第25話 半人前の冒険者は〇乳の幼馴染を狙っている②

「それじゃあ、行ってきます」


「行ってきます!」


 街から街への道中にある事もあって、一日に一本は出ている乗合馬車に乗り。

 ソラとウミはヤーサンの街へと旅立った。


「うちの馬鹿息子がすまないね。でも良いのかい?大事なウミちゃんと二人にしちまって」


「お宅の馬鹿息子なら大丈夫だろう。あいつって詰めが甘いだろ?どうせ上手くはいかないし。ウミを任せるなら冒険者として成功してからだな。最低でもCランクだ」


「Cランクだなんてあの子には高望みが過ぎるよ!どうにか20歳までに冒険者を諦めたらとかにまからないかい?」


 両親は両親同士で街へと向かった子供達の話を始める。

 どうやらウミの父親はソラがやらかす予想をしている様である。

 そして二人の仲は両親公認の雰囲気がそこはかとなく漂っているが。


 そんな事よりもこの二人、実はデキているので全く以てそれ所ではない。


 共に愛する伴侶に先立たれて男手一つで娘を、女手一つで息子を育てて来たのだ。

 子供達も成人したし。

 そろそろ自分達も幸せになっても良いじゃないか。

 二人が結婚するとなった時にサプライズで発表する計画を今から立ててはいるが。

 子供が出来ちゃったらきっとその限りでは無いだろう。

 ウミが出掛けてしまったので数日は時間が出来てしまったし。

 時間が出来れば色々出来るのが世の理だし。

 ぼやぼやしている時間は無いし。


 二人は頑張って頑張って頑張って。

 結果、頑張り過ぎて後に子供を授かったのが発覚するのであった。


「うおぉ。改めて見てもやっぱ可愛い。あとでかい。都会で教わったロリ巨乳ってのはウミの為に存在する言葉なのだろうか」


「ん?何か言った?」


「いや!何でもないぜ!」


 昼過ぎの乗合馬車に乗って今は日暮れ。

 馬車に乗り込んで隣り合って座った瞬間から始まったソラのチラ見は実に5時間にも及び。

 それは最早チラ見では無いだろうと思える顔⇔胸間のチラ見をしながら蚊の鳴くような声でウミを評したソラと。

 延々と森の中で変わり映えのしない外の景色に目を向けて楽し気なウミ。

 穴が開く程のチラ見を見せるソラもソラだが、一向に気付かないウミも中々に大概である。


 因みに語尾を“ぜ”にすると都会っぽいのではと謎理論を考え付いたソラは語尾が時折“ぜ”に変化する。


「村の外に出たのはまだ子供の頃だったから久しぶりの外で何だかワクワクするよ!」


 そう言ってにこやかな笑みを向けたウミに。

 『今がキスをするチャンスだろうか?』と。

 口にすれば「「「今じゃねぇよ!」」」と馬車の中の客から総ツッコミが入りそうな盛大な勘違いをしたソラ。

 薄目を開けたソラの顔面がウミに接近する中。


「チガウ村ーチガウ村ー。お出口は左側です」


 馬車は本日の宿泊地となる村に着き。

 ガッタンと急停車してソラは前方に二回転がったのであった。

 

 御者と乗客はチガウ村の前で野営をして。

 ソラはこのタイミングでウミを夜這っちゃうか夜這わないかで悶々として一睡も出来ないまま朝を迎え。

 特にこれといった面白事件も起きずに乗合馬車はヤーサンの街へと到着したのであった。


 余談だが道中ソラは寄り掛かりおっぱいまくらで仮眠を取ろうとしたが、可愛い野生のウサギさんを見付けて馬車の外に身を乗り出したウミに躱されて右腕と側頭部を強打する事件だけはひっそりと起こっていた。



「暇だー!何か面白い事起きないかなー!」


 ピンクの塔最上階のマスタールーム。

 アイトはヒショの膝枕でソファーに寝転がりながら退屈に嘆いていた。

 膝枕とは言っても一般的な仰向けや横臥(横向きの事)ではなくうつ伏せである。

 うつ伏せなのでヒショの股間に向かって嘆いているのである。


「暇、ですか。でしたらお酒でも飲んでパーッとやりませんか?」


 相変わらず酒飲みたガールとしてブレないヒショ。


「今は酒って気分じゃないんだよなぁ」


 ヒショの提案をやんわりと断って。


「そうですか、、、」


 何処か寂しそうに酒瓶から酒を呷ったヒショ。

 パーッとやらないだけで普通にシャンパンをラッパ飲みしているのであった。


「なんかこうさ、くっ付くのかい!くっ付かないのかい!どっちないんだい!みたいなこう、もどかしくて歯がゆくてじれったいような。そんなさ。そんなアレがさ。そんな恋のアレがアレなんだよ!」


