赤い翼の鴉は金色に輝く

りるはひら

第1話 ミンナノ世界

 最近のゲームはすごい!

 AI技術よって自分の写真を元にキャラクターを作れる。

 リアルな自身をそのままキャラにできる。

 もちろん全く違うキャラを作り込む事も可能。

 そしてそのキャラクターで仮想世界にフルダイブ出来るのがVRMMO。


 ミンナノ世界 だ!


 フルダイブとはゲームのキャラに意識を移してゲーム内で自分の体の様にキャラを動かしてゲームの世界に入ってプレイする事だ。

 このゲームはキャラだけでなく内容も少し変わっている。

 特定したストーリは無く、ユーザーによるRP(ロールプレイ)やユーザーによるイベントで楽しむゲームだ。

 格闘大会やコンサート、劇にアミューズメントパークまでユーザーが開催できるようになっておりその為の施設や設備などが運営により用意される。


 もちろん無料というわけではない、ゲーム内通貨が必要だし使用できるようになるまでいくつかの条件をクリヤしなければならない。

 例えばリアルな世界で言えばコンサートを開きたいが集客できるアーティストでないとやる意味がないし無理やりやっても大赤字になる。

 このミンナノ世界でも同じ事でコンサート会場を借りるには多額の資金が必要で開催する内容も運営からの許可が必要になるので仮想世界とは言っても現実世界と何ら変わらないシステムだ。


 だた、ミンナノ世界では皆が作ったキャラでそれらを行う点が現実と大きく違うところだ。


 作ったキャラ、アバターと呼ぼう。そのアバターはリアルな自身をスキャンしてリアルと同じ自分の姿でも出来るし、AIで好きな様に作る事ができるのでキャラ設定の幅が広い。

 声もボイスチェンジャー機能で自由自在だ。

 そういった意味ではより特徴のあるアバター、魅力のあるアバターが人気になり有名になったりして大きな会場で沢山の人を集めている。

 または格闘家、武人になってトーナメントを優勝したり。

 絵を描いて個展を開いたり、普通のゲームのように冒険や自分で作ったアイテムを売ったりもできる。


 ミンナノ世界は自身のセンスをアピールするゲームなのだ。


 そんなミンナノ世界だが公開当初から絶大な人気を誇ったキャラが居た。

 そのキャラはミンナノ世界のPV(プロモーション動画)に採用されると容姿、歌声などからプレイヤーから絶大な人気を集めミンナノ世界でプレーする者なら誰もが知る存在となった。

 しかし、公開から初アップデートを機会にそのキャラは姿を見せなくなった。

 運営には多くの問合せが有ったがあくまでPVでありキャラクターについては一切ノーコメントだった。


 プレイヤー間では憶測が飛び重要キャラ、女神やお姫様、魔王とまで言う人がいた。

 結局は何もわからずその圧倒的なビジュアルと歌声のみが残された。

 公開されてから随分時間も経った今でも彼女に似せたアバターを良く見かける。

 PVでの彼女は純白のウエディングドレスの様な衣装でそれに負けない程に白い肌、金色のキラキラと流れる様な髪、大きいぱっちりとした目の横には赤く流れるアイシャドウが幻想的な印象で胸には逆十字の様な赤いクロスの意匠、手足が赤く、そして背中に小さな赤い羽が生えていた。

