第35話 ネイトa.k.aスミスの嫁探し③

 ラブホテル主催のスミス対多による婚活パーティーは順調に参加者が集まっているらしい。

 フロントに立つエマに冒険者と思われる男達が世間話がてら告げるのだ。

 例えば。


「最近冒険者を引退した先輩が恋人を探しててさ。ネイ、、、スミスさんの事を話したら恋人に立候補したいって言ってくれたんだ。40代だけど別に年齢制限は無いよな?」


 とか。

 続きまして。


「宿の隣に住んでる未亡人がネイ、、、スミスさんのファンで俺の紹介で参加する事になったんだよ。50代なんだけどさ」


 とか。

 続きまして。


「俺の母親に参加しろって言ってさ。60代だけどネイ、、、スミスさんなら平気だよな?」


 若干熟年世代が参加する婚活パーティーの様相を呈してきたが。

 と言うか母親が自分の紹介でスミスとくっ付いたら嫌じゃないのか。

 ついでに唐突に改名するから誰一人としてすんなりスミスって名前が出て来ないじゃないか。


 冒険者達の紹介する女性にはあまり期待が持てないかもしれない。

 そもそも冒険者には女好きが多くて、自分の狙っている女性を紹介したいとか絶対に思わない。

 狙っていなかったとしても、まぐわれる可能性が有りそうな女性を紹介しようとは絶対に思わない。

 なので自然と自分の守備範囲から完全に外れている相手を選んで話を持ってくる事になるのであった。


 婚活パーティーの参加に関しては自薦他薦を問わないし、紹介者は冒険者でなくても構わない。

 なので当日は偏った若干高めの年齢層に固まる事は無いのではないかと思われるが。

 今の所は40代以上が圧倒的に多数を占めそうではある。


 皆紹介者の中から抽選で3名に当たるランクE客室2時間利用無料券を狙っての事なのだが。

 抽選では無くスミスが選んだ女性に当たると条件付けをすれば参加者の傾向は変わっていただろう。

 そこはアイトの失策である。


 因みに蒼剣の誓いは全員が28歳であり。

 スミスは別に熟女趣味では無と言う。


「な、な、、、、」


 婚活パーティー当日になり。

 イベント開始の14時に先んじてスミスが現地入りをした。

 そして新たに生まれたパーティー&ナイトプール部屋に転移したスミスは。

 だらしなくあんぐりと口を開けて言葉が出て来ない様子である。


「どうかね。中々のものだろう」


 相当に自信があるのだろう。

 天狗の面を着けたアイトが何故か木製のバットを振ってから確信歩きを見せる。


「あでぃがとうございばす!おで!がんばでぃます!」


 対して汗と涙と涎と鼻水とローションで顔面をぐっちゃぐちゃにして、きったなく決意表明をしたスミス。

 ローションは顔の汚れを落とす為にぶっかけたアイトのサービスである。


「斯くして全身ぬるぬるローション塗れのスミス君は嫁を見つけ出さないと死んでしまう婚活パーティーへと臨んだのであった」


 アイトが何か言っているがスルーして。


 14時になり次々に部屋に現れた参加者と紹介者達。

 紹介者に関しては14時5分までの参加となり、その後は外へと放り出される。

 なので希望者のみの参加となっているのだが、紹介者の全員が14時5分までの参加を希望したのであった。


 だって目玉が飛び出るぐらいお高いランクSの客室を実際に見れるって言うんだもの。

 不参加って言う奴はいないよね。


 先っちょだけでもとか考える不届きがいないとも限らないので寝室へ繋がる扉は施錠されている。

 トイレは多めに用意してあるが、全て個室なので我慢が出来なければプールサイドの排水溝でお花摘み摘みするか。

 アイトはプールに飛び込んでバレない様にお漏らしするのを推奨している。

 外の世界の物は尿だろうが垢だろうが後にダンジョンに吸収されてダンジョン力に変換されるから安心安全でそれほど汚くないのだ。


「いや、尿は別に汚いもんじゃないわ!」


 何処のアイトかわからないが訂正が入ったので謝罪しよう。

 尿は生搾り後、空気に触れて雑菌が繁殖するのが早いだけであり。

 出したばかりの尿は飲んでも問題が無いくらいには綺麗なものだと言われている。


 但し膀胱や尿道にいる菌が混ざり込む可能性は大いにあります。

 尿を飲む際は用法用量を守って自己責任の下、安全には充分に気を付けて飲みましょう。


 話が逸れたが婚活パーティーである。

 会場に転移した参加者と紹介者は例に漏れず「な、な、、、」のリアクションである。

 普段から豪奢な会場でパーティーをしている貴族ならば未だしも。

 いや、貴族であっても驚く様な会場なのだから、平民が圧倒されるのも当然だろう。

 因みにタスケに見せても同じリアクションだったので、小金持ちでも吃驚んこである。


 参加者と紹介者全員の転移が終わり。

