第10話 第一回ラブホテル業務改善会議
「えー。第一回。えー。ラブホテル。えー。業務。えー。改造?えー。改革?えー。改善。改善!えー。会議を始めます。議長はわたくし。えー。ダンジョンマスター。えー。ラブホテルオーナー。えー。アイトが。えー。やります。やります?えー。務めます。務めます!どうぞよろしく」
あまりにも。
あまりにも見切り発射。
あまりにもグダグダなスピーチから始まった第一回ラブホテル業務改善会議。
この会議では上司も部下も無礼講で言いたい事を言い合い。
ラブホテルのサービス向上に努める。
そんな。
あ、そんな内容の会議である。
時間は既に19時を回っており。
宿泊客はいないので安心して。
酒でも引っ掛けながら安心して会議を行う事が可能だ。
「まず最初の議題はこちら」
いつ作ったのかマスタールームのテレビモニターにパワパワポイントで作った様な。
アイト的には見慣れた画像が表示された。
「ラブホテルの客。ほぼソロメンズしか来ない問題」
これはラブホテルで世界に愛を届けようがモットーのアイトからしたら死活問題である。
ラブホテルとは。
人と人との愛を深め。
すっきり気持ち良く過ごして貰う。
そんな宿泊施設である。
断じてソロのメンズがアダルチーなビデオでシコスキーするミラクルスポットでは無いのだ。
あと単純に面白くない。
これはアイトのモチベーションに影響するのだ。
「先日俺の華麗なアシストによって女の子二人組がカップル成立して帰って行ったが。それ以降は男男男。メン麺綿面メンメンメンだ。しかも腐らせちゃう系男子ズなら未だしもオールソロプレイヤーだ。いけない。これはいけない傾向だ。そこで諸君らには男×女、男×男、女×女のカップルを誘致する策を考えて欲しい」
アイトが議題を上げると早速一本の前足が上がった。
「わふ!わふぅ!」
「お、よしよし。遊んで欲しいのか。よーしよしよしよし。よーしよし」
議長が巨大狼ワンポと遊び始めてしまった為会議は中断。
しばしマスタールームに集まった全員でラブホテルのアイドルワンポを構って。
疲れて眠りに就くまで遊んで。
20時に腹を見せてワンポが眠った所で会議が再開された。
そしてすぐさま。
「はい!」
外の世界代表。
唯一外の世界を知る女。
ちょっと長耳美少女ハーフエルフ選手権ラブホテル大会で見事三連覇を果たし。
殿堂入りとなったエマが元気一杯手を上げた。
「はい、エマ君!」
アイトが議長らしく指差し棒でエマを差して発言を促した。
「そろそろ寝る時間なので部屋に帰って良いですか!」
「採用!」
エマの提案を即座に採用して。
外の世界代表たるエマはマスタールームを後にして自室へと帰って行った。
最早この会議に意味を見出すのは難しいかもしれない。
「マージでどうすんべ」
正直に言って。
このラブホテルでまともな意見を出せる者は多くない。
オーガとかレイスとかワンポとか喋れないし。
ヒショも自分から意見を出すよりはアイトを支えてヨイショして気持ち良くしてくれるタイプの秘書だ。
既にアイトが一人で意見を出し。
一人で議会に掛けて。
一人で決定するしかない状況なのである。
しかし。
なんと。
ここで救世主が現れた。
「ん?レイさん。何か意見あるの?」
見た目は透け透けでゴリゴリに幽霊のレイス。
名をレイさんが半透明な手を挙げた。
レイさんは言葉を話す事は出来ないのだが。
どうやったのかテレビモニターに文字が浮かびがる。
実はレイさん。
超常現象も引き起こせる超有能レイスなのだ。
『鳴かぬなら』
「鳴かぬなら!?」
テレビモニターを使って唐突に始まった何か。
『鳴かせてみせよう』
「それ有名なやつじゃん。レイさん何でそんなの知ってんの?有名なやつじゃん!それ有名なやつじゃん!」
アイトの記憶でも読み取ったのか。
前世の歴史の授業で習うモストフェイマス川柳を読むレイさん。
鳴かせてみせようとくれば。
後に続くのは共通の題目であるあの鳥だ。
『コカトリス』
「コカトリス!?結構強めのモンスターだけど大丈夫!?鳴かせようとして泣かされる結果にならない!?通るの!?コカトリスに火縄銃って通るの!?ダメージ通るの!?」
予想外の大喜利に興奮気味のアイト。
若干。
いや、かなりツッコミがくどいが本人はとても楽しそうである。
『1192作ろう』
「これは語呂でね。歴史の年表を暗記しようって言うあれね。これ修正されちゃいましたけどね。無修正版の方が覚えやすいですけどね」
前世のアイトが生きている間に修正され。
1192年から1185年。
いいくにからいいはこに変更された有名な語呂合わせだが。
『幕張メッセ』
「メッセに!?メッセに国を!?施設内に国を興そうと!?語呂は良いけど!語呂は滅茶苦茶良いけども!」
中々にフックの効いたレイさんのボケ。
幕張メッセ内に国を興すとなるとバチカン市国を超えて世界最小の国となる事は請け合いである。
『飛べない鳥は』
「これも有名な台詞かな?微妙に何か違う気がするけれども。と言うか脈絡が。歴史歴史と来て脈絡が。脈絡に難があるなこの大喜利は」