 要約すると。

 今現在アイトは恋のキューピッドになりたい病を患っているのだ。

 ずっと想い合っているのに中々くっ付かなくて周りがやきもきする様な。

 そんな恋が成就するきっかけを作り出して。

 最後までいかせちまいたいと強い思いを抱いているのだ。

 大分下世話な方向のキューピッドだが。


 しかし。

 待てども待てども普通に仲の良いカップルか。

 問題を抱えていない系の夫婦か一人遊びに来る客ばかり。

 アイト自身がもどかしくて、歯がゆくて、じれったくて、やきもきして。


「よし、今日は面白い事は起こらない気がするぞ!海で泳いで遊ぼう!」


 アイトは諦めてマスタールームを出て行き。


「お供します」


 ヒショはアイトについて行く。


 その後ワンポとウルトラヴァイオレットオーガを誘って海の階層を作ったアイトは。

 日が沈むまで海水浴をして楽しく遊んだのであった。



「凄い高い建物なんだねぇ」


 ピンク色の塔を見上げてウミが驚きの声を漏らす。

 塔の高さは50m強。

 アイトの前世で言うなら15階建てのマンションと同等で、外の世界基準で言うと圧倒的に世界最高の高さを誇る建造物である。

 別に建造した訳ではないので建造物と呼べるかは微妙だが。

 因みに塔のサイズはアイトの気分で変わるので明日には東京にある赤白の電波塔ぐらいになっているかもしれない。


「都会ってまあまあ凄いだろ?ここの一番上から見る景色は中々なんだぜ。俺は特別に上らせて貰ったんだ。今日は宿屋の主人がちょっと忙しいらしくて上まで上るのは無理なんだけどさ」


 どうしてこうも見栄を張るのか。

 ソラは初めて訪れた塔の責任者とまるで知り合いかのように語り。


「わぁ!ソラ君って凄いんだね!」


 ウミが一点の曇りもない目でソラを称賛するので。


「そうなんだよ!俺って凄いんだ!はっはっはっはっは!」


 本当に自分が凄い人物になった気がして高笑いをした。

 ラブホテルに入って行く他の客からは何してんだこいつと白い目で見られているが気付く様子は無い。


「それではお姫様。俺の庭に案内しましょう」


「うん、よろしくね」


 ソラは跪いて手を差し出し、ウミがその手を取ってラブホテルへと入店する。


「凄いね!ソラ君!凄いね!凄いね!」


「べ、、、別にこれぐらいはふ、、、普通だぞ。都会なら」


 信じられない程に美しいフロントに語彙を無くして燥ぐウミと。

 圧倒されながら平静を装うソラ。

 入店からずっと燥ぎっぱなしの楽しそうなウミを見て、連れて来て良かったと心から感じる。

 ソラは受付でランクEの部屋を選んで、二人は客室へと移動する扉から転移したのであった。


「凄い凄い!本当に凄いよ!」


 部屋に入ってからもウミは燥ぎ続けていた。

 ランクEの部屋はフロントと比べてしまうと地味に思える作りだ。


 部屋は広いものの、それは常識的な範囲での広さである。

 凡そ10畳の部屋にクイーンサイズのベッドが置かれ、普段と違ったシチュエーションを楽しむ為の3人掛けソファーが置かれている。

 大きくはないが化粧台もあるし大型のテレビモニターもあるので実感出来る広さは然程でも無い。

 これはランクが上の客室との差別化を図る為に敢えてこのサイズに抑えている。


 それでも普段は村から出ずに都会慣れしていないウミは猛烈に興奮していて、とても少ない語彙で感動を表現していた。

 凄いと言っておけば大抵の場面はどうにかなるのだ。


 ソラはそんなウミを一旦放っておいてこっそりと部屋の中をチェックする。

 扉の奥には何があるのか。

 化粧台の上にある魔道具らしき物の使い方はどうか。

 料金はどうやって清算したら良いのか。

 全てを確認した上で漸く興奮気味にベッドでポンポン跳ねているウミの視界に入り。


「このラブホテルには風呂もあるんだぜ。都会では風呂に入るのが流行ってるんだよ。ウミは入った事あるか?」


「ないよ!お風呂ってお湯で水浴びするんだって聞いた事はあるよ!」


「じゃあ後で入ってみろよ。中々悪くないんだぜ?それにここはトイレも水洗トイレって都会のトイレなんだぜ」


 風呂も水洗トイレも都会で流行ってなどいない。

 風呂は貴族の屋敷でもあまり見ない贅沢品だし、水洗トイレなんて技術は外の世界に存在していない。

 完全に都会風を吹かせたいだけの見栄であり虚言であり嘘なのだが。


「そうなんだ!ソラ君は物知りだね!」


 比較対象を持ち合わせていないウミはソラの言葉を全面的に信じる。

 そしてソラはと言うと。


「そ、そうか?都会の事だったら俺は何でも知ってるんだぜ!わっはっは!」


 ウミに持ち上げられて上機嫌に高笑いをした。

 どうせヤーサンの街に寄るつもりはないし、これまで殆んど村を出なかったのだから知ったかぶりがバレる心配は無いだろう。

 そもそも、いつの日か冒険者として成功して風呂も水洗トイレもある大豪邸にウミと住むのだから今は嘘でも将来的には現実になる嘘だ。

 だから大丈夫、俺が成功すれば何も問題は無い。

 そう高を括って好き放題に見栄を張り続けるのであった。


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