第36話 ネイトa.k.aスミスの嫁探し④

『と言う訳で追い出しの時間だぁぁ!紹介者はドーン!』


 紹介者が転移で外に追い出され姿を消し、若干の騒めきが起こる中。


『早速始めていきましょう!最初の企画はこれだ!ドン!』


 アイトはひょっとこの面にサングラスを掛けて。


『何の捻りもない自己紹介ぃぃ!』


 アイトの電光掲示板サングラスに企画の文字が流れた。

 ひょっとこに電光掲示板サングラス。


 最早お前は何キャラなんだ。


 アイトのキャラがぐっちゃぐちゃになった中。


『参加者の皆さんはこの線に沿って横一列に並んで下さい!』


 そう言うとスミスと向かい合う形で床を横断するピンク色の線が出現した。

 スミスは相変わらず水も滴る何とやら状態である。

 床もびっしょびしょである。


 参加者は素直に横一列で並んだ。

 どうやら小ボケや小ネタを捻じ込むタイプの現地人はいないようである。


『それではスミス君から見て一番右の方から順番に自己紹介だ!内容は名前、年齢、1分以内の自己PR!1分を超えたらその時点で失格となるから注意してくれ!尚、自己紹介後にスミス君が5人まで絞るので選ばれなかった方は捨て台詞を吐いて会場から去って下さい。個人的にはあばよ!がポイント高いかな』


 こうして婚活パーティー参加者30名のサバイバルが幕を開けた。


 まず一人目。


「ローラさ。年齢は62歳だね。あたしは冒険者の息子を立派に育て上げたからスミスさんの事を支えてあげられると思うよ」


 そろそろスミスの方が支えてあげなければならなくなる年齢ではなかろうか。


 続いて二人目。


「ローラだよ。年齢は若さ弾けるピッチピチの54歳さ。スミスさんがネイトだった時代からのファンだよ。あたしが一番スミスさんを好きな自信がある。何せスミスさんが初めてヤーサンを訪れた時から知ってるからね。年季が違うよ」


 どちらかと言えば服の方がピッチピチでボタンが弾け飛びそうだ。

 事故が起こる前にご退場願いたい。


 続いて三人目。


「ローラだ。年齢は48歳。ネイ、、、スミスとは冒険者として何度も顔を合わせているね。まさかあんたが婚約者を募集しているなんて知らなかったよ。あたしは今日の日の為に冒険者を引退してここに来た。元冒険者として旦那のあんたを支えるよ」


 まさかのローラ被り三連発だぁぁ!


