第101話 トップ会談③

 ランドソープ国王一行がピンク色の塔に到着した。

 今は塔の横に馬車を停めて乗り込み口から塔の入口まで騎士が並ぶ厳戒態勢が敷かれている。

 ぎっちぎちだ。

 騎士が隣との隙間なくぎっちぎちに詰まった厳戒態勢だ。

 但しその横を普通に客が通っていくが。

 今日も休息宿ラブホテルは平和に休まず営業中である。


 そして姿を現した国王イレタッテランドソープは。

 両開きなので逆の乗降口から馬車を降りたので、騎士達は慌てて馬車を取り囲む形で列を延伸した。

 これなら右も左もカバーする事が可能だ。

 一度の失敗からしっかりとした対策を立てるとは、全くもって優秀な騎士団である。


 イレタッテは騎士達の作ったランウェイをモデルウォークして塔の入口へと向かう。

 後に続くのはレスリーとフォルカー。

 イレタッテのマントの裾で転んでしまわない様に裾を持ち上げるマントボーイとマントガール。

 いつからいたのか謎な隠密王妃。


 列の先頭にいた騎士が扉を開いて、数名の騎士が先導する形で休息宿ラブホテルの中に入り。


「こら!我よりも先に入るとは狡いぞ!」


 イレタッテの要望によって騎士達は一旦外に出されて、イレタッテが先頭でラブホテルへと入店した。


「ほう。これは」


 イレタッテは三回転半してラブホテルのエントランスを見回った後で。


「ま、ままままま、まぁまぁだな。まままままま、まぁまぁだな」


 全然まぁまぁ感の伝わらないどもりっぷりで、まぁまぁと評価を下したのであった。

 そもそもラブホテルの内部は、多くが外の世界の技術で再現不可能なもので構成されている。


 鏡面仕上げの大理石も。

 曇りの無い防弾ガラスも、すりガラスも。

 現状の技術力ではまず再現出来ない。


 等身大ミアミアちゃんフィギュアだって再現するのは不可能だ。

 客室を選ぶ例のパネルなんかはその最たる例である。

 だから。


「ままままままままま、まぁまぁではないか」


 国で一番目が肥えている筈の国王が、こんなリアクションになってしまうのもやむを得ないのだ。


「少しは落ち着け」


「国王の威厳が崩壊しているぞ」


 既に一度ラブホテルに訪れた事のあるレスリーと、何度も訪れているフォルカーに両肩を触られて漸く落ち着きを取り戻したイレタッテ。

 フロントにいるモカが手でOKサインを出したのを見て。


「準備が出来たみたいだ。行くぞ」


 フォルカーは客室へ向かう扉を開くとそこへ入る様にイレタッテへ促したであった。



「わっはっは!ポーカーに勝って国王になった!税金として全員から金貨5枚貰う!勝ったな!」


 今回の会談の為に作られたダブル王座の間では。

 ランドソープ国王一行の到着を待つラブホテル一行が、人外生ゲームをして暇を潰していた。

 ポーカーに勝ったら国王になるとは一体どんな状況なのか。


 その世界、国王の肩書が軽過ぎないだろうか?


 全員に金貨を5枚も払わせる暴君になり果てたアイトの元にリアルマネーが集まる中。


「え?御一行到着しちゃった?今良い所なんだけど。わかったテンキュー愛してるぜ!おーい!タイミング悪いけど到着しちゃったみたいだから今回の人外生ゲームは引き分け!急いで後片付けタイムだ!」


