとの模擬戦を行っている。

 死の危険が無い状態で変異種のオーガと手合わせ出来る機会など、外の世界では有り得ない。

 フォルカーがアイトに話をしたらオーガズによる余興バーリトゥード用に作っておいたリングを出してくれたので1対1、1対多での模擬戦が始まった。

 オーガズ側の攻撃は寸止め。

 騎士側は一度でも攻撃を当てれば勝利となる。


 そしてオーガズは完封勝利を収めた。


 そもそも元々強い変異種オーガが長年ダンジョン内で生きて更なる強さを手に入れているのだから、優秀な騎士とは言えど普通の人間に倒せる筈が無い。

 唯一肉薄したのはフォルカーだったが、これも良い線いった程度。

 相手をしたワインボルドーオーガからすれば驚異に感じる様なものではなかった。

 まあハッキリと力の差を見せ付けられた格好である。


「とても良い経験になった。感謝する」


 そう言ってフォルカーがワインボルドーオーガに握手を求め。

 ワインボルドーオーガも握手に応じて会場からは拍手が巻き起こった。

 フォルカーの健闘と変異種オーガの強さへの敬意。

 そしてフォルカーはリングを下り。


 代わりにリングに上がったヒショは拍手を受けて調子に乗っているワインボルドーオーガをぶん殴ってしっかりと兜の緒を締め直したのであった。


 一方少々存在感の薄いタスケ夫妻は宰相レスリーや周囲の重鎮達に近付き。


「こちらの果実や木の実は我がテーラ商会でも取り扱っております。よろしければ優先して販売致しますので、ご入用の際にはテーラ商会にお声掛け下さいませ」


 この絶好の機会を逃すまいと猛烈に営業を掛けていた。


 その後、透明な湯船に張られた熱湯に入っていられた時間だけ音楽が流れる舞踏会が開催され。

 外の世界の人間として初の熱闘風呂を体験したイレタッテは大満足でトップ会談というバカンスを満喫したのであった。


 アイトとイレタッテは再開を約束し。

 一行はソープランド王国の王都へと帰っていった。


 そして少しの時が経ち。

 ランドソープ王都へと帰還したイレタッテは有名なガラス職人を呼び出して。


「透明なガラスで出来た浴槽を作るのだ!金に糸目は付けん!なるはやで頼むぞ!」


 どうやらイレタッテはアチアチ熱湯舞踏会を開催する気満々な様である。

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