第26話 半人前の冒険者は〇乳の幼馴染を狙っている③

 フロントに電話をすればウミは驚き。

 料理を注文すればウミは喜び。

 トイレの使い方を説明すればウミは感心した。


 好きな女の子に全面的に頼られる男の快感を覚えたソラは何かに付けてウミの感心を得ようとする。

 その実、木札に書かれた説明を読んでいるだけなのだが。


 インターホンが鳴り、扉にある引き戸から料理を受け取っただけでもウミは感心する。

 そして先輩冒険者がやたらに連呼していたカレーライスを食べて。


「美味しい!凄いね!凄い美味しいよ!」


 ここでも凄いのコンビネーションを見せたウミに。


「上手いだろ?俺はいつも都会で食べてるから足らなかったら俺のも食べて良いぜ」


 笑顔でそう告げるとウミは花が咲く様な笑顔を見せてソラの分のカレーライスも完食した。

 ソラは一口も手を付けていない。


 ラブホテルに入るのは休憩でも銀貨5枚から。

 カレーライスは銀貨1枚。

 ウミをラブホテルに連れ込む為に生活費を切り詰めて切り詰めて。

 必死で依頼を熟して漸く貯めた金が小金貨1枚と銀貨8枚。

 つまりあの必死だった日々の三分の一の頑張りが無ければ食べられない料理だ。

 そんなに頑張れるか?

 乳ブーストも無しで。

 無理に決まっている。

 だってそんなに必死に働きたくないもの。

 都会でもカレーライスを食べられる所なんて他には無い。

 ヤーサン一の冒険者パーティー蒼剣の誓いだって他では食べられないと言うのだから、本当に食べられないのだろう。


 ソラは、流石にちょっとは気を使えよと内心で毒づいたが。

 この後にお楽しみが待っていると思ってどうにか胸の内にしまい込んだ。


 食事と一緒に頼んだ美味しいワインだけは味わって。


「ふぅ。お腹一杯。美味しかったなぁ」


 ソラはラブホテルに来る前から考えていた作戦を実行に移す。


 ラブホテルでは風呂上がりにバスローブと言う服を着るから薄着になる。


 そんな言葉を残したのは蒼剣で盾剣士をしているニックだった。

 ニックはプニータと言う大女をラブホテルに連れ込んだ事がきっかけでプニータとの関係を濃密に深めた、冒険者ギルドでのラブホテルの伝道師である。


 多くの尊敬を集める伝道師曰く。

 バスローブを着ると腕や足など素肌が晒される上に開放的な気分になるので。

 二人でバスローブを着ているとムラムラしてきて直ぐに女の方から襲って来るのだと言う。


 ニックはそんな誤った情報を冒険者達に伝導しているのであった。


 バスローブ姿でムラムラして襲ってくるのはニックに対してのプニータが超肉食系女子だからである。

 確かにラブホテルのバスローブは、敢えて丈を短くしていたり袖を短くしていたりはするものの。

 それを着ているからと言って全面的にムラムラする事は無い筈である。

 相手に対して愛だの恋だののブーストが掛かっていればまた別であろうが。


 故にバスローブを着たからと言って女性の方から襲って来る様な事はない。

 しかしソラは伝道師の教えを盲目的に信じている。

 狂信していると言っても良い。


 だから風呂にさえ入れてしまえばこちらの勝ちだ。


 ソラは気付かれない様に唇の端を上げて。


「風呂に入ってみないか?風呂は食後に入ると気持ち良いんだぜ」


 ウミを風呂へと誘導する。


「うん!入ってみたいな!」


 狙い通りに風呂へ入ると言うウミに木札に書いてある風呂の入り方を説明して。

 最後に風呂を出る時はバスローブを着て出るのだと伝えて脱衣所を出たのであった。


「いやぁヤバいな。滅茶苦茶興奮して来た」


 ウミを風呂へと送り出したソラは部屋の中をウロウロと行ったり来たりしていた。

 風呂に入っていると言う事は。

 今のウミは下着すら身に着けていない生まれたままの姿である。


 ソラは以前にウミの裸を見た事があった。

 但しそれは、ウミの存在を強く主張するあの暴れん坊な胸を。

 暴れん坊胸軍を配下に加えていなかった頃のウミである。

 お互いにまだ子供で、何もない無垢な体付きをしていた頃の話だ。


 それから時が経ち。

 ウミは随分と大人になった。

 いや、大人になり過ぎた。

 背は低いのに一部が、、、いや二部が大人になり過ぎた。

 ご立派ぁ!ってやつだ。


 そんな魅力的なおっぱい、、、ウミの裸が扉二枚先にあると考えたら落ち着いていられる筈が無い。

 ナニとは言わないが反応し過ぎているので非常に歩き辛いが。

 落ち着いてなどいられない。


 ソラはマグロになったのである!


 えーっと、こほん。

 とにかく部屋の中をグルグルと歩き回りながら、ソラはウミが出て来るのを待った。


 チクタクと壁掛け時計の針が進む。

 10分経ち。

 20分経ち。

 30分経ち。


「風呂って時間が掛かるものなんだな。体を洗ったりするんだもんな。はっ!俺に見られる為に念入りに洗ってるんじゃないか!?きっとそうだ!そうに決まってる!」


 そう自分に言い聞かせて。


 40分経ち。

 50分経ち。

 1時間経ち。


「流石に遅くないかな?そんなに洗わなくたって俺はウミの体なら隅々まで舐められるのに」


 やや変態じみた事を言い。

 未だ止まる事無くグルグルと回り続ける。


 そして。


「風呂長くない?流石に風呂長くない?もしかしたら中で倒れてるんじゃない?長いよな。風呂長いよな。様子見に行くか?覗きじゃなくって。覗きじゃなくって心配だから。覗きとかではないけれども。心配だから。ウミを大切に思ってるから。誰よりも大切に思ってるから!俺は!ウミを大切に思ってるから覗きたい!様子を見るとかじゃなくて覗きたい!だって時間が迫ってるんだもの!何時に入ったか忘れちゃったけれども退室時間が迫ってるんだもの!あんなに頑張って貯めた金を使ったんだから元を取りたいんだもの!ちょっとぐらい良い思いをしたいんだもの!行こう!」


 ソラはウミの事が心配になって風呂へと向かった。


 補足しておくと。

 食後直ぐの風呂は決して褒められた行為ではない。

 食事を取って1時間程度は脳の血流が低下して低血圧を起こしやすくなる。

 その状態で風呂に入るとめまいやふらつきが起こり、最悪の場合は気を失う事すらある。

 ウミの場合は一杯だけだがワインも飲んでいるので風呂に入って酔いが回り、湯船に入ったまま眠ってしまっていれば最悪の場合は死に至る危険性もある。

 その場合は後にダンジョンが死体を美味しく頂いてダンジョン力へと変換するのだが。


 なのであまりの長風呂でソラが様子を見に行く判断は決して間違いでは無い。

 寧ろ適切な判断と言って良い。

 たとえ邪な考えが起点になっていたとしても。

 この場面でソラの判断は正しいと言って良いのだ。

 邪な考えが起点になってはいるのだけれども。


 興奮し過ぎたのかダッシュをして。

 脱衣所の扉へと手を掛ける。

 すると。


「あれ?ソラ君どうしたの?お風呂って気持ち良いんだね!ちょっと長く入り過ぎちゃったよ!見て見て!手がこんなにシワシワ!」


 丁度脱衣所から出て来たウミと鉢合わせになり。

 ソラは思わず息を飲んだ。


 ウミの胸が。

 バスローブから覗くウミの胸が。

 あまりにもその存在を強く主張していたからだ。


 ここにいるよここにいるよと主張する胸に。

 思わずソラの手が伸びるが。


「ちょっとベッドでゴロンとしたいなぁ。すっごく気持ち良くてふわふわした気分なんだ」


 ウミはするりとソラの手を避けて部屋に移動し。

 宣言通りベッドへと寝転がった。


「ヤベぇよマジかよ」


 ウミの耳に届く事の無い声で呟いたソラ。

 ベッドに寝転がったウミはバスローブがだらしなく開けて先程までよりも更に胸を露わにした。

 それだけでなく。

 足も太腿の辺りまで見えてしまっている。


 普段はシャツを着てズボンを穿いているウミのあられもない姿に。

 ソラの理性が吹っ飛んでウミを無理矢理押し倒そうとした刹那。


 プルルルル  プルルルル


 部屋に電話が鳴り響き。


「退室時間の10分前です」


 フロントからの連絡が夢の時間の終わりを告げた。


 乗合馬車の料金と道中の食事代を考え。

 延長料金を払う金の無いソラはウミに背を向けて瞳から一筋の涙を流し。


「ウミ。そろそろ退室する時間だってさ」


 ウミに着替える様に言って清算を済ませ、ラブホテルを出た。


 ラブホテルに連れ込んだからと言って誰もが幸せになれるとは限らない。

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