 このローラはスミスとか関係無く冒険者を引退した筈なのだが、スミスに強烈なインパクトを残す為に嘘を混ぜた格好だ。

 しかし同業者だけあってスミスが嘘に気付いているので逆効果である。


 参加者達による自己紹介が続き。

 最後の参加者が自己紹介を終えると。


「全ての参加者の情報が集まりました!それではシンキングタイム!」


 ズンズンとフロアを揺らす音楽が流れ、スミスの前にタッチパネル付きの机がせり出して来た。

 やけに先端技術を詰め込んだ演出である。

 スミスはこれからタッチパネルで上位5人の参加者を選び、残りの参加者は脱落となって退出させられる。

 重大な決定を行う事になったスミスだが、迷い無く5人を選び終えた。 


 だって比較的若い子が5人しかいなかったんだもの。


『さあ決まりました!決勝に残った5人の名前はこちら!』


 アマンダ アグネス メリッサ アガーテ アンドレア


 ババンと効果音が鳴り、アイトの電光掲示板サングラスに5人の名前が流れる。

 因みに今の画角は文字を見やすくするためにアイトに寄っているので大画面一杯にひょっとこが映し出された、中々にパンチのある映像である。


「何であたしが残ってないんだ!」


 名前の無かったローラが意義を申し立て。

 ローラとローラも追随する。

 他の参加者たちもそれに続こうとしたが。


 ローラズが何の説明もなく追い出しにあったので一瞬で全員そっ閉じした。


 モニターに“※不平不満を言った参加者は即座に外へ放り出します”とテロップが流れて。

 参加者は皆、あのふざけた仮面を被った男が絶対的なルールであるのだと理解したのであった。


『と言う訳で続いての企画は!敗者復活をかけたウェイトリフティングデスマッチだぁぁ!』


 ウェイトリフティングデスマッチ。

 200㎏のバーベルを持ち上げた状態で尻をぶつけ合い、直径1mの円から相手を押し出した方が勝ちという謎のタイマンバトルである。

 まず何故200㎏のバーベルを持ち上げなければならないのか。

 それが無ければ単なる尻相撲なのに。


 そして始まったウェイトリフティングデスマッチは熾烈を極め。


 誰一人としてバーベルを上げられずに全員失格となり追い出しを食らった。


 イベント参加の記念品として黒のパンティが贈呈された。


『さあ、盛り上がって参りました!スミス君に選ばれるのは誰になるのか!続いての企画は、、、CMの後』


 テレビ番組でよく見る引きにこけるオーガズが一瞬だけ映り。

 この日の為に制作されたラブホテルのコマーシャルが流されたのであった。



「もう飽きてきたからCM明けから1時間ぐらいフリータイムで良いかな」


「充分かと思います」


 ここはマスタールームに増設された撮影スタジオ。

 電光掲示板サングラスとひょっとこ面を外したアイトは首を回して疲れた素振りを見せた。

 この程度では疲れないし、そもそも疲れという概念があるのかも怪しい存在なのだが。

 ヒショも大仏マスクを外して喉を潤す為に足下に置いてあった酒瓶を煽る。

 どちらもやり切った表情をしている。


「後は若い6人に任せて年寄りは若い6人ガチンコ恋愛リアリティーショーを楽しむとしますか。思い返せばスミス君の登場リアクション芸がハイライトだったな。あれが無かったら危なかったぜ」


「爆笑をさらっていましたからね」


「まさか外の世界の人間があそこまで上手くやるとは思ってなかったよ。彼、バラエティー俳優にでも転職した方が良いんじゃないか?俳優って仕事があるのか知らんけど」


「名案かと思います」


「だよな!冒険者だしアクションも出来るだろうから監督脚本演出俺のオリジナルドラマとか作っちゃうぜ!」


「素晴らしいです。是非やりましょう」


「わっはっは!そうだろうそうだろう!」


 司会進行をするのに飽きたと言い放った身勝手なアイト。

 アイトが飽きた理由はイベントの最初に大き過ぎる盛り上がりを作ってしまい。

 そのせいで後が尻窄みしたからである。

 つまりは自分が原因だった。


 その後、エンディングまでプロデューサーとアシスタントが登場する事は無くスミスは5人の参加者達と歓談をして。


『スミス君婚活パーティー栄えある第一回目の優勝者は!』


 横並びになった5人の参加者へ順番にスポットライトが当たり。


『エントリーナンバー1919番!メリッサァァァアア!』


 中央にいた若い女性に別の参加者を照らしていたライトが集中した。


 湧き上がる会場。

 鳴りやまない拍手。


 演出用にオーガズにやらせて録音しておいた音声を流しているだけである。


 メリッサは少々おどおどした印象の女の子で見た目は普通。

 身長はやや高めだがスタイルが良い訳でも無く、街中で擦れ違っても直ぐに忘れてしまうぐらいの印象だ。


 スミスは第一印象では長身で気の強そうな金髪碧眼の美人であるアンドレア狙いであり。

 メリッサは悩んだ末に5人目の枠で残した消去法最終候補だった。

 何故そんな消去法メリッサがスミスの心を射止めたのかと言えば。


「私、3年前に乗合馬車が魔物に襲われている所をネイトさんに助けて頂いた事があるんです。ネイトさんは覚えていないかもしれないですけど。それからずっと、ネイトさんの事が好きでした!今日を逃したら思いを伝える機会なんてもう無いかなって思って。それで、、、」


 メリッサの勇気を振り絞った告白。

 肩を震わせて涙を溢している様子から、彼女にとってどれほど勇気が必要だったのか想像すら出来ない。

 そんなメリッサの姿にネイトa.k.aスミスは。


 “この様子なら絶対に断られることは無い”と確信して1位から4位までを差し置いてメリッサへと方針転換したのであった。


『正に!大!どんでん返し!』


 普段の精神状態であったならば迷わずアンドレアを選んでいただろう。

 彼女とは初対面でも楽しく会話が出来たし、気があった。


 しかし勝利を確信して臨んだ娼婦と看板娘と受付嬢から立て続けにNOを叩きつけられた事がディープな部分で効いていた。

 もう思い出しただけで膝が笑っちゃうぐらい効いていた。

 効きに効き過ぎてて軽い人間不審になっていた。

 だから日和った。

 日和って手堅く、絶対に断らない相手を選んだ。


 スミスよ。

 将来の伴侶になる相手かもしれないのにそれで良いのか。


「俺とラブホテルで一日過ごして欲しい」


 スミスが跪いてメリッサに手を差し出す。


「はい。喜んで」


 そう言って目に涙を溢れさせながら笑んだメリッサの顔は。


 何よりも美しく可愛らしい。

 なんて事は無く可もなく不可もなくスミスの心に然程深く刺さることは無く普通な印象を残したのであった。


 スミスはちょっと後悔した。


 そして二人はサービス券でランクAの部屋を利用した。

 24時間もあればお互いの事を良く知り合える。


 夜になり。

 広々とした風呂に一緒に入って口付けを交わし。

 ベッドに移動して。

 メリッサは生涯忘れられない、甘く素敵な体験をした。

 思い続けた愛するスミスに抱かれ、幸せを噛み締めたメリッサ。


 暫くの間体を重ね合い。

 体の怠さを覚える程に愛し合った二人は泥の様に眠った。


 そして深夜に目を覚ましたスミスは。

 メリッサの寝息が臭すぎて眠れぬ夜を過ごしたのであった。


 口臭ケアは大切である。


______________________________________

酷いオチだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る