第2話 4枚の羽

 ミンナノ世界のアバター設定は二つの選択がある。

 一つはAIを使って理想のキャラを作る。

 もう一つはリアルな自分をスキャンし限りなくリアルに近いアバターを作る方法だ。


 ミンナノ世界では一つのアバターしか作る事が出来ないがアバターのカスタマイズは条件を満たせば何回でも出来る。

 最初はAIアバターで後にリアルアバターにする人もいるしその逆もいる。


 ミンナノ世界ではゲーム内の秩序を保つ為アバターを作る際はリアル本人の全身をスキャン、容姿を詳細にスキャンする必要がある。

 規約ではゲーム内で運営が必要と判断した場合にリアルアバターの公開がされる事があるとされておりこの事は一時は世間で問題になった。今ではゲーム内での犯罪抑止として機能し評価を得ている。


 俺は現在、AIアバターを使用しボイスチェンジも使いリアルの情報は出していない。

 最初こそボイスチェンジャーを使用しているプレイヤーは信用されない風潮があったが今ではそれも特徴として認識されプレイヤー達は理想のアバターで楽しんでいる。


 とはいえ、姿形、声を変えようとも中身はリアルな人間だ。ゲームと言ってもそこはリアルな人間同士の対話が求められる。特に自分の素性を隠しての誹謗中傷は当初ミナセカでもあったが過ぎたプレイヤーは容赦なくリアルアバターが公開されていた。もちろん公開されるのは姿、声の実データだけで本名や住所などは公開されないが見る者が見れば誰かというのは分かる訳でそれが広まると陰険な嫌がらせ、誹謗中傷はほとんどなくなった。


 以前、リアルアバターを公開されリアルでも素性が知れて周りから叩かれ自殺未遂になった人も居たがその人が誹謗中傷をしていた相手は被害者よりも先に自殺している。

 運営にリアルアバターを晒された被害者に同情や運営への批判もあったがその批判する人も自身の情報は出さず言いたい事だけ言うのだから無責任極まりない。

 ミナセカはそれからも方針を変えず厳重な確認の上、問題のある者のリアルアバターを公開している。


 自分は言われる側だったが自分でも知らずに相手を傷つける事を言っているかも知れない。

 自分というのはこの世でただ一人、気に食わないと思う人もいるだろうが逆の人もいる訳で結局は他人とどう接するかに尽きる。他の人も世界に一人の人なのだからその世界に一人同士が出会えた奇跡を大事にできれば…


 まあ、それが簡単に出来れば問題なんて起きないのだろうけど少なくともこの三人との出会いには感謝しなくてならない。そしてゲーム初期に助けてくれたあの人も…


 NAN幽鬼に動画が紹介されてから1ヶ月が経った。


「クロウさんですよね!!」


「え、あ、はい…」


「ファンなんです!握手してもらって良いですか」


「あ、はい」


「ありがとうございます!できればフレ登録してもらって良いですか?」


「あーごめんなさい、フレ枠いっぱいで…」


 ミナセカではキャラ同士でフレンド登録ができるが出来る人数が決まっている。


「そーですよね〜 残念〜 応援してます〜」


 最近ミナセカ内を徘徊しているとこの様な事が多くなった。フレンド登録も言われるまま登録していたら直ぐに枠いっぱいになり今の様なやり取りになる。


 ZEUSUはあれから5曲の動画を公開し総合再生数は5000万回を越えていた。

 これはジューヌが同じ様にデビューした際に記録した2億回再生に比べれば及ばないが知名度ではかなり知られて来た方だ。


「いやはや、我々も有名になったもんですな」


 ミカエルがドラムの調整をしながら言った。


「そうだにゃ〜ここに来るまでに結構声をかけられたにゃ」


「だよね、俺もかけられた。直テレポ出来れば良かったけどここはまだ来た事なかったんだよね」


 今日は1ヶ月後のイベント説明とプロモーション動画を撮る為に第三世界の六角スタジアムに来ていた。


「ゴン遅いね、打ち合わせまだ終わらないのかな?」


「我々の演奏順番も今日聞けると言ってましたね」


「にゃ〜真ん中くらいが良いにゃ!初めと最後だけは嫌にゃ〜」


 ミーコは自分のギターをアイテムボックスから出しながら変な顔をしている。


 ガチャ!


