Part 3
「あれが……アスタ……なのか」
フェイは、熊型モンスターを倒したアスタの姿に驚いていた。
目で得られる情報は、アスタの髪色が黒から白に変わっただけなのだが、実際はそれ以外にも、状況の整理に思考が追いつかず、その場で固まってしまったり、全身に感じる恐怖が存在していた。
それは、とても友達から感じるものではない恐怖だと、フェイも思っていた。
あまりの怖さに、アスタに近づいて大丈夫なのかと考えていると、アスタは力を使い果たし後のように、地面に倒れた。
「! アスタ……アスタ!」
アスタが倒れて、いつ間にか恐怖も過ぎたのだろう、フェイは考えるより先に、アスタの方へ走っていった。
「アスタ!」
うつ伏せで倒れていたアスタをフェイは仰向けに起こし、アスタに呼びかける。
「__」
アスタは気を失っている為、呼びかけに応える事はできなかった。
「良かった。多分大丈夫だ」
先程のアスタの状態と言い、状況が呑み込めず困惑していたフェイだったが、アスタが生きている。
その事に喜びを感じていた。
ホッと安心していると後ろの方から声が聞こえた。
「おーい……誰かいるかー」
その声は女の人で、どうやら誰かを探しにきていたのだ。
「ん……あれは」
少女の視界に、仰向けのアスタと座り込んでいるフェイが映る。
「おい君達……大丈夫か!」
フェイとアスタを保護する為、少女は二人に近づく。
「あ……えっと」
この状況の説明しようとしたフェイだったが、どう伝えれば良いか分からなかった。
「__(傷は少しあるが、生きているな)」
その少女はまず、倒れていたアスタの元へと駆け出し、生死を確かめる為、状態をチェックした。
そして、多少の傷はあっても、命の危険には達していない為、ホッとしていた。
「大丈夫……私は君達の味方だよ」
「味方」
「あぁ……子供の二人がいなくなったと聞いて、ここまで飛んで来たんだ」
「えっ……いなくなったって……それはどういう」
フェイは、先生が自分とアスタを心配してくれたのではと分かってはいたが、なぜ自分達がいなくなったと言う事になっているのかについては、まるで分からなかった。
「君達は2人共……モンスターの結界内にいたんだ」
「結界内?」
「あぁ……モンスターが生み出す結界……その内側だ」
「僕らは結界の中に……じゃあ……皆がいなくなったと感じたのは」
「モンスターが結界内に君達を入れたって訳だ」
「そういう事だったんですか」
「なぜ結界内に子供がと思っていたが、なるほどな。君達は知らない内に、結界の中へと引き寄せられていたって訳か」
「ごめんなさい……僕達そんなつもりは」
「謝ることはないぞ……少年。こういったケースは、案外少なくないからな。生きていてくれたんだ……最高だよ」
モンスターが結界を生み出し、子供や成人の人を結界の中へと引きずりこむ事は、この世界では珍しい事ではなかった。
そもそも結界は、ある者がなに者かを閉じ込めるためのもの。
今回の場合は、熊型モンスターが殺戮の為、アスタとフェイを結界内に入れた。
対処法としては、結界を生み出した者を倒して解除だったりと方法がない訳ではない。
だがモンスターに子供が勝てるはずもない為、普通の場合、結界が解かれた後は、成人ならともかく、子供の場合は死体が残っていれば運が良い方なのだ。
その為、死体ではなく生き延びたアスタとフェイのケースは、奇跡と言われても、なんらおかしくはない。
「そう言えば……少年の名前を聞いていなかったな。名前はなんて言うんだ? 私はノネ」
「えっと……僕はフェイって言います。そこにいるのが、アスタです」
「フェイ君にアスタ君か。改めて、助けが遅れて申し訳ない。君達が生きていてくれて、ホントに良かった」
「こちらこそ、助けに来てくれてありがとうございます」
「__ 結界は解かれているから、もう出られる。今のうちに行こう」
「あ……はい!」
また新たなモンスターが結界を創るかもしれない、そうならない内に、ノネはアスタを背負い、フェイと共に結界が覆っていた森から出ようと歩いた。
「そう言えば……フェイ君……結界内で何があったんだ?」
「え?」
「結界に着く前に、とても大きな魔力と振動を感じてな。中に誰か剣士がいたのか?」
「いえ、あれは……アスタの力です」
「!? アスタって、この子か」
「はい。僕も驚きました。大きな魔力を感じたと思ったら、今度はアスタの髪色も変わっていて」
「髪色?」
「はい、今はもう黒に戻ってますけど、白髪になってました」
「__白髪か……私が見た時はもう黒髪だったな。(あの大きな力が、こんなに幼い子供から出ていた? 信じ難いが、事実と認めざる負えないだろうな。現に今、アスタ君とフェイ君は生き残った)」
「ノネさん。 お願いがあるんですけど、いいですか?」
「ん? お願い? まあ内容にもよるが」
「僕に……僕とアスタに剣を教えてくれませんか」
「!」
その言葉に、ノネは驚き、立ち止まった。
「剣を……それはつまり……剣士を目指すって事か」
「はい」
「……」
ノネは迷った。
剣を教えるべきか。
ノネは子供の夢を応援するタイプの人間だが、生き残ったとは言え、怖い思いをした子供を、また怖いものと隣り合わせの世界に入れてしまって良いのかと。
だがフェイの真剣な眼差しを見て、ノネは決めた。
「__分かった」
「! ありがとうございます!」
「(これが正しい行ないなのかは分からないが、護身術の一つとしてだけでも、フェイ君とアスタ君に剣を教えるのは、きっと意味がある。根拠はないが、なぜかそう感じる)にしてもアスタ君もか、この子も剣士を目指していたのか?」
「はい。もしアスタが断ったら、無理やりは嫌なので、僕は何も言わないですけど、きっとアスタは」