第28話 第一回全ラブホビーチバレー大会ラブホ杯②

 アイトの負傷により波乱の幕開けとなった第一回全ラブホビーチバレー大会ラブホ杯。

 気になる初戦の様子はと言うと。


「そこだウルトラヴァイオレット!もっと腰を落として!いや、二人掛かりだ!二人掛かりで何としても上げろ!いけぇぇぇええ!」


 初戦のアイトペア改めアイト監督ペアVSヒショペアはヒショの遠慮ない殴り下ろしサーブによってボコボコ(物理)にされたアイト監督ペアがビーチバレーでは珍しい0対25で完封負けを喫した。

 MVPはヒショ。

 ヒショしか得点していないのだから、他に選びようがない。


 ビーチバレーは得点したペアが次のサーブ権を握るルールだ。

 つまりヒショの殺人サーブ(物理)を一本でも止めなければサーブ権すら得られずに。

 何も出来ずに負けるしかないのである。


 その後オーガズが組んだチーム同士の白熱の凡試合泥仕合が続き。

 今大会唯一の人種族エマの出番となった。


「そろそろ寝ないといけないので寝ますね」


 エマは眠たそうに目を擦ってアイトが片手間に作っておいた海の家にあるベッドで就寝した。

 そして。


「選手交代!ウルトラヴァイオレット!」


 当初抽選を外して補欠となっていたウルトラヴァイオレットオーガがオイシイ二度目の登板を果たし。

 あっさり負けて一時間ぶり二度目の敗戦を喫したのであった。


「さあ盛り上がりには欠けていましたラブホ杯も遂に決勝!決勝戦に残ったバディは、この2ペアだ!」


 バディなのかペアなのか統一してくれないだろうか。


 夜の海岸を照らす照明が落ち。


「赤コーナー!優勝候補のアイトペアを破った真なる優勝候補!ここまで相手ペアに1点も与えない完全試合を継続する最強の優勝候補!今大会の優勝候補筆頭が優勝候補として優勝候補の候補の看板を外すのか!優勝候補!ヒショ&タンジェリンオレンジペア!」


 バツンとスポットライトが焚かれて白地に青い薔薇柄のビキニにパレオを巻いたヒショを照らす。

 タンジェリンオレンジオーガは端の方で左半身だけ照らされている。

 ヒショは決勝に向けてお色直しした形だ。


「黒コーナー!今大会最大のダークホース!俺達のアイドルワンコといつも料理作ってくれてありがとうヤマオカが優勝候補から優勝を掻っ攫うのか!ワンポ&ヤマオカペア!」


 バツンとスポットライトが焚かれてヤマオカに腹を撫でられているワンポを照らす。


「おーっとリラックスタイムだぁ!決勝戦を前にして何と言う落ち着きだぁ!これは期待が高まりますね!解説のアイトさん!」


「え?あ、すいません。話を聞いてませんでした」


「ちょっと。ぷっ。解説なんですから話は聞いておいて下さいよ」


「わっはっは。申し訳ない。それで、私が不貞を働いて妻にこっぴどく怒られた話でしたっけ?」


「ぶふぉ!ちょ、ちょ。そんな話、してませんて!ぶはっ!私の不貞の話ですよ!」


「ぶふっ。貴方の不貞の話なんて誰も興味ありませんよ。ちょまっ。ぶふっ。はーおかしい」


「決勝戦!プレイボーーーール!」


 アイトは地方局のスポーツ中継で実況と解説者がやりがちなイチャイチャを再現してから唐突に試合開始を告げると同時。

 ナイター照明で海岸全体が明るく照らされた。


 サーブ権はヒショペア。

 ヒショがボウリング玉を投げ上げ。

 上空から殴り下ろす文字通り殺人サーブを放った。

 ボウリング玉がエンドラインを掠める完璧なサーブだったが。


「うぉふ!」


 このサーブは我らがアイドル狼ワンポによって阻まれる。

 ワンポは“え?それ後ろ足どうなってんの?大丈夫?”と気掛かりになるスコーピオンキックでボウリング玉を蹴り上げた。

 ボウリング玉はネット際で待つヤマオカの位置へと1㎝の狂いもなく届き。

 ヤマオカはふわりと柔らかいシルキートスを上げた。

 地面に着地したワンポが砂浜を駆けて跳躍。

 クルクルと縦に二回転と半分捻りを加え。

 ネットを超え、最高到達点に達したボウリング玉を。


 オーバーヘッドキックして相手コートへと蹴り込んだ。


 これは最早ビーチバレーでは無い。

 ビーチセパタクローである。


 ワンポの右後ろ足から繰り出された強烈なスパイクに見事に反応したタンジェリンオレンジオーガだったが、浮き上がるボウリング玉の変化に反応出来ず歴史的大ヒットサッカー漫画の如く体ごと吹き飛ばされた。

 ヒショは未だ空中にいるのでボールに反応する事は出来ない。

 ボウリング玉が遥か彼方の砂浜に落ち。

 ヒショ&タンジェリンオレンジオーガペアは決勝戦にして初失点を喫したのであった。


「ゴーーーーール!」


 ゴールではないのだが。

 実況アイトの上げた絶叫に呼応する様に。


「「「「「ウオォォォオオ!」」」」」


 敗退が決まってから観客となっているオーガズも雄叫びを上げた。

 ヒショペアのまさかの失点なのだから、それも当然だろう。

 ヒショのサーブはこれまで数多のオーガズが挑み、全員を砂浜に沈めたヤベェサーブである。

 それをレシーブしただけでなく、得点まで決めてみせたワンポ&ヤマオカペア。

 その器用さで料理を担当するヤマオカの繊細さが光ったセットアップも見事であった。


 十数秒経って地面に着地したヒショが悔しそうに歯噛みする。

 全試合無失点のラブゲームで圧倒的な優勝を成し遂げ、ダンジョンマスターであるアイトに褒めて貰って。

 そして。


「やりますねワンポ!ですが優勝商品のペリニョンロゼ1年分は誰にも渡しませんよ!」


 ヒショは優勝商品を狙っていた。

 誰も優勝商品があるだなんて言っていないのだが。


「うぉん!」


 ワンポはあまり良くわかっていない様子で楽し気に吠えた。


「むぅ」


 ヤマオカは新しい包丁が欲しいらしく優勝商品があると知ってソワソワしている。


 タンジェリンオレンジオーガは空気だ。


「え!?優勝商品なんてあったの!?」


 初耳のアイトが吃驚しているが。

 過去を遡っても優勝商品について言及した覚えは無い。

 つまりヒショが勝手に言い出しただけなのだが。


「優勝商品はペリニョンロゼ1年分または同等のダンジョン力で作れる物を与えるぜ!」


 アイトは優勝商品の存在を認めた。

 その方が盛り上がりそうだからである。


 ぎらついた目でワンポを睨むヒショ。


 ゴロンと転がって腹を撫でて欲しそうなワンポ。


 腕を何度も振り下ろして気合いを入れるヤマオカ。


 タンジェリンオレンジオーガは空気だ。


 そして試合は再開される。


 ワンポのサーブ。

 砂浜に置いたボウリング玉を後ろ足で蹴り上げて上空に飛ばし。

 跳躍して前方に三回転、半回転の捻りを加え。


 今度はバイシクルシュートを繰り出した。


 ワンポの左後ろ足から放たれたサーブがヒショペアのコートを襲う。

 サイドライン際、タンジェリンオレンジオーガがレシーブに向かおうとするが。


「オーライ!」


 逆サイドにいたヒショが声を掛けて瞬間移動と見紛う速さでサーブの落下地点に入った。

 ボウリング玉の思い一撃を完璧に往なしたヒショのレシーブがタンジェリンオレンジオーガのもとへと届き。


 力任せに全力で上空に向かってトスを上げた。


 ヒショは天高く跳躍すると幾度となく横に回転を加える。

 猛烈な回転が強力なパワーを生み出し。


 軽々と人の命を奪いそうな強烈で獰猛な回し蹴りの力をボウリング玉に加えて蹴り落とした。


 ボウリング玉が物理的に火を噴く様は。

 最早隕石の落下にしか見えない。

 ヒショのスパイクはワンポでさえも反応が間に合わず。


 ズドォォォォォォン!