「お待たせ〜打ち合わせ終わったよ!」


「おつかれ〜」


「順番聞いたにゃ?何番目にゃ?」


 ミーコがしなやかに音もなく彩ににじり寄って聞く。


「それがさ〜順番は出場者のプロモ動画再生回数が少ない順だって」


「と言う事は再生数が多いグループがラストですか、まあ順当ではありますね」


「ZEUSUはそこまでないでしょ、真ん中くらいになるんじゃない?」


 個別動画ではそこそこ見られているがプロモ動画となるとそこまでいかないはずだ。


「うーん、なんかさ運営さんに私ら最後になるかもだから気合い入れといてって言われた…」


 何それ!?バンド初めてまだ1ヶ月、もっと人気のある新人グループあるはずなのに。


「え、だってまだプロモ発表してないにゃ!八百長かにゃ?」


「うちら新人では人気らしいよ!最後になる可能性高いって」


「うにゃ〜!最後なんて緊張するのにゃ〜!」


「噂ではあのジューヌも来るらしいから何かしら絡みもあるかもしれませんね」


「ジューヌかにゃ!」


 耳をピンと立てて喜ぶミーコ。


「こんな中規模のイベントにジューヌ来るんだ、すご!」


「カーちゃんジューヌ好きだよね〜良かったね〜」


 彩はからかいながら準備を進める。


 ブオンッ!


