第21話

きっと他の人達はこの話を聞くと奈穂のことは咎めないだろう。

仕方なかったことだと慰めてくれるかも知れない。


だけど奈穂は千秋に選ばれて昨日の空間へ行ったのだ。

やられた側からすれば、奈穂も彼らと同罪だった。


それを重たく受け止める必要がある。



「俺たち、これからどうすればいいと思う?」



すべての告白を終えた後、豊がそれぞれを見つめて問う。

一浩は険しい表情で考え込み、珠美はつい目をそらして、奈穂は悲痛な表情を浮かべた。



「たぶん……千秋に会いに行くのがいいんだと思う」



奈穂が苦しげに答えた。

千秋はまだ病院にいる。


その千秋にあって謝って、それでどうなるかはわからない。

謝ったくらいで終わることではないかもしれない。



「千秋に会わせる顔がないよ」



珠美が震える声で言った。

みんな千秋に会うのが怖かった。



自分がしたことを認めて謝罪することが、こんなに怖いことだなんて知らなかった。



「自殺したときに千秋の姿を見たんだけど、みんなは?」



奈穂が聞くと、それぞれが頷いた。

やっぱり、みんなの夢の中にも千秋が現れていたんだ。



「千秋は私の傷口を指差して『それが私の痛み』って言ったの。すごく怖くて苦しくて痛くて、本当に死んでたらと思うと全身が冷たくなった」



奈穂は自分の体を抱きしめる。

その時の恐怖は今でもまだ鮮明に思い出すことができる。



「だけど、私達はこうして生きてるし、会話することで安心することもできた。でも、千秋は? 千秋はまだ1人で入院してて、安心することだってできないんじゃないかな?」



千秋はまだ1人で苦しんでいる。


痛い痛いと叫んでいるかもしれない。

そう思うと居ても立っても居られない気持ちになった。



千秋へ傷を与えたのは自分たちだ。

それなら、自分たちが動くしかない。



「今からでも、病院に行こう」



そう決断したのは一浩だった。

一浩が一番千秋に会いにくいはずなのに、その顔は真剣そのものだった。

もう覚悟を決めているように見える。



「うん、行こう」



奈穂も同意する。

珠美は震えながら、豊はそんな珠美を気遣いながらも同意した。

そして4人はホームルームが始まる前に学校を出たのだった。


☆☆☆


この街で一番大きな総合病院は豊の父親が外科医として務めている場所でもあった。



「こんな時間にどうしたんだ?」



できれば豊の父親に見つからないように病室まで行きたかったけれど、エレベーターへ向かう途中でバッタリ会ってしまった。

白衣を来た豊の父親は聡明そうな顔立ちをシていて凛々しさを感じる人だった。



「お父さんごめん。どうしてもお見舞いに行かないといけないんだ」



詳細をここで伝えることはできないけれど、父親は豊の真剣さを組んでくれた。



「わかった。でも見舞いに手ぶらというわけにはいかないんじゃないか? 少しここで待っていなさい」



そう言い残すと、10分ほどして戻ってきた。

その手にはカゴに入ったフルーツが握られている。



「売店で買ってきたものだけど、なにもないよりはマシだろ」


「ありがとう」



フルーツのカゴを受け取り、4人でエレベーターに乗り込んだ。

千秋が入院している病室は予め電話して聞いていた。


フルーツの爽やかな香りとは裏腹に4人の心臓は緊張で早鐘を打っていた。



千秋の交通事故はどれくらいのものだったんだろうか。

体は大丈夫だろうか。


そんな心配と共に、これから自分たちの罪を償うのだと思うと重たい気持ちにもなった。

こんな風に暗い気持ちになるのなら、最初から千秋を追い詰めるようなことをしなければよかった。


強い後悔が4人を襲ったとき、目的の階に到着した。

こんな早い時間に制服姿でやってきた4人に目を向ける人は多い。


けれどそんな視線を気にする余裕も残されていなかった。

千秋がいる病室へ向かうと、そこが広い個室であることがわかった。


戸が完全に開いていて中から人の話声が聞こえてくる。



「千秋、千秋!」

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