第9話 ラブホテルは百合の花だって咲かせる事が出来るんだ③

「良いね!良いね!良いねぇ!もう一押しだな!ここからはタイミングを見て俺がアシストをしてやれば、、、」


 マスタールームでは二人の少女の様子に異様にテンションを上げているアイトがいた。

 ヒショは黙って小窓で映しているエントランスの様子を観察している。


 相変わらず。

 ラブホテルを訪れるのは男の冒険者ばかりなのだから。

 アイトが一人、異様に盛り上がっているのも仕方が無いのかもしれない。


「いや、仕方が無い!こればっかりは仕方が無い!」


 だそうである。


 オーナー権限で時間を延長してやろうかなどとも考えながら。

 アイトはその時に備えてじっとテレビモニターを観察するのであった。



 ガウンに着替えスリッパを履いて。

 ノーラとカーラは濡れた髪のまま部屋に戻ってソファーに座った。

 気まずい空気が流れているせいか。

 二人の距離はやや遠い。


 しばしの沈黙の後。


「えっと。さっきはごめん」


「うん」


 ノーラが謝罪の言葉を口にするが話が続かない。


 ノーラは視線を彷徨わせながらカーラをチラチラと見て。

 カーラは膝の上に視線を落としている。


 酒に酔っている訳でも。

 風呂で逆上せた訳でも無いのに。

 二人とも頬が赤く染まっている。


 またしばしの沈黙が続いて。


 カーラはグラスに残っていたワインを一気に煽った。


「あの!」


 思いがけず大きな声が出てしまった事に自分でも驚いたカーラ。


「あのね?話したい事があるんだけれど、聞いてくれる?」


「どうしたの?そんなに改まって」


 決意を孕んだ様なカーラの言葉に。

 ノーラは不思議そうな表情を浮かべてカーラに視線を送る。

 するとカーラは真剣な顔をしてノーラを見ていた。


「ずっと言わなきゃいけないって思ってた事があって。聞いて欲しいの」


「う、うん。聞くよ。聞く」


 普段のカーラがあまりしない熱の籠った表情に。

 ノーラは少々気圧され気味になりながら姿勢を正した。


「私達は幼馴染で。ノーラは上手く人と話せない私とずっと一緒にいてくれて。友達でいてくれて。いつだって私の事を助けてくれて」


 真剣な表情で。

 微かに瞳を潤ませながら言葉を紡ぐカーラ。


「ずっとカーラの事を大事な親友だって思ってたの。誰よりも大好きな親友だって」


 ノーラも真剣な表情でカーラの言葉に頷く。

 ノーラにとってもカーラは大事な親友で。

 同じ思いを抱いているから。


「だけどね。何時からだろう。気付いちゃったんだ」


 カーラは寂しそうな目をして。

 ノーラから微かに視線を逸らした。


「私のノーラを好きな気持ちは普通と少し違うんだって。私は普通じゃないんだって」


 カーラの瞳から涙が溢れ。

 溢れた涙が頬を濡らす。


「私はね。ノーラ。ノーラの事が好きなの。親友じゃなくって。ノーラの事を愛してるの」


 突然の告白に。

 大粒の涙を流す親友に。

 驚きで言葉が出て来ないノーラ。


 沈黙では無く。

 泣きじゃくるカーラの嗚咽と鼻を啜る音だけが部屋に響く。


 ノーラは唾液を飲み込み。

 どうにも定まらない視線をカーラに向けた。


「カーラ」


 名前を呼んでカーラの手を握り。

 顔を上げたぐしゃぐしゃ顔のカーラを目を合わせ。


「あたしもさ。カーラの事が好きだよ。愛ってのがどんなものかはあたしには分からないけれど。カーラと手を繋ぐとさ。胸がドキドキってするんだよ。さっきも風呂でさ。胸にファイヤーボールを食らったみたいになって。今なんてさ」