 真っ赤に塗られた唇から放たれる歌声はハスキーだが澄んでいて鋭い光をキラキラと聞く者の脳裏に思い浮かばせる。

 その存在感、輝きを放つ歌声から皆は彼女をこう呼んだ。


 RED Little ANGEL


 レッドリトルエンジェル


 RLA 【リラ】と…


 彼女がPVに出た事でプレイヤーが爆発的に増え一時期はログインするのも困難になった程だった。

 今では落ち着いているが元々期待されていたVRMMOだったので登録者を増やし今ではプレイヤー数一億人を超えている。


 俺もこのゲームを公開当初からやっている一人だ。

 特に何かを運営するなどではなく他のプレイヤーが運営するイベントなどを楽しむ勢だった。


「ねえねえ!ボーカルやってよ?」


 こいつは幼馴染のさやかだ。

 プレイヤー名はゴンザエモン。

 可愛い幼女系のキャラなんだがなぜゴンザエモンなのか今だにわからない。


「やだよ、なんで俺がボーカルなの?」


 ミンナノ世界はこいつと発売当初からやっているが最近は何やらバンドを始めるとかでこの様子だ。


「知ってるよ、歌上手いの」


「上手くないよ」


「え〜そんなはずはないんだけどな〜」


 こいつは何を持ってそう言うのだろう。


「う〜んそれじゃあベースとかは?」


「ベースか…」


「うんうん、ギターとドラムはもう決まってるからボーカルじゃないならベースだね。歌うベース!」


「なんでベースが歌うの!?」


かおるがボーカルしないなら私がボーカルだからさ〜歌うのしんどいし半分手伝ってよ」


 彩は明るく無邪気な顔で言った。


「やだよ歌うなんて…」


「ベースはいいんだ?」


「……」


「大丈夫だよ、このゲームボイスチェンジも充実してるし何よりイベントを開催できるゲームなのにやらなきゃ損だよ〜」


 そう、ミンナノ世界ではボイスチェンジシステムがあり希望を言うだけでAIにより理想の声に調整してくれる。男女問わず自由自在だ。


「ね〜ね〜ね〜ねーやろうよ!」


 出た!彩がこうなるとやるまでずっと言って来る…


 彩は高校生とは思えない駄々っ子になりのたうち回っている。


「わー!やめろ!教室でそれやるか!?」


 暴れるのをピタっと止めこちらを見て言う。


「じゃ歌うベースやって」


 その顔は今まで暴れ回っていた者とは思えない真剣な表情で私を見つめていた。

 彩は破天荒なところはあるが考えなく行動するやつじゃない。この話もおそらく考えがあっての事だろう。

 小さい頃から何かと世話を焼いてくれるのだ。


「わかったよ…やればいいんだろ」


 彩は素早く立ち上がると俺の手を掴む。


「本当だね!絶対だからだね!」


 俺の手を強く握り嬉しさと期待を込めた声で確かめる彩。


「お、おう…」


 彩は俺がこの話は絶対受けないと思っていたのだろう。無理もない俺の今の現状では人前に出ていく様な想像はできないだろうから…


 俺はこのところ学校にはほとんど来ていなかった。

 小さい頃から人との付き合いができず一人浮いていた。中学の時はイジメもあった。

 今は目立ってイジメとかはないが俺はクラスに居ない存在として扱われ声をかけるのは彩だけ…

 しかもクラスが違うのにわざわざ来て絡んで来るのだ。


 その存在と勇気は尊敬する。


 彩から誘われて始めたミンナノ世界、ゲーム内ではモンスター狩やイベント見たりとのんびりとしていた。イベント運営するのは初めてでちょっとワクワクもするけど。


 もうあんな事にはならないだろう…


「それじゃあ今日から夜はミナセカ集合ね!」


 そう言うとあっという間に居なくなった。

 残された俺はクラスの注目を浴びる。


 くっ久しぶりに学校来たらこれかよ…

 周りの視線が痛い。


「あいつベースだってさ…しかも歌うとか…陰キャラなのに」


 数人の笑う声が聞こえた。


 今日はどうしても学校に来る用事があったので来てみたがやはり教室に来るんじゃなかった。

 不登校でもう高校もやめようと思い先生に相談したらとりあえず学校に来て話そうという事だったので来たが…ここに自分の居場所は無い…


「ガタッ」


 席を立ち教室から出た。

 そのまま職員室に向かい先生にやめる事を告げて学校を出た。


「なんか…スッキリしたな」


 そう声を出したが心は悔しさ、後悔、寂しさが残っていた。

 校舎を見ると教室の窓から彩が寂しそうにこっちを見ていたのが目に残った…


「そんな顔しなくても、また夜にな…」


 呟いて学校を去った。


 その夜、ミナセカの中にある俺と彩が購入したハウスでは見知った連中が集っていた。

 ミナセカでは自分の家を買う事ができ仲間とシェアも出来るようになっている。拠点がある方が良いと彩とコツコツゲーム内通貨を貯めて購入した家だ。


 一階の彩の趣味満載、緑の間にあるテーブルの周りには俺と彩を含む4人が席に着いている。

 最近ではこの4人でモンスター狩やクエストをこなしていた。


 ちなみに緑の間とは植物系の家具を盛大に設置しジャングルの如き空間になった部屋だ。


 野生?野生に帰りたいのか!?