 室内の中央に表示が現れた。


「そろそろ撮影しますのでお願いしますー」


 運営スタッフらしきキャラの上半身が映し出され言った。


「はーい」


 ゴンザエモンこと彩が返事を返す。


「それではZEUSUの皆さん、お願いします」


 スタッフが消え10の数字が現れた。

 9、8とカウントダウンされる。

 動画は撮り慣れて来たがこういうのは緊張する。

 彩を見るとにっこりと笑う。

 ミカエルもスティックを回して格好つけていた。

 ミーコはすごい楽しそう…


 そうだね、私もこの瞬間を楽しもう…


 3・2・1…


 プロモーション動画の撮影が始まった。


 ………


「は〜疲れたにゃ〜」


「私はまだまだいけますよ」


「皆んなお疲れ様、カーちゃんもいつもに増して良かったよ」


「皆んな楽しそうだったから俺もすごい楽しかったよ」


 彩が右手の親指を立てて他の指は横揃えて左肩の所に持って行く。

 これはZEUSUのサインだそうで発案者はミカエルと思いきや彩がやり出した。

 天使の羽らしい。

 プロモーションでは最後に彩が左手で右肩に私が右手で左の肩にそれぞれ並んでポーズして天使の羽が完成していた。


「そのポーズ良いにゃ私もやりたいにゃ!」


 ミーコはプンスカと可愛らしい顔をする。


「この後にジャケットの撮影だからその時に四人でやろう!」


「良いですねZEUSUらしい絵が撮れそうです」


 彩と俺が前に並んで膝をついて座り後ろにミーコとミカエルが並んで立ってそれぞれ対象の羽ポーズをした。

 4枚の小さな羽の完成だ。


「なんだかRLAみたいだにゃ!」


 ミーコが伝説のキャラ、レッドリトルエンジェルの名を上げる。


「赤い手袋しますか?」


 ミカエルが真面目な顔で言った。


「良いねそれ、やっちゃう?」


 彩が嬉しそうに赤い染めた手袋をアイテムボックスから取り出して皆んなに渡す。


「手袋あったんだ」


「この前ちょうどクエストで芋掘りして来て持ってたのよ」


「するとこれは…」


「軍手にゃ?」


「芋掘りの報酬がこれだったのよ良さげだったので皆んなの分も取って来た!」


 彩はフンスと胸を張る。

 ミナセカではアイテムを好きな色に染めれる機能がある。その機能で赤く染めたのだろう、用意の良い奴だ。


 赤い手袋を皆んなして再度撮影した。

 なかなか良い感じだ。ZEUSU感が出ている。


 ◇…………◇


 撮影から3週間が経った。


 イベント1週間前になりプロモ動画再生数により演奏順番が発表される日だ。

 今日も練習で皆んな集まっていたので皆んなで発表を見た。

 ZEUSUは運営の予想通りラストだった。


「ヴャー!ラストになってしまったにゃー!」


 ミーコが床にゴロゴロ転げ回る。


「他にも有力グループが多数いたのにどうしたんでしょうかね」


 ミカエルが真面目な顔で熟考する。


「そんなの決まってるじゃない!」


 彩が人差し指を立ててチッチッチとする。


「どういう事?」


 彩は両手で羽を作り両肩に置いた。


「私のセンスのおかげね!」


「ぷっ!自分で言う?」


「でも確かにジャケットの羽ポーズは人気にゃ!」


「ええ、皆んな真似してくれていましたね」


「それにしても順番は発表されたけど再生数は発表されないね」


「本当だ、なんかあったのかな?」


 後で分かった事だが再生数にあまりにも大差があった為に出場者に影響を与えないよう再生数は発表されなかったらしい。


♠️ミナセカ第四世界部屋♠️


「くそ、この差はありえないだろう。YODATIは俺が直々にプロデュースしたんだぞ!色々手を回してやったのに一位と二位の差が倍以上なんて…」


 沼地は誰もいなくなったオフィスで六角フェスのプロモ再生数結果を見て呟いていた。

 再生数一位がZEUSUで二位がYODATIだった。


「幸い再生数の発表は止められたがいずれ業界には知られるからな、なんとかしないと」


「ZEUSUか… 安直な名前しやがってしかもこのジャケット!こいつらもRLAの信者か?」


「こんな奴らがうちのYODATIより上なんて認めんぞ…」


 ♡ ………… ♡


 六角フェス当日…


「やあやあ!いよいよ今日だね!」


 ZEUSUの本拠地、彩と私が購入したハウスだがいつのまにかそうなった。

 四人はそこに集まっていた。

 準備を行い皆んなで六角スタジアムに行くのだ。


「本当にとうとう今日ですね」


 何十本ものスティックを準備するミカエル。


「ミカエルそんなに棒はいらないにゃ!1本で十分にゃ!」


「ミーコさん1本でドラムはできませんよ」


 そういうミーコもギターを三台も持って来ていた。


「皆んな気合い入ってるな〜」


「カーちゃんは落ち着いてるにゃ、さすがにゃ」


 澄ました顔をして飲み物を出そうとして棍棒が出て来た。この前狩でゴブリンからドロップした物だった。


「カーちゃんもしっかり緊張してるね!」


「当たり前でしょ、緊張しない方がおかしいよ」


 出した棍棒をしまいつつなんとか平然を保つ。


「なんだかんだ言ってもカーちゃんは大丈夫だよ!」


 彩が一番平気そうだが良く見ると手が震えている。


「気になるのはアンチが出てきてることですかね」


「そうだね〜色々言われてるね」


 プロモ動画公開からSNSなどでZEUSUメンバーに対する嫌がらせコメントが出て来た。

 ミーコは猫RPが酷すぎるとか彩の歌はヘタやミカエルは動きがキモイなど。

 一番風当たりが強いのは…


「カーちゃんへの当たりがきついにゃ」


 ミーコが後ろから抱き着いて来た。

 ふわっと甘い香りがした。


「なんですかねこのクロウはネカマでキモイというは」


 ネカマ、リアルは男だがそれを隠してリアルは女性と偽ってプレイする事を言う。


「カーちゃんはネカマなんかじゃないにゃ!ちゃんと男の子にゃ!」


「まあ我々はリアルの事は共有してませんからね、ですがリアルで性別がどちらでもミナセカで出会った皆さんに変わりはないですから!」


 ミカエルが熱弁して言った。


「私もどっちでも良いにゃ、カーちゃんのキャラは可愛いにゃ!」


 そう言ってミーコはギュッと抱きしめる。

 私も正直みんなのリアルはどちらでもいい、今まで一緒に居た皆んなが信じられるから。


「なんかこのCUMAHINという人があちこちに私らの批判をしてるね。同時にYODATIを絶賛してるし」


「YODATIって私達の次に再生数が多かったグループだよね?」


「YODATIのファンなのかにゃ?でも私達を批判するのは間違ってるにゃ」


「そうですねファンなら他を批判などしてないで推しを推しまくるべきです」


 ミカエルは熱のこもった声で言った。

 誰か推しでもいるのだろうか?


