第100話 トップ会談②

「我が国の国王、イレタッテ・ランドソープがエライマンに到着した。ラブホテルへの視察は3日後としたいのだが、どうだろうか?」


 その日の夕方、エライマン伯爵領の領主フォルカー・エライマンが直々に訪ねて来てアイトにイレタッテの到着を告げた。

 アイトは既に3時間以上ももみもみし続けているのだが、未だにその構えを解く事はなくフォルカーの方に目線を送る事すらしない。

 アイトは今、数百年ぶりのもみもみに全力集中しているのだ。

 今のアイトには誰のどんな言葉であっても届く事はないだろう。


 と思ったらエマにチョークスリーパーを極められて、もみもみ状態は無理矢理に解除された。

 もみもみは解除されても、本来ならば背中に同等の感触を覚える筈なのだが。

 全くもって何も感じない。

 残念だ。

 大変に残念な絶壁である。


 しかし広い世の中には無を愛する民も数多く存在するので、下を向く必要は全く無い。

 寧ろ胸を張って無である事を強調するのだ。

 但し開き直るのではなく、多少自信無さげな方がポイントが高いので注意は必要だ。


「デュエルスタンバイ!」


 どうして今、その台詞を言ったのかは謎過ぎて理解に苦しむが。

 漸くフォルカーの方に顔を向けたアイトの宣言に。


「3日後で大丈夫だって言ってます」


 エマの注釈が入り。


「遂に頂上決戦か!何をしてやろうかなぁ!」


 アイトはノリノリでリンボーダンスを踊り。

 腰を痛めて床に崩れ落ちたのであった。


 そしてすったもんだあってトップ会談の当日を迎える。


「本日!我がラブホ軍は!ランドソープ王国軍との“ドキッ!女だらけの水泳大会ポロリもあるよ”において優秀な成績を収め!なんかちょうど良い具合にちょうど良く、、、ちょうど良い収まりを見せる事をここに誓うぞ!行くぞぉぉぉ」


「「「「「ウオォォォォォオオオ!」」」」」


 朝、マスタールームに集められたオーガズを含めた従業員達は円陣を組み。

 アイトの掛け声に合わせて雄叫びを上げた。

 雄叫びを上げているのは主にオーガズだが。

 と言うかほぼオーガズだが。


「ぞぉぉぉおおりむしぃぃ!」


 そして雄叫び尻に余計なものをひっ付けて見事にスベったアイトのお陰で、オーガズを含めた全員がスンッとなった。

 気合いが入り過ぎて空回ってはいけないと判断したアイトが、敢えてスベる事で皆をクールダウンさせたのだ。

 決して掛け声の途中で思い付いたからと語尾に巨大な蛇足をぶち込んでしまった訳ではない。


 スベってないし。

 何ならスベってすらいないし。

 スベったけどスベってないし。


「よし。という訳でね。行くぞ!出陣じゃぁぁい!」


「「「「「ウオォォォォォオオオ!」」」」」


 という訳で自ら編集点を作り出してシンプルに仕切り直しをしたアイト一行は。

 会談が行われる会場へと一足先に移動して、超大所帯の人生ゲームをしてランドソープ国王一行の到着を待ち構えるのであった。



「漸くこの時が来た!我は今日!休息宿ラブホテルなる宿を全力で楽しむ事をここに誓う!皆の者!遊びに往くぞ!」


「「「「「お、おー」」」」」


 こちらはエライマン伯爵邸。

 国王のイレタッテが気合いの入った掛け声を掛けたのに対し、微妙な反応の騎士達。

 いや、騎士だけでなくイレタッテの身の回りの世話をする者達でさえ微妙な顔を浮かべている。

 理由はただ一つ。


 イレタッテがパンイチなのだ。


 そしてイレタッテの後ろで宰相のレスリーがオーガのような顔をしているのだ。


 これでは国王直属の騎士や世話係であっても微妙な反応になるのは仕方が無い。

 だってこれから絶対に怒られるんだもの。

 宰相が国王の尻目掛けて、今まさに木剣を振ろうとしてるんだもの。


 ビュン


 バシッ!