 と突っ込む程だ。


「では、いよいよ私達が立ち上がる時が来ました!」


 彩が宣言する。


「いよいよですか」


 クールな声で細身長身、端正な顔立ちのキャラで話すのは狩仲間のミカエル君だ。種族はエルフの男性キャラ。


「私の手腕を生かす時が来たにゃ!」


 猫語で話すのはやはり狩仲間のミーコ。

 猫獣人キャラで背は小さいがしなやかな体躯で動きが素早い。


「と言うか今からやるのバンドの話だよね?皆んな演奏とかできたんだ?」


「長年に渡る私のドラマー魂をお聞かせしましょう」


「うちも超絶ギター頑張るにゃー!」


「そうなんだ全然知らなかった。皆んなすごいな」


 普段の狩ではそんな様子は全く見せてないからちょっと予想外だ。


「そしてー、ボーカルは〜。私とカーちゃんです!」


 彩は俺を抱き寄せ能天気に言った。

 カーちゃんとは俺の事だ。

 ゲーム名はクロウなので鴉のカーを取りそう呼ばれている。


「ベースは居ないのにゃ?」


「ベースはカーちゃんです!」


「つまりカー君はボーカルとベースと両方やると?」


「さすがミカエル君、冴えてるね」


 彩はミカエルに親指を立てた手を向けた。


「大丈夫なのかにゃ?出来るのかにゃ?出来るのかにゃ?」


 ミーコは耳をピコピコさせて興奮気味に言った。


「大丈夫!!」


 と彩が満面の笑みで皆んなに答える。


「何で俺じゃなくてゴンが自身満々なんだよ」


「ふっふっふ、カーちゃんの事は本人よりも知っているのだよ」


「仲が良き事は良いですね」


「さすが幼馴染だにゃ」


「はいはい、わかりましたよ頑張ってみます」


 彩は言い出したら聞かないからな諦めてやるしかない。


「まずは数曲を練習にしてローカルイベントに参加だね」


「曲とかはどうするの?」


 バンドといえば持ち曲が大事になってくるが作曲なんて出来るやついるのだろうか?