「まあ、目立って来ると批判があるのは当たり前だから気にしないで行こうよ、もう直ぐ移動だよ!」


 俺への批判が多いのは正直気になる。

 また言われない事を言われるのではないか…

 あの時は認めてもらえなかった。

 俺と言う存在を。


「カーちゃん!」


 彩も抱き着いて俺を読んだ。


「大丈夫だよ何も怖くない、皆んなが何を言っても四人は一緒だよ」


 彩は俺の過去を知っている。

 思えばZEUSUも俺の為に始めたと思う。

 あの時もただ何も言わず一緒に居てくれたな…


「カーちゃんはすごいんだよ!やろうよ!どんな事があっても夢に向かって!」


 ミナセカはすごいな… アバターなのに彩の暖かさが伝わって来る。

 こんなに俺の為になってくれる人が他に居るだろうか…

 周りを見るとミーコも抱き着い他ままでミカエルもミーコ越しに抱き着いている。

 おい、どさくさにミーコを触るんじゃないよ。


 なんだ、彩以外にもいるんじゃん。私が気が付かなかっただけで…


「ありがとう、俺どんな事があっても逃げずにやって見るよ」


「やるのにゃ!」


「やっちゃって下さい」


「うん…」


 彩は小さい声で頷いた。

 そして急に大声を上げた。


「よーし!行くか!」


 俺達はそれぞれ小さい羽を肩に置いた。


 ♣️ ………… ♣️


 本番5時間前


(グループテレポを開始します、サークルから出ない様にして下さい)


 六角スタジアムは前日登録しておいたのでここから一瞬で行ける。


 ミーコがジャケットと同じ立ち位置ポーズをした。

 それを見た他の3人も同じポーズをとった。

 サークルから光が溢れ何も見えなくなる。

 視界がはっきりして来ると同時にアナウンスが流れた。


(グループ8、ZEUSU)