「おほぅ!」


 レスリーが横薙ぎにした木剣がイレタッテの尻に直撃して。

 エライマン伯爵邸の庭を転がりまわるイレタッテ。

 レスリーは随分と手加減をしたので、今転がっているのは確実に演技である。


 イレタッテは蒼剣の誓いスミス程の域には達していないが、世界でも有数のリアクション芸を極めし者である。

 国王なのにリアクション芸なんてやっていて良いのかと疑問に思う所ではあるが。


 そのまま転がる事10数分。


「そろそろ行くから着替えてこい」


 イレタッテは世話係によって会談用のマトモな服に着替えさせられて、ブー垂れながら王家の馬車へと乗り込んだのであった。


 そして馬車は出発する。

 馬車はゆっくりとエライマン領都のメインストリートを進む。

 馬車を先導するのは馬に乗ったフォルカー・エライマンである。


「フォルカー様だ!」


「フォルカー様!抱いてぇぇ!」


「フォルカー様!抱いてぇぇぇええ!」


 街中に野太い声援が響き渡る。

 少しばかり野太い声の抱いて民が多い気がするが、きっと気のせいだろう。

 そして。


「フォルカーばかりが目立っているではないか。誰も我の事を見ていないぞ。我が国王なのに」


 馬車の中で文句を垂れるイレタッテ。


「エライマン領でのフォルカーの人気は凄まじいものがあるからな。どこの街に行ってもあいつは人気があるが」


 仕方が無いだろうと横に首を振るレスリー。


 そう、確かにフォルカーの人気は凄まじいのはイレタッテも知っている。

 しかし、それだとしてもフォルカーばかりが注目されているのを黙って見れいられるイレタッテではないのだ。


「名前は知らんが大柄の騎士よ!あれをやるぞ!」


「はっ!」


 あれだけのコンビネーションを見せておいて、お前も名前を知らんのかい。

 イレタッテは馬車の屋根を開くと跪いた大柄の騎士の肩に足を乗せ。

 大柄の騎士が手で足を支えながら立ち上がった。

 するとイレタッテが突然屋根の上に現れた様に見えて民達の視線が集まる。


「我がランドソープ王国の国王!イレタッテ・ランドソープである!皆の者!我に歓声を捧げよ!」


「「「「「わぁぁぁああ!」」」」」


 確実に自分から欲しがった形となったが、民達の歓声が上がり。

 明らかにフォルカーよりも大き目の歓声を受けている事に気持ち良くなったイレタッテは王冠を民達の中に投げ入れた。

 それに気付いたフォルカーは馬から降りて全力ダッシュで空中にある王冠をダイビングキャッチ。

 身に着けている金属鎧に多くの擦り傷を付けながら石畳をズザァと滑ってからすくっと立ち上がり。


「民に向かって王冠を投げ入れるなど、お前は本当に頭がおかしいのか?そもそもどうして出発時から王冠を身に着けているんだ!言っておくが国宝だからな?目立ちたいからといって国宝を気軽に身に着けるな!大体お前はだな、、、」

 

 イレタッテは民達に笑顔で手を振りながらフォルカーに滅茶苦茶怒られたのであった。

 そんなこんなで一行は街を出てピンク色の塔へと到着する。


 余談だが。

 イレタッテは若干の高所恐怖症なのか、大柄の騎士から降りる時には滅茶苦茶足を震わせながら気を付けて降りていたとだけは加えておこう。


______________________________________

記念すべき100話です。

正直言って飽き性の私が一つの作品をここまで書けたのは奇跡と言っても過言では無いです。

ここまで読んで頂けれている読者の皆さんに心からの感謝を。


第100話をお読み頂きありがとうございます。

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