「曲はね、このゲームで演奏して良い曲が用意されてるのでそれを使います」


 そうなのか?他のイベントとか結構聞いてるけどどれも同じ様なやつはなかったがアレンジか。


「曲のアレンジは許可されてるので良さそうなのを見繕って私ら向けにアレンジだね」


「演奏するのに許可がいるのね?」


「著作権問題ですね」


 ミカエルが涼しげな表情で言う。


「そ、リアル世界に有る曲はNGでミナセカで用意された楽曲のみ演奏していいの。アレンジも配信もOKでミナセカの中だけだけどコンサートなんかも出来る!」


「有名になれば儲かるよ!」


「儲かると言ってもミナセカ通貨だにゃ、リアルじゃ貧乏のままにゃ」


「わかってないね〜アカウント契約者数お化けのミナセカだよ、ここで有名になれば当然リアルでも話題になるでしょ?」


 ミカエルが人差し指を上に真っ直ぐ立てた。


「そう言えばジューヌはミナセカ出身でしたね」


「あのミリオンヒット連続のジューヌかにゃ!?」


 ジューヌはミナセカで大人気だったバンドでリアルでスカウトを受けメンバーがリアルの姿を公開しそのままリアル世界でも人気アーティストになったグループだ。


「まあ、あそこまでは無理としてもミナセカでは知られる位にがんばろ〜」


 彩らしくない目標設定だった。

 普段は無茶な目標をバンバン立てるのに。


「でもでもリアルスカウト来たら顔出ししないと行けないのにゃ?」


「全くこのお猫は… そういうのを取らぬ猫の玉算用というのですよ」


「なんで猫にゃ?玉?」


「それは… 」


「ぷっ!」


 思わず笑ってしまった。


「あーカーちゃんが笑ったにゃ!」


「ごめんごめん、スカウトとか気にしないで楽しんでやろうよ?」


 リアルは知らない仲だがその性格、人間性は本物だ。彼らと知り合えてよかったと思う。

 きっと彼らならリアルでも同じ様に過ごせる気がする…


「でもカーちゃんは可愛いにゃ!きっと人気出るにゃん」


 俺のミナセカでのキャラは人族の女の子だ。ボイチェで声も変え口調もしっかりRP(ロールプレイ)している。

 キャラを作るのは幾分か自身があったので褒められると悪い気はしない。


「そ、そんな事ないよ、ミーコだって可愛いじゃん」


「にゃはは」


 クシクシと耳を弄って照れるミーコ。


「ここは唯一の男キャラである私が頑張らねばならないようですね」


 ミカエルはフンスと胸をはる。


「はいはい、頑張って後ろでドラム叩いてね」


 彩はミカエルに手をひらひらさせた。


「うぐ… 」


 シュンとするミカエル。


「ドラムは演奏の要なんだから音で目立ってね」


 一応フォローしてみた。


「そうだにゃ!頑張れミカエル!」


 その日は各自の役割を確認し終わった。


 それからはひたすらミナセカの中でベースとボーカルの練習をしていた。

 他の三人は学校や仕事があるので昼間はインして来ない。後ろめたさを少し感じながらも使える時間でやれる事をやろうと決めた。


 1週間後、まずは動画を撮って配信しようという事になりミナセカにあるレコーディングスタジオを借りて撮影する事になった。

 最初はなかなか音が合わなかったが数回もやると合ってきた。みんななかなか上手い。

 演奏が合ってきた所でボーカルを入れる。

 彩が最初はメインボーカルで歌い途中で俺にボーカルがチェンジしベースは彩が引き継ぐ。


 久しぶりに人前で歌うな…


 ボイスチェンジャーを使っているので違和感はあるが一人の時に試したら普通に歌う分には問題なかった。

 そして俺のパートになりこのバンドを組んで初めて皆んなの前で歌った。


 ……!


 皆んなの演奏が一瞬乱れる。


「あれ?俺なんか間違えた?」


「何かじゃないにゃ!なんにゃその歌声は」


「え、歌えてないかな?」


「カーくん、逆ですよ。なんでそんなに歌上手いのですか!?」


「え?」


 話しが合わず皆んなで目を合わせて固まった。


「ゴンくんが押す訳ですね。これ程とは…」


「そうでしょ〜」


 彩は自分の事の様にフンスと仰け反った。


「ゴンちゃん反り返っている場合じゃないにゃ、私らも頑張らないとカーちゃんが浮いてしまうにゃ!」


「大丈夫、そんなところもカーちゃんはカバーしてくれるよ!」


「結局、俺かーい!」


 彩以外はリアルもよく知らない二人だが本当に面白くて人に優しく出来る二人だ。

 このメンバーに出会えて良かったと思う…


 そんな感じにわいわいしているうちになんとか宣伝用の動画が撮影できたらしい。


「よし!これはいいよ〜早速編集して上げちゃおう」


 久しぶりの演奏は楽しかった。

 かなりいい感じに出来たと思う。


 更に1週間後。


 彩からバンドグループにメッセージが来た。


ゴンザエモン:  皆んな〜編集完成!見てもらって良ければ上げちゃうよ〜


 メッセージに編集された動画が付いている。

 見るとプロ顔負けの凝った編集だ。


ミーコ:  すっごいにゃ!うちらすっごいにゃ!


ゼウス:  私が写っていませんが?


 ミカエルはなぜかメッセージネームはゼウスだ…


カー:  さすがゴン、頑張ったね!


ゼウス:  私が見えておりませんがー!


ゴンザエモン:  頑張ったよ〜最初が大事だからね!


