Part 4

 師匠ノネの元、アスタとフェイの修行が始まった。


「ノネ、訓練ってなにをするんだ?」


「__アスタ、お前はまず敬語を覚えろ。私は18で、お前より年上のお姉さんだぞ」


「自分でお姉さんって……」


「アスタ、ちゃんと敬語使いなよ。すいませんノネさん」


「その点、フェイは敬語が使えて偉いな。アスタ、お前はフェイを見習え」


「__」


「なんだその不満顔は」


「じゃあノネっちで」


「ぶっ飛ばすぞ!」


「ホントすいません。ノネさん」


「まったく、まあいいや。訓練をする前に、まずはお前たちの実力を知りたい」


「え、僕たちの? なんでですか?」


「それはなフェイ。教えるには、まず相手の事を知っていなきゃ始まらないからだ」


「なるほど。でも実力って、どうするんですか?」


「フェイ、アスタ。 ひとまず私と勝負だ」


「え、ノネさんと……ですか?」


「あぁ」


「なんだよノネっち、負けても知らねーよ?」


「言ってろ。 さあ二人とも、連携でも一人でもどちらでも良い。 かかってこい」


「ど、どうしようアスタ。まずは相手の事を見て……」


「__めんどくせーてっ」


「ちょっ……アスタ!」


「先手必勝だろ!」


 アスタはフェイの発言に耳を傾けず、一人ノネに向かっていった。


そしてノネの間合いに入ったアスタ。


「一人で来たか……アスタ」


「なんでもいいんだろ!」


 アスタは右手に握っていた剣を、ノネに向けて大きく振りかぶった。


「(左からの大振り、この一撃に全てを……という訳ではなさそうだな。一人で突っ込み、なにも考えてないと思い込ませ、私がどう動くのかている)」


 熊型モンスターと戦った時、アスタは死にかける程の敗北を味わった。 その失敗を活かし、前はかわされてしまった攻撃を、今度は躱されてもすぐ反応できるよう、足に少しずつ魔力を集めて、ノネが動くのを待っていた。


「(なら……)」


 ノネは左からくる大振りを躱す為、身体を剣が当たらない左側に動かした。


「(剣を躱して俺の右側か、ならそこにもう一度振れば)」


 ノネの動きを観察し、アスタは足に集めていた魔力を地面への着地と同時に使い、ノネに近づき、剣を振ろうと動いた。


「(これなら……っ!)」


 ノネに剣での攻撃をしようとした瞬間、ノネはアスタの右手を止め、剣が動かせない状態となってしまった。


「……」


 想定外の行動に思考が停止してしまった。そんな僅か2秒程の時間で、ノネは持っていた木刀をアスタのくびに当てた。


「…… っ!」


「私の勝ちだ」


 アスタの思考が戻った時には、既に敗北していた。


 そんな時、フェイはノネの背後に回り込み、剣を振った。


「相手の背後に立ち、そこから攻撃、悪くはないが ……大間違いだ」


 ノネはフェイの大振りと同じタイミングで、剣を握っていた手を掴み、フェイの頸に当たらないよう、ギリギリで止めた。


「あ……」


「こんな所か」


 訓練ですらないこの勝負でも、敗北である事に変わりはない。


 アスタは悔しさ、フェイは頭がモヤモヤする感じが残った。


「なあノネっち、なんで分かったんだ?」


「二回目の攻撃か?」


「絶対隙だと思ったのに」


「そりゃあそう誘ったからな」


「どういう事だよ……」


「突っ込みで終わらず、なにか企んでいると思ったから、選択肢を絞ったんだ。 そうすれば、相手はこうするだろうとかが分かるからな」


「……」


「よく分からないって顔だな。 アスタ、お前には悪い癖がある」


「なんだよ」


「すぐ突っ込む所だ。 あれ自体が悪い訳ではないが、今のアスタがその戦法を使えば、選択肢が限られてしまう。 故に想定外の自体が起きた時、思考と動きが止まってしまう」


「そりゃあ皆そうだろ」


「まあな、想定外の自体に困惑してしまうのは普通の反応、むしろ当たり前だ」


「じゃあ」


「だが、その当たり前を許してくれないのが、戦闘、つまりは命のやり取りだ」


「……」


「次にフェイ、お前は最初、私の動きを見て動こうと考えていたな」


「はい」


「そして最後、私の背後から攻撃を仕掛けた。 あれは作戦としての動きか?」


「いえ、咄嗟の動きです。 アスタが負けた理由も分からなくて、もうどうすればいいか分からなくなって、たまたま隙があったと思ったので、背後に」


「素直だな。 フェイ、お前は考えすぎるあまり、どう動けばいいか分からない状態になってしまっている。 素直な性格故だろうが、最後突っ込んだのも、今動かなければ、実戦では死ぬと判断したからだろう」


「……」


「ノネっち、なんか意味あったのかよ。 この勝負で分かった事って、自分が弱いって感じちゃっただけじゃん」


「僕も、分かってはいたけど、やっぱり弱い」


「__意味はあったよ」


「なんの意味だよ」


「それは二人が今言った事だ。 弱い、そう言ったな」


「それがなんだよ」


「自分を弱いと感じる、それは熟練の戦士であればある程感じにくい、いや、感じたくない事なんだ」


「そりゃあ弱いのは嫌だろ」


「そうじゃないんだアスタ。 自分を弱いと感じる、それは欠点じゃない、むしろ良い事なんだよ」


「意味分かんないって」


「そりゃあ、大人でも感じにくい事だ。 子供は普通感じないし分からない。 だがアスタ……フェイ……君たち二人は、自分が弱いと感じた。 これは凄いことだ。 自分を弱いと感じて、ようやく始まるのが、成長なんだ。 さっきは師匠として、指摘を色々言ったが、落ち込んでいる二人に言うべき事がある。 君たちは強くなる。 これは断言できる」


「ホントかよ」


「ホントだよアスタ、勿論フェイもな」


「無理ですよ、僕には」


「今は感じにくい事だろう、だが、弱さを知っている人間は強い。 二人は子供の時に気づけた。 今からホントの訓練を始める。 きっと……うん」


「なんだよ」


「いやなんでも、二人とも、準備はいいか?」


「僕は……」


「やってやろうぜ、フェイ」


「アスタ……」


「正直ノネっちが何言ってんのか全然分かんないけど、負けっぱなしはヤダからな」


「__僕も、強くなりたい。 お願いしますノネさん」


「もっともっと強くなって、ノネっちを超えてやる!」


「そうこなくっちゃな、では今から、ホントの修行を始める!」

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