第102話 トップ会談④ 第一次お笑い大戦
徐々に徐々に。
じっくりとじっくりと時間を掛けて赤色をしたビロードの緞帳が上がっていく。
まずランドソープ陣営の目に入ったのは色とりどりの足だ。
赤、青、緑、黄、橙、紫、茶、灰、黒、そしてピンク。
他にも微妙に色の違う足が姿を現し。
膝の位置で一旦緞帳は止まった。
脛だ。
どうやらアイトはオーガズの脛をランドソープ陣営に見せ付けるつもりらしい。
オーガズの脛はしっかり脱毛しているのでつるんとしていて非常に綺麗なのである。
足タレだ。
最早足タレと言っても過言では無い程の脛の持ち主達なのだ。
ランドソープ陣営の。
特に騎士達はその足を目にして。
『『『『『あ、こりゃ無理だわ』』』』』
と全員が色々と諦めて白目を剥いたのであった。
だってあの尖った爪と逞しい脹脛はどう見たってオーガだもの。
しかも普通のオーガよりも数段強い変異種のオーガだもの。
変異種のオーガなんて1体に対して騎士団総出でかかる様な魔物だもの。
それがこんな数いたら全員瞬殺されちゃうもの。
最悪全員で肉壁になって国王陛下が逃げる時間だけでも作るぐらいしか出来ないもの。
相手方を怒らせたらもう妻にも恋人にも不倫相手にも浮気相手にも会う事は出来ないもの。
だって絶対死んじゃうもの。
別にいなくても良かったのだが、オーガズを並べておいたこうかはばつぐんだった。
そして緞帳が再度上昇し始め。
オーガズの半身が表れた辺りで一匹のモンスターが動き出した。
ソファーにゴロンと寝ころんでいたワンポが興味を惹かれたのか緞帳の所まで出て行って。
「うぉふ!」
とても可愛らしく鳴いた。
本当に愛くるしい姿と鳴き声である。
ランドソープ陣営の騎士達はちびった。
「こら、ワンポ座ってなきゃ駄目でしょ!」
エマが慌ててワンポの回収に向かい、どうやら普通の人間もいるようだと騎士達は少しばかり安心しつつ。
どう見ても小柄で華奢な少女のようであったので、数名の騎士の心はグッと掴まれた。
何処の世界にもロリコンは存在するのでる。
エマがソファーに戻ると急に緞帳が消えた。
マジックの様に一瞬にして消え去った。
何かもう途中で止めたり動かしたりするのが面倒臭かった。
けれど消したら消したでちょっと違ったなと思ったアイトはもう一度戻してゆっくりと緞帳を上げていく。
既に一回見えちゃってるけど。
既に一回見えてカップル王座にヤベェのが座ってるのに気付いちゃってるけど。
騎士の数人が腰抜かしてるけど。
ゆっくりと07分21秒掛けて緞帳は上がり。
遂に両雄が相まみえた。
片や天狗の面を着け。
片や斜めった口髭を着けている。
スベっている。
二人とも良い具合にうっすらスベっている。
うっすらスベり合っている。
互角。
初手の攻防は正しく互角の勝負である。
そしてアイトは天狗の面を取り。
イレタッテは斜めった口髭を外した。
ひょっとこのアイト。
チョビ髭のイレタッテ。
二段構えだ。
初手で万が一スベっても第二の矢で確実に笑いを取りに行く。
二人とも万全の準備をしてきた様子が見て取れる。
スベっている。
二人とも小気味良くスベっている。
小気味良くスベり合っている。
外の世界の人間に対しては鉄板のひょっとこも、トップ会談の場には相応しくなかった模様だ。
それは付け髭からのチョビ髭も同様である。
しかしアイトには全く動揺した様子が無い。
それどころか、中々の好敵手が現れたとひょっとこの下で薄く笑い小刻みに頷いた。
それはイレタッテも同様だ。
カップル王座のイレタッテの隣が空いているのに何となく気持ち悪さを覚えて着席する隠密王妃。
普段姿を現さない隠密王妃は恥ずかしがり屋なのか顔が真っ赤っかである。
そんな隠密王妃にアイトは気を利かせておたふくの面を用意し、彼女の手元に瞬間移動させると。
隠密王妃は軽く頭を下げておたふくの面を身に着けた。
ダブル王座の間で、まるで仮面舞踏会が開催されているかの様である。
ここで遂に両雄が動く。
ダブル王座の間は王座と王座の間に間隔が開き過ぎていてマイクを使わないと声が通らない距離なのだ。
二人はダブル王座の間の中央へと歩み。
護衛も兼ねてヒショと隠密王妃が後に続く。
レッドカーペットが敷かれた中央部分。
そこには直径5m弱の白い円が引かれている。
その中に入ったアイトとイレタッテは仕切り線の位置で向かい合い。
アイトはひょっとこを外し。
イレタッテはチョビ髭を外して素顔を晒した。
イレタッテの場合はあんまり素顔を隠せていなかったが。
互いの目を見合っての熱い牽制が続き。
ランドソープ陣営に緊迫した空気が流れる。
ラブホテル陣営は普段通りのリラックスムードだが。
そんな中で先に動いたのはアイトだった。
「おれはーアイトー♪
ラブホテルのオーナー♪
今日はランドソープ王国の王様が来たんだってさ!
どーんな男か楽しみがぁー過ぎるぅー♪」
ミュージカルネタだ!
しかもかなりクオリティの低いミュージカルネタだ!
一番やっちゃいけないやつだ!
一番スベる確立が高くて一番やっちゃいけないやつだ!
自分の周囲を周りながら突然歌い出したアイトに対してイレタッテは。
「わーれーはーイレタッテ♪
ランドソープ王国で国王をしているー♪
こんな面白い所が我が国に出来たなんてな!
もっと色んな所を見てぇー楽しみたいぜぇー♪」
乗った!
一番乗っちゃいけない船に乗った!
既に船底に穴が開いている状態の船に乗った!
その船は泥船中の泥船だぞ!
そして本当にどうしようもない、鼻をかんだ後のちり紙以下の寸劇が10分以上に渡って繰り広げられ。
「「我々の友誼をここに結ぶぅー♪」」
二人が握手をして寸劇が終わる。
ヒショを中心として広がる疎らな拍手。
ダンジョンにおいて神の様な存在であるアイトと、ランドソープ王国の国王イレタッテが初めての共同作業で作り上げたアドリブミュージカルなのに疎らな拍手。
そのリアクションがミュージカルの完成度の低さとつまらなさを物語っているだろう。
しかし二人は誰が見たってやり切った表情を浮かべていて。
ラブホテル側、王国側と二人で礼をする。
それでも尚、疎らな拍手である。
これはもう誰かが「もういいよ!」ぐらいの一言を言って終わらせなければ収集が付かない。
だがグダグダの中心にいるのはダンジョンのトップと国のトップである。
そして一番熱心に拍手を送っているのは、この場において最強のダンジョンボスである。
無理だ。
こんな状況で「もういいよ!」なんて言える者がいる筈が無い。
例えアイトとイレタッテが共に“そろそろ誰かがこの場を収めてくれないかな”なんて事を考えていたとしても。
アイトとイレタッテが初めて相まみえた会談は。
終始グダグダで何とも言えない空気をだだ漏らしながら1時間後に終了したのであった。
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