 ゼウスが後ろ向きに拗ねる天使のスタンプを貼ってきた。


ゴンザエモン:  ごめんて、ミカエルの演奏してる絵が撮れてなくてさ。でもメンバー紹介は一番派手にしてるからね


ミーコ:  そうだにゃ、メンバー紹介のミカエルはカッコいいにゃ


 ミーコが投げキッスしてる猫のスタンプを貼り慰める。


カー:  そうそう、ミカエルのリズムは安心できるよ


 可愛いキャラがハートを投げるスタンプを貼った。


ゴンザエモン:  とりあえずこれで動画を公開するね


 全員がOKのスタンプを貼った。


 翌日…


 公開した動画をチェックする。

 再生回数506


 なんとも微妙な数字だ。まあいきなり無名のバンドが一晩でこの数字は良い方… と思う事にしよう。


 その後はミナセカで集まり他の楽曲の練習などしていた。

 突然にゴンザエモンが騒ぎ出す。


「ちょ、皆んな見て!」


 再生回数173675


「なんなのさこの数値!?」


 ミーコが思わずロールプレイを忘れ素で言った。


「もしかして何かやっちゃいましたかね?」


 ミカエルも焦っている。


「違う違う、これ見てよ!」


 彩がゲーム内のグループ画面にある記事を写し出した。


「これって…ミナセカのまとめサイト?」


「さすがカーちゃんよく知ってるね」


 ミナセカの情報をまとめ配信しているサイトが多数ありその一つが表示されている。


「これ、ミナセカNAN幽鬼ではないですか?」


「おーここのサイト分かり易いのにゃ」


「それで?このサイトが?」


 彩がもったいぶってゆっくり画面をスクロールする。

 動画が貼られており聞き慣れた音が聞こえて来た。


「え、これ俺らじゃん!?」


「そうなのだー!NAN幽鬼に取り上げてもらったんだよ〜」


 動画の紹介で推しのバンドと書かれている。


「NAN幽鬼に推してもらえるとは一大事ですね!」


 興奮気味のミカエル。


「すごいのにゃ!すっごい再生数なのにゃ〜」


 ミーコは部屋を身軽に走る回る。


「本当だよね〜NAN幽鬼って攻略系が多いから音楽系はあまり載せないんだけどうちらが載っちまったよ!」


「やはりバンド名がZEUSUにしたのが良かったのですね!」


 ……


 バンド名を決める時ミカエルがこのZEUSUという名前を上げて来た。そのミカエルの熱意に皆んな負けてバンド名はZEUSUとなったのだ。

 ミカエルはドラムである事に不満は無い様だが露出が少ない事を気にしているようだったので励ます意味でミカエルの案で採用となった。

 正直言えば微妙なバンド名と思ったがミカエルが嬉しそうなのでみんなも納得した。


(最近のお気に入りパーティがあるんだよ〜その名もZEUSU!このパーティは攻略パーティではなく新生の音楽バンドだ!いや〜配信動画を見て一発でお気に入り登録しちゃったんだよ〜何と言ってもサブボーカルのクロウだ。その歌声は妙に聴き入ってしまう歌声でメインボーカルのゴンザエモンとの相性もバッチリ。いやクロウがゴンザエモンに合わせているように思えるね。それは決して抑えているなどではなくゴンザエモンとミーコのギター、ミカエルのドラムとの超絶コラボだ。バンド全体のクオリティが引き上がってる。今後も注目のパーティだ!出来ればクロウのソロも聴いてみたいね〜)


「うわ〜NAN幽鬼のコメントもベタ褒めだね、特にカーちゃん!」


「カーちゃんすごいにゃー!」


「ふ、私は分かっていましたがね…」


 皆んなが喜んでくれるのを見てちょっと泣きそうになった。

 そんな俺を見て彩は話題を変えてくれた。


「よっしー!このまま上げ上げになるようにどんどん動画上げよう〜」


「やるのにゃ!」


「望むところです」


 俺も涙が見えない様に誤魔化しながら手を上げた。

 その日は気合いが入り少し遅めに解散となった。


 数日後… 動画の再生回数は50万回を軽く超えていた。追加で上げた新動画は100万に届く勢いだ。


 ゴンザエモンからグループメッセージが届く。


ゴンザエモン:  初のイベント参加決まったよー!


ミーコ:  やったにゃ!


 肉球スタンプが3つも押してある。


ゼウス: いよいよですね


カー:  ちょっと緊張するね


 カラスがバタバタしているスタンプを付けた。


ゴンザエモン:  今度新人向けのイベントを開催するイベンターが居てデモ動画送ったら出演OKになりました-!


 皆んな一斉にクラッカーや喜びを表すスタンプが貼られる。


カー: 「NAN幽鬼のおかげだね〜」


ゼウス:  場所どこなんです?


ゴンザエモン:  場所は第三世界に有る六角スタジアム、今から2ヶ月後!


 ミナセカの中はいろんなテーマを元に世界があり発売当初は一つだったが徐々に増え今では第九世界まで有る。

 六角スタジアムは第三世界に有るイベント会場だ。その名の通り六角形の形をしておりスタジアム全体が六角形をテーマにデザインされている。

 そしてここはロックなアーティストがイベントする名所になっていた。六角とロック…安直だがそういう事なんだろう。


ミーコ:  六角スタジアムってロックのかにゃ?


ゴンザエモン:  そうそう


 正解!の文字を変な鎧を来たキャラが出してるスタンプが表示される。


ゼウス:  六角だからロックとは安直な発想


 怪しげな修行僧が瞑想しているスタンプ


カー:  でもうちらロックじゃないよ?


ゴンザエモン:  今回のイベントはロック限定じゃなくて新人メインだからね、ジャンルは自由だよ


ミーコ:  やったにゃ!


 子猫が踊っているスタンプ


ゴンザエモン:  そういう事でイベントに向けて練習だよ!


 全員が意気込みを表すスタンプを貼った。


………… 某オフィスの一角…………


「増田さん!」


「おや、第四世界担当の沼地チーフじゃないですか。前回のチーフミーティング以来ですね」


「どうも… 増田さん今度の六角にジューヌを出すって本当ですか?」


「どこでそれを…」


 情報が漏れない様に徹底していたはずだが…

 漏らしてる奴がいるのか?


「今度の六角イベントは新人イベントでしょ?ジューヌなんか出したら新人達飛んじゃいますよ?」


「ジューヌはミナセカ出身のアーティスト、未来に羽ばたく新人達と一緒のステージに立つのは話題的にも新人達にも大いに利になる事ですよ」


 どうもこの沼地という男は何かと絡んでくる。

 先日のチーフミーティングでもこちらのパクリとも取れる企画を出してきて却下されていたが、まさか直接絡んでくるとは。


「そう言えばジューヌは増田さんが引っ張って来たんでしたっけね。新人なんかと一緒にジューヌも可哀想だ」


「この話はジューヌからの提案ですよ私はそれを採用したに過ぎない」


「な!?そんなはずないでしょう?」


「ジューヌの子らは新人とか関係なく実力が有る者が好きですからね、今回も何やら企んでいるみたいだから楽しみですよ」


「はん!リラ信者はこれだから実力が有れば何しても良いと思っている様ですね」


 沼地はリラ、レッドリトルエンジェルに反感を持っている様だった。リラの話になると異常な程の拒否反応を示す。

 ジューヌはリラに憧れアーティストになったグループだ。今ではトップアーティストと肩を並べている。

 沼地も色々新人を引っ張って来てジューヌ程ではないが上位にいる者達もおり何が不満なのかわからない。

 俺に恨みでも有るのだろうか…

 それともリラにか…


 どちらにしてもこいつには気をつけないとな。


「私はこれで、沼地さんまた今度」


 そう言ってその場をそそくさと離れた。

 そんな俺を沼地はずっと睨み付けている様に見えた。


「あんな奴に時間食ってる場合じゃないんだよ今度のイベントにはあの子が出るんだ、色々準備しておかないとな」


 増田は足早に第三世界部屋へ向かった。

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