「ZEUSUだ!」


「ZEUSU!」


「クロウー!」


 突如物凄い喧騒の中に居た。

 六角スタジアムの専用ポートは建物の少し外にあり集まった観客が到着を見る事が出来る様になっている。

 ポートから建物まで青いカーペットが敷かれており両側には観客が入れない様にロープが張られていた。


「にゃはは、凄い人にゃ」


「これはちょっと恥ずかしいですね」


 懐かしいなこの入り方、昔から変わってない…

 あの時は赤いカーペットだったが。


「ポーズ決めて来て良かったね!さあ、行こうよ」


 彩がブルーカーペットの先にある会場入り口を指指した。


「ゴンザエモンー!」


「ミーコ可愛い!」


 移動する間に観客から歓迎を受けることからイベントが始まる。

 それにしても新人イベントなのにかなりの人が来ているようだった。


「ミカエル頑張ってー!見てるよー!」


「ミカエルカッコいい!」


 ミカエルはあまり目立たない事を気にしていたがしっかりとファンがいるようだ。

 ZEUSUの唯一男性キャラ。黄色い声も聞こえてミカエルも嬉しそうにしている。


 しばらく歓声を浴びながら建物の中に入った。


「ようこそ、六角スタジアムへ。控え室へご案内致します」


 受付?の女の子が出迎えてくれた。

 六角スタジアムだからなのか六角形をモチーフにしたモダンなスーツを着ている。

 奥に一つだけある扉に案内される。


「こちらで出番までお過ごし下さい。登場は部屋内にあるポートからステージに転送されますので室内のガイドに従って下さい。」


「それでは良いステージを」


 中に入ると真ん中に六角形のローテーブルとそれを囲む様にソファーが設置してあり前方には巨大なモニターが浮かんでいた。


 リアルとは違いほとんど他の人に会わずにステージまで行ける。モニターにはあちこちの様子が監視モニターの様に映っていた。


「わあ、会場すごい人だね」


 皆んな適当にソファーに座りモニターを見る。


「会場は入場制限が出た見たいですね」


「満員御礼にゃ」


「なんか緊張して来たね」


「大丈夫ですよ私のリズムでいつも通りです」


「頼りにしてるにゃ!」


 ミーコがバシバシとミカエルの背中を叩いている。


 ピポピポ!


「ゔゃ!」


 ミーコがびっくりして声を上げた。

 モニターにリハーサルの時に会ったファンキーな格好をした熊キャラが映った。

 今回のイベントの会場責任者らしい。

 キャラ名はビーバー。


 クマじゃないのかよ!と初めて会った時には突っ込みそうになった。


「参加者の皆さん六角スタジアムにようこそ。会場責任者のビーバーです。」


 他の場所で待機している参加者全員に放送しているようだ。


「今回のイベントは新人アーティストイベントとしては異例の入りとなりました。それだけ皆さんが注目されていると言うことですね」


「会場だけではなくリアル配信もされますので存分にやっちゃって下さい」


 熊の姿をしたビーバーは画面の中で拳を突き出した。


「それと予想以上にこのイベントは関心を持たれました。それ自体はありがたい事ですが関わる人が多くなると良からぬ事を考える輩も出て来ますのでイベント中何かあっても落ち着いて運営の指示に従って下さい」


「それでは皆さん、楽しき時を皆んなで共感しましょう」


 熊はジャラジャラとアクセサリーを付けた可愛らしい手をふりふりと振って画面から消えた。


 ポーン!


 さっきと違う音がしてアナウンスが流れた。


「これより新人アーティストフェスティバルin六角スタジアムを開催致します。参加者の皆さまはそのまま待機して頂き登場順番をお待ち下さい。」


「登場は控え室にありますポートから直接ステージ中央に転送されますのでご注意下さい。それまでのイベントの様子はモニターにてご覧下さい」


 モニターに会場が映し出された。


 司会は六角スタジアムのマスコット、六角くんと六角ちゃんがやっている。


「六角くんと六角ちゃんが司会やってる可愛い-」


 彩はモニターを見て喜んでいる。


「中身は運営の人なんでしょうかね?」


「そうなんだにゃ?」


 確かに格好は全身六角の奇抜キャラだが場に慣れた感じで進行している。


(さあ!始まりました。新人アーティストフェスティバルin六角スタジアム!)


 六角くんが妙な動きでステージを飛び回っている。


(新人達とは思えないこのお客さんの数!配信の視聴者も回線飛びそうな勢いです)


 六角ちゃんがクネクネと微妙に動きながら続ける。


(今回は8組のグループがエントリー、皆んな知っている通り演奏の順番はプロモーション動画の再生数が多い順に後ろになっています)


 飛び回っていた六角くんがピタッと止まった。


(もちろん1番目に演奏するグループが再生数が一番少ないけど侮るなかれ!1番目のグループの再生数100万越え!)


 六角ちゃんが変わって続ける。


(8組居て最低でも100万越えですよ!つまりこの8組の実力は確かという事がわかりますね)


 へー最低で100万越えって最後の俺らはどれくらい行ったんだろう…


 再び六角くんに変わり続ける。


(この事が真実であるのはここに来てくれている皆さん、そして配信視聴者の数が証明しています!皆んな、この8組の新人達は期待していい!)


 会場から大きな歓声が上がる。

 モニター越しでもその熱気が伝わって来た。


(それでは早速やっちゃいましょう!)


 六角ちゃんが両腕を大きく上に広げる様に上げた。


(まずは1組目!W &Wだー!)