 砂浜に大きなクレーターを作ってビーチバレーコートを吹き飛ばした。


 目を見開いて呆気に取られるオーガズ。

 舞ってる砂が入っちゃうから早く目を閉じた方が良いですよ。


 そんな驚きの光景をコート横の審判台から見ていたアイトは。


「決まったぁぁぁああ!ヒショ選手の強烈な一撃!メテオアタックだぁぁぁああ!あまりの速度!あまりの強度にワンポ選手すら反応が出来なかったぁぁぁああ!」


 とても生き生きと実況に徹していた。

 メテオアタックは今即席で考えた安易過ぎる技名である。


「これで同点ですよ」


 着地して微笑みを浮かべワンポを見下ろすヒショに。

 撫でてくれると思ったのかワンポは腹を見せて転がった。


 ヒショはワンポを暫く撫でた。


 クレーターだらけのボコボコになったコートでは一進一退の攻防が続く。


 サーブ、レシーブ、スパイクと穴が無い所か全てが突き抜けているアルティメットオールラウンダーのヒショ。


 素早い身のこなしで相手を撹乱し、強烈なアタックを叩き込むアクロバティックアタッカーのワンポ。


 内に秘めたるパワーと繊細な指先から寸分の狂いもないセットアップを見せるパーフェクトセッターのヤマオカ。


 特にコメントは無い、タンジェリンオレンジオーガ。


 最早誰も彼の話は聞いていない実況アイト。


 一進一退の攻防が続き。

 23対24。

 ダークホースだったワンポペアがリードして迎えるセットポイントになり。

 試合を決めたのはやはりあの選手であった。


「寝たぁぁぁああ!ワンポ選手!ここでおねんねの時間だぁぁぁああ!これはもうエマが起きて来る朝方まで絶対に起きません!」


 ワンポがゴロンと転がってグースカと鼾を立て始めた。

 ワンポは夜に遊び疲れて眠ると何をされてもまず起きない。

 朝一番にエマに撫でて貰いたいからエマが起きて来ると気配を感じて起きるのだが。

 それ以外で目を覚ます事はまず無い。

 つまりは。


「棄権!ワンポ選手棄権!補欠のウルトラヴァイオレット選手は、、、バツ印を出しています!と言う事は!優勝は!」


 ナイター照明が消えてスポットライトがクレーターの底にいるヒショを照らす。


「ヒショ&タンジェリンオレンジペアだぁぁぁああ!」


「「「「「ウオォォォオオ!」」」」」


 優勝決定に沸く観客席に、ヒショが手を振って応える

 クレーターの中なので観客には見えていないが。

 タンジェリンオレンジオーガはスポットライトから完全に外れてヒショに拍手を送っている。


「それでは優勝インタビューです!ちょっと待ちーよ」


 審判台からクレーターに飛び込んで坂を駆け下りたアイトの。


「優勝おめでとうございます!優勝商品ペリニョンロゼ1年分獲得しました!今のお気持ちは?」


 ヒショへのインタビューが始まる。


「まさか決勝戦がこのような激闘になるとは思っていませんでした。パートナーのタンジェリンオレンジは黒子に徹して私の良いプレーを引き出してくれました」


 ヒショは先ずペアを組んだタンジェリンオレンジオーガを讃え。


「そして。決勝戦で勝ち切れたのは対戦したライバル達。応援してくれたファンのお陰だと思います」


 ライバルとファンへの感謝を伝えた。

 そして


「ペリニョンロゼは皆で飲みましょう。沢山の応援、ありがとうございました」


 そう言ってインタビューを閉めた。


「「「「「ウオォォォオオ!」」」」」


 予想外に高い酒にありつけるとあって歓喜に沸く観客席。

 ヒショとタンジェリンオレンジオーガには大会委員長アイトから第一回ラブホ杯優勝の王冠とマントが与えられ。

 優勝商品のペリニョンロゼは観客にも振舞われて一晩で半分近くが消費された。

 ラブホ杯の楽しい打ち上げは続き。

 早朝起き出して来たエマに「明け方まで酒盛りするな」と怒られて解散したのであった。


 尚準優勝のヤマオカには後に切れ味の良いオリハルコンの包丁が与えられたと言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る