 会場に若干のざわつきがおき始めた頃。

 窓側から向かって右側の壁がウィィィンと横に開いて奥から大型のテレビモニターがせり出した。

 見た事も無い技術。

 初めてラブホテルを訪れた者には何が起きているのか理解が及ばずに騒めきが起こった。

 そして。


 バツンとテレビモニターの電源が入り映し出されたのは。


 ひょっとこの面を被ったアイトと。


 大仏のマスクを被ったヒショであった。


 完全に笑いを取りにいっている。

 完全に出オチで笑いを取りにいっている。


 実際に会場は最低ラインでもややウケ以上。

 人によってはツボに入って抱腹絶倒(物理)している者もいる。

 外の世界の人間は、こう言った笑いに割と寛容な様である。


『皆さん、おはこんばんち〇こ。今回のイベントを企画したプロデューサーのプロデューサーです。そして』


『アシスタントのアシスタントです』


 早速肩書に名前を被せるボケで会場のややウケを勝ち取ったモストデンジャラスコンビ。

 プロデューサーのプロデューサーはもう“前者のプロデューサーの事をプロデュースしている人”とも取れるし、アシスタントのアシスタントも“前者のアシスタントをアシストしてる人”と取れるので。

 え?結果、誰?お名前は?と深読みする程度には面倒なボケである。

 これは既に400キロバトルを超えてオンエアを勝ち取れそうな勢いだろうか。


「早速ですが本日の主役を紹介しましょう!窓の外をご覧下さい!本日の主役は!この男だぁ」


 最後だけ抑え気味にして抑揚をつけたアイトの呼び掛けに。

 会場にいる全員が窓の外へと目を向けると。


「ちょっと!ちょっと危ないって!落ちる!落ちる!ちょっと待って下さいよぉぉ!」


 白いスーツを着た全身白コーデのスミスがクレーンで吊られてプールに落とされそうになっていた。


 徐々にクレーンは下がるのに対し。

 スミスはCランク冒険者の身体能力でもって自身を吊っている紐を登る。


「いやいやいやいや!これからパーティーだから!これからパーティーなんだから!勘弁して下さいよぉぉ!」


 素人とは思えないオーバーなリアクションを見せながらどうにか水中落下を回避しようとするスミス。

 会場は呆気に取られる者が半分。

 後の半分は肩を震わせて笑いを堪えている。


 実はこれ、アイトの仕込みである。


 婚活パーティーは何にせよ第一印象のインパクトが肝心だ。

 第一印象がイマイチでも年収や財産で捻じ伏せられるケースも往々にしてあるが。

 良くも悪くも第一印象でインパクトを残せなければ初めからハンデを背負ってスタートするのと同じである。


 第一印象が良ければすんなりとカップルが成立する可能性は高まるし。

 第一印象が悪くても“話してみると意外と良い人だった”的なギャップで良い印象に反転させやすい。

 最悪なのは第一印象が無の場合だ。

 これはもう興味が無いのだから何も生まれない。


 故にアイトは提案した。

 登場時からリアクション芸で参加者のハートを良くも悪くもガッチリと掴む事を。

 そして気の毒な事にアイトを神と崇めるスミスはその提案に全乗っかりしてしまった。

 ヒショがやたらにアイトをヨイショするのにも原因がある。


 その結果がこれである。


 スミスはアイトの前世の記憶にある幾つかのリアクション芸を参考にして。

 外の世界の人間で初となる真なるリアクション芸を披露しているのである。

 そして30秒程、水中落下に抗う真に迫ったリアクションを行って。


 ブチッ


 効果音が鳴ると同時に紐が根元から切れ。


「うわぁぁ!」


 バシャーーン!


 大きな水飛沫を上げてスミスはプールの中へと落下したのであった。


 爆笑する者。

 心配そうに窓に寄って心配する者。

 爆笑する者。


 それぞれに様々な反応を見せる。


 爆笑する者。

 スミスの無事を祈る者。

 爆笑する者。


 反応は人によって様々だ。


『わっはっはっはっは!やるじゃんスミス君!ナイスリアクション!』


 爆笑する者。


 数秒経ってからスミスはプールサイドへと上がって。


「ちょっとぉ!急に、急に吊り上げられたから吃驚したじゃないですかぁ!これから婚活パーティーなのにびしょびしょじゃないですかぁ」


 会場へ入ってテレビモニターに迫りながらひょっとこを指差してわざとらしく捲し立てるスミスに。


『大成功☆!』


 ドッキリ大成功の看板を出して見せたひょっとこ。


「ちょ、ちょっとドッキリって。勘弁して下さいよぉぉ!」


 ドッキリ企画のパロディを一通り最後までパッケージでやって。

 開幕の余興を終了したのであった。


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