更にアドリブネタを続けるレイさんに。
新たなお題の脈絡の無さを指摘したアイト。
だが。
『コカトリス』
「脈絡あったわ!最初のコカトリスと回答の方で合わせて来たわ!てかコカトリスって厳密に言うと鳥なの!?あいつ飛べないの!?アヒル的なポジションなの!?」
お題を外して回答で流れを引き戻すトリッキーな戦術に。
若干くどいアドリブツッコミでどうにか食らい付くアイトに対し。
『3キロバトル』
「評価辛くない!?バケツの重さは!?バケツの重さは何処行っちゃったのよ!」
アイトの前世において。
一般的にバケツの重量は89キロバトルと言われている。
『現場からは以上です』
「雑!終わり方雑!良いのね?終わりで良いのね?もういいよ!ありがとうございましたー」
アイトとレイさんで礼をしてアドリブネタと言う寸劇が終わった。
アイトは何処かやり切った表情をしていて。
『それでは通常業務に戻ります』
「あ、うん。お疲れ様」
レイさんはこれといった感慨も見せず。
壁を擦り抜けてマスタールームから出て行った。
「よし、気を取り直して会議を続けるぞ」
これまでで一切業務改善の話は行えていないが。
「お?どうしたオーガズ」
目立つ事は少ないが。
実はラブホテル内の施設で割と忙しく働いている色とりどりの変異種オーガ軍団。
通称オーガズはアイトとヒショの周りを取り囲み。
その場で胡坐をかいて座った。
「チャッチャッチャ!」
調理場で働いているオーガが掛け声を掛け。
「「「「「ケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャ」」」」」
半々に分かれて声が途切れない様にリズムを刻み。
「「「「「ケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャ」」」」」
迫力のある圧巻のパフォーマンスを披露する。
「オウオウオウオウオウオウオウオウ」
合唱が止まると一体のオーガがオウオウと緩急を加え。
「チャッチャッチャ!」
「「「「「ケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャケチャ」」」」」
オーガズはまた息を合わせて合唱を始めた。
これはアイトが、「オーガって上半身半裸だし合うんじゃね?」とオーガズに仕込んだ芸。
インドネシアの民族音楽ケチャである。
この音楽一体感を生み出す迫力のある音楽。
オーガズには気分が高揚すると仲間内では評判で。
毎晩集まって練習をしているので異様に完成度が高い。
因みに戦闘民族だけあって本来踊りになる部分の演出が。
拳舞と言う名のガチバトルになっているのが玉に瑕なのだが。
アイトはオーガズのケチャが終わるまで暫く待ち。
「分かった。つまりはオーガズのケチャライブを開催して人を呼び込めって事だな?」
アイトの問い掛けに。
「「「「「チャ!」」」」」
息を合わせてケチャっぽく答えたオーガズ。
「検討しておく!解散!」
アイトはオーガズの提案をそっと心のゴミ箱にしまって。
オーガズを通常業務へと戻したのであった。
「結局二人で考える事になるんだよな」
「そうですね。今までもそうでしたから。マスターは私だけではご不満でしょうか?」
「いいえ。不満はございません。取り敢えず二人組の客にグラスワインをサービスとかやってみる?」
「素晴らしいアイデアかと存じます」
「期間限定でカップルの場合客室のグレードが一つ上がるとか」
「それは素晴らしいアイデアですね」
「ラブホテルに気になる相手を連れて行ったら筋肉が付いて肌荒れが治って一皮剥けて女の子にモテモテになりました!って街で吹聴して貰うとか」
「素晴らしく画期的なアイデアですね」
こうしてヒショに乗せられてアイトは思い付く限りの施策とアイデアを書き出し。
幾つかの施策を実施してみる事にした。
何せここはダンジョンである。
経費が一切掛からないのだから金銭的なリスクなんて存在しないのだ。
「と言う訳でヒショと会議を行った結果。今日から一週間。二人組カップル限定で部屋のランクが一つ上がるキャンペーンを実施する。但しランクアップはEランクからDランク。DランクからCランクのみだ。Bランク以上はプレミア感を出す為に通常料金とする。カップルに関しては男×女でなくても構わない。男×男でも女×女でも。何ならカップルでなくても構わないから二人組ならオッケーのスタンスでやってくれ。塔に大型モニターを設置して目立つように宣伝するから忙しくなるかもしれない。特にエマには負担を掛ける事になるがすまんな」
「いえ!元が最強労働環境なので大丈夫です!」
「よし!それじゃあ今日からカップルガッポガッポラブホテルに進化するぞ!解散!」
アイトが打ち出したキャンペーンは。
アイトの思惑とは裏腹にそこそこの勢いで大コケし。
結局キャンペーン中に訪れたカップルは。
一桁前半に終わったのであった。
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