 六角くんも同じ様に両腕を広げて上に上げる。

 そのままゆっくりステージは暗転して行った。

 六角スタジアムは中規模と言っても10万人は入れる場所だ。現実なら10万人も入ればステージから遠い人はほとんどステージは見えないがここはミナセカ、仮想空間の中だ。会場に来ている観客の中でランダムに選定された観客の視界を会場に来ている人であれば誰でも共有できるのだ。

 これによりステージ目の前にいる様な視界にもなるし少し引いたステージ全体が見える場所から見る事も可能だ。

 もちろん視界だけなのでそのアバターを動かす事はできないが。

 だが視界おいては選択したアバターに依存せず自由に見る事が出来る。

 つまり動く事はできないが視界は自分が右に首を振れば普通に右側が見えるシステムだ。

 このシステムは会場内だけで可能で会場に来ないとできないサービスだ。


 ジャーン!


 真っ暗な会場にエレキギターの音が響いた。

 ステージにスポットライトが当てられる。

 その中からゆっくり二人の人影が現れた。


「皆んなこんばんはー!W &Wですー!」


 W &Wは女の子キャラの二人組で少し前から路上演奏で有名になったグループだ。


 他の出場者グループは次の7組。


 ・みなみボイチャーズ

 ・ゴッセルルーン

 ・SETOGIWA

 ・ノイズモーメン

 ・YUUSHYA

 ・YODATI

 ・ZEUSU


 どのグループも癖の強そうだ。しかし司会も言っていたがどのグループも人気があり会場は盛り上がっている。


 皆んなそれぞれの持ち味で次々に演奏をこなして行った。


(さあ!残すは2組だ、まずはYODATI行ってみよー!)


 六角くんが元気にアナウンスする。


「このYODATIはミナセカのエリア担当者推しみたいですね」


 ドラムスティックを磨きながらゼウスが言った。


「へー通りで人気あるわけだ」


「ミナセカのエリア担当者って誰にゃ?」


「確か第四世界の責任者がプロデュースしているとか」


「第四か〜あそこは攻略やり込みエリアだからね。あんまり演奏イベントとかないのによくプロディースとか出来たね」


 彩が首を傾げる。


「あそこは戦闘クエが多くて戦闘BGMもかっこいいのが多いからそこから生まれたみたいだね」


「良く知ってるねカーちゃん」


 高校を辞めてからたまに第四世界に行ってたんだよね。時間もあったし…


「格好もバンドというか攻略パーティ見たいな格好にゃ」


 4人構成で全員が立派な装備を着ている。


 背丈が高くスラっとしたエルフ族の女性が中央で歌い出した。


 🎵〜♩〜♬〜🎶


 女性のハスキーな歌声が軽快なリズムに乗り会場に響き渡る。

 曲は第四世界の討伐クエスト「森林女王の宴」そのボスキャラとの戦闘時に流れる曲だ。

 第四世界にある広大な森に遥か昔から存在すると言われた森林女王が消えその謎を解き明かすクエストだ。女王を捉えていたボスを討伐する事で達成するがその難易度はかなり難しいとされる。

 曲はロック調でテンポの速い変調もある難しい曲だがエルフの女性は素晴らしい声で歌い上げている。

 演奏も負けずバランスが良かった。

 新人とは思えない堂々とした演奏だ。


 ワー!!!


 演奏が終わり会場が湧き上がる。

 続けて2曲目の演奏が始まった。

 今回のイベントでは1グループ2曲までとされている。

 これが終わるといよいよZEUSUの出番だ。


 2曲目も第四世界のクエストで流れる曲だった。このクエストはお使いクエと呼ばれるもので小さな村にいる少女から病気の母の為に貴重な花を入手するクエストだ。花を入手する場所には妖精がおり彼らを説得しなければ手に入らない。しかしこの妖精達はなんとも可愛らしくピクシーや小人、妖精の長である熊妖精と遊び満足させる必要がある。

 その際に流れる曲で穏やかで楽しげなバラード調の曲だ。

 先程と違い可愛らしい声でエルフの女性は歌い上げる。激しい曲から可愛らしい曲まで幅広くそれが全て完成度が高い。ミナセカの担当者から声が掛かったのも納得の実力だった。


 2曲目も終わり大歓声の中YODATIはポートから控え室に戻った。

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