 アイトの作った人外生ゲームは2億年にも及ぶ壮大なゲームなので本気で遊ぶとゲームが終わるまでに2年は掛かる。

 初めから勝負が付くとは思っていなかったラブホテル一行は全員でシートを折り畳んだ後にヒショが殴って霧散させた。

 先が長過ぎてもう二度と遊ぶ事は無いだろうとアイトが判断したのだ。


 そしてアイトが龍をデザインした王座に着席し。

 ヒショがその隣に座った。


 カップル王座だ。

 普通の王座では味気ないからとアイトが生み出した新しい形の王座。


 二人掛けカップル王座である。


 カップル王座の右手には王座よりも存在感のある白くて横長のでっけぇソファーにエマが座り、ワンポはゴロンと寝ころんでいる。

 左手には普通の長ソファーに蒼剣の誓いからスミスとルイス。

 専属ハンターのバルナバス夫妻。

 テーラ商会からタスケ夫妻が座り。

 左右ソファーの横にずらりとオーガズが並んだ。


 オーガズは全員色違いの変異種なので横に並ぶと絵面が煩い。

 カラーコーディネート0点の順番で並んでいたりするので若干イラっとする並びである。

 しかし、それを指摘する者は誰もいない。


 アイトはオーガズにまであまり興味が向いていないし、アイトが何も言わなければヒショも何も言わない。

 エマは人見知りなので顔を隠す為のワンポ君マスクを被っていて、視野が狭いし延々とワンポだけを視界に入れてやり過ごそうとしているし。

 外の世界の人間達は自分の住む国の国王と対面するので緊張気味でそれ所ではない。

 だから本人達で気付くしかないのだが。


「ウァウ!アアウ!」


 どうやら色の並びが悪い事に気付いたウルトラヴァイオレットオーガが指示を出して並び順の入れ替えを始めた。

 特にハレーションカラーになっている並びの間に彩度の低い色合いのオーガを入れて調整を図っているのだ。


 そんなウルトラヴァイオレットの様子を見て甚く感心したのだろう。

 ヒショがカップル王座から立ち上がってスタスタとウルトラヴァイオレットオーガに近付き。


 出しゃばり過ぎで目障りだったので右ストレートでぶっ飛ばした。


 宙を舞ってからぐしゃりとレッドカーペットに倒れ伏したウルトラヴァイオレットオーガは。

 大きな仕事をやり終えたような清々しい表情を浮かべているのであった。


 そんな変態オーガの事は置いておいて。


 この場にいないヤマオカやレイさんとモカは通常業務を行っており。

 ミーアとラブリスは興味が無いので、それぞれゲームと酒造りに没頭している。

 ラブリスに関しては酒を飲んでいる時間の方が長いが。


 ニックとモルトは念の為部屋で待機。

 マシマシオーク亭の面々も店の営業があり、アンネは幼いので不参加となった。


 今回のトップ会談に関してはこの布陣で挑む事となる。


 ウルトラヴァイオレットオーガが所定の位置に戻ると緞帳が下りてラブホテル陣営を隠した。

 すると緞帳が下りたタイミングと示し合わせた様に。


『ランドソープ国王のおなぁりぃぃ』


 どこからともなく時代劇風の音声が流れて、ダブル王座の間にランドソープ国王一行が姿を現した。

 イレタッテは一度王座の間を見回してから深く頷いて。


 床にゴロンと寝転がってレッドカーペットの質感を確かめた。


 だって靴底に吸い付く様な感触で寝転んだらとっても気持ちが良さそうだったんだもの。

 仕方が無いじゃないか。


「こら!よせ!」


「馬鹿王が!さっさと立ち上がれ!」


 あまりにも自由人過ぎるイレタッテの行動に、レスリーとフォルカーが注意をするが。


「嫌だ嫌だ!我は今からこのカーペットの家で昼寝をするんだい!こんなに寝心地の良いカーペット他にないんだい!」


 子供みたいに喚き散らして一向に立ち上がろうとしないイレタッテ。

 そんな国王の様子に二人は呆れた様子で天井を見上げてから深く頷き。


「ぐはぁぁぁああ!」


 天井から降って来た隠密王妃の拳が鳩尾に突き刺さって悶絶するイレタッテ。

 重要な面会や会談の場においては隠密王妃が躾をしてイレタッテを引き締める場面が多々見受けられるのだ。


 そのまま暫く床をのたうち回った後で十分にリアクションが取れて満足したのか、すくっと立ち上がったイレタッテ。

 フォルカーの先導でイレタッテを王座へと誘導し。

 イレタッテは虎がデザインされたカップル王座の右側に腰を下ろした。

 カップル王座の意味に気付いたイレタッテはニヤリと笑ってから正面に見える緞帳を見据える。


 いよいよダンジョンマスターアイト・シュクノとランドソープ国王イレタッテ・ランドソープの第一次お笑い大戦が幕を開ける。

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