 カーラはそこまで言って言い淀み。

 恥ずかし気に視線を逸らし。


「あそこがさ。何だかわかんないんだけど。ぬるぬるしちゃっててさ。体が何だか熱いんだ」


 心底恥ずかしそうにそんな事を告白をしたノーラ。

 カーラにはノーラの気持ちが分かる。

 カーラは今までにノーラといて。

 何度も股間がぬるぬるした事があったのだから。

 それが何だかとても恥ずかしいのも理解出来る。


 カーラはノーラも自分といて同じぬるぬるになってくれたんだと。

 嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「けどさ。やっぱり女同士ってのは普通じゃないって言うか。変、だと思うんだ」


 ノーラの言葉に。

 カーラはその先に続く言葉が予想出来てしまって。

 今度は悲しい気持ちが溢れ出した。


「だから」


 ごめんと言い掛けた所でテレビモニターの電源が入った。

 二人の視線がそちらへと向かい。


『先輩。好き。大好き』


『私も好きだ。君を愛してる』


 テレビモニターには可愛らしい感じのおさげ髪の女と中性的な見た目の女が映っていて。

 二人は告白をした後で唇を重ね合う。


 甘く。

 濃厚な口付けを交わした二人は互いに服を脱がせ合い。

 下着を脱がせ合い。


 裸になるとベッドの上で肌を重ね合い。


『あっ♡あっ♡あんっ♡』


 ゴクリと唾を飲み込む二人。

 薄い板の中で人族が動いている事など今はどうでも良い。


 女同士が。

 肌を重ねて愛し合っている事こそが今は重要なのだ。


 女達は。

 それはもう幸せそうに。

 それはもう気持ち良さそうに。

 互いの体を求めあっている。


 ノーラもカーラも。

 女達の姿を。

 目を血走らせてつぶさに観察した。


「な、なぁカーラ」


 ノーラは動揺を見せて。


「うん」


 カーラは少し恥ずかし気に。


「女同士で愛し合うのも。別におかしくないんだな」


「うん」


 カーラは言葉少なに返事をするだけだが。

 ノーラが次に言うであろう言葉に期待してしまっている。


「カーラ」


 ノーラとカーラは向かい合い。

 ノーラの手がカーラの両肩に添えられる。


「あたし達も真似してみようか」


「うん」


 二人は唇を重ねた後。

 ベッドに移動して。


 ラブホテルで初めて。

 美しい百合の花が咲き乱れたのであった。


 チェックアウト10分前の電話が鳴り。

 幸せそうな笑みを浮かべたカーラが受話器を取った。


「10分前だって。清算を済ませたら時間までに部屋を出て下さいって」


「あ、ああ。うん。服、着なきゃな」


 何だか肌が艶っ々のカーラとは対照的に。

 ベッドにぐったりと沈んでいるノーラ。


 どうやら普段と真逆でベッドの上ではカーラの方が活発だった様である。


 着替えを済ませ。

 ルイスから預かった清算用の硬貨投入口に銀貨8枚を投入して。

 部屋を出た二人はフロントでスタンプカードを受け取ってラブホテルを出た。


 カーラはノーラを支える様に腰に腕を回している。

 こうしていないとノーラがフラフラして真っ直ぐに歩けないのだ。


 カーラの体温が。

 カーラの胸の感触が伝わって。

 ノーラの心は温かいもので満たされる。


「ルイスさんにちゃんとお礼を言わないとな」


「うん。ルイスさんは私達の恩人だよ」


 冒険者ギルドへと戻り。

 二人はルイスへラブホテルの感想を。

 それはもう色々と色々とぼかしながら伝えた。

 ぼかしながらも評価は勿論最高である。


 ルイスは二人を労い。

 数時間前よりも仲睦まじい様子の二人を見てほくそ笑み。

 決して旨いとは言えない硬い黒パンを齧った。


 蒼剣の誓いの魔術師ルイスは。

 美少女がイチャイチャしている姿を見てパン13個いける程の罪深い百合好きである。

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