第23話
謝罪を受け入れるかどうかは千秋にかかっている。
自分たちにできることは、誠心誠意謝ることだけだ。
それ以上のことなんて、きっと望んじゃいけない。
「受け入れられなくてもやらなきゃいけないことだと思う」
奈穂はきっぱりと言い切った。
ここまで自分の意見を通したことは今までなかったかもしれない。
今回の出来事が少しだけ奈穂を変えていた。
「そうだな。俺もそう思う」
豊が同意して頷いた。
「千秋は学校へ戻る決意をしたんだ。それなら、俺達だって自分たちの罪を認めてちゃんと謝る決意をしないとな」
豊が珠美の肩をポンッと叩いてそう言った。
珠美は渋々ながらに頷く。
「一浩はどう思う?」
奈穂は話の矛先を一浩へ向けた。
この中では一番千秋と会いづらいはずだ。
けれど一浩はそんなこと気にしている様子は見せず「もちろん、謝りに行く」と言ったのだ。
「俺の単なる勘違いで、イジメたんだ。どう考えたって、俺が悪い」
「そうだね。だけど悪いのは一浩だけじゃないし、この4人だけでもなかったと思う。クラスで千秋のイジメを知っていた生徒は沢山いるんだから。その全員が自分がしてしまったことを理解して、千秋を受け入れないといけないと思う」
それはきっと簡単なことじゃない。
4人と同じ経験をしていれば千秋への考え方も少しは変わるかも知れないけれど、残念ながらみんなあの経験をしている様子ではなかった。
「少しずつでも俺がみんなを説得する。みんなを巻き込んだようなもんだから、他のやつらにも謝らないといけない」
一浩の言葉に豊が「それなら俺だって同じだ」と、呟いた。
千秋へのイジメは様々な因果関係が折り重なって行われた。
誰か1人が謝れば終わるようなものではない。
「わかった。それなら全員で謝りに行こう。それで、みんなで千秋を受け入れる準備をしようよ」
奈穂はそう言ったのだった。
制裁
それから一週間後の放課後、4人はそろって病院へ足を向けていた。
今朝のホームルームで奈穂が松葉杖で歩けるようになったと、先生から聞いたのだ。
退院してからもしばらくは松葉杖が必要になるらしい。
「千秋、起きてるかな?」
病院の入り口で珠美が小さな声で呟いた。
「わかんないけど、たぶん起きてるんじゃないかな?」
入院していると時間や曜日の感覚がなくなっていく。
昼間にぐっすり眠って夜起きてきてしまう人も多いみたいだ。
「もし寝てたらどうする? 明日にする?」
「珠美、怖いのか?」
さっきから病室へ向かう足取りが重たい珠美の、言い訳じみた言葉に豊が心配した顔を向ける。
「そ、そんなんじゃ……。ううんごめん、やっぱり少し怖いかも」
豊がそんな珠美の手を握りしめる。
これから自分のしたことを認めて謝罪をする。
それ自体も怖いけれど、受け入れられなかったときのショックはもっと大きいだろう。
足取りが重たいのは珠美だけじゃない、奈穂もさっきから周囲を見回したりして落ち着きがなくなってきていた。
今先頭を歩いているのは一浩だ。
一浩は口を引き結んで歩いていく。
一番怖いはずだからこそ、先を行くのかも知れない。
そうこうしている間に病室に到着した。
そこは前回訪れたときと同じ病室で、個室だった。
白いドアの前で立ち止まり、一浩は一度深呼吸をする。
「俺が開けようか?」
「いや、いい」
豊が後ろから声をかけてきたのを制して、ノックする。
中から「はい」と、か細い声が帰ってきた。
それは数日ぶりに聞く千秋の声で、その声を聞いただけで胸の奥が熱くなった。
「千秋、入っていいか?」
ドアを開ける前に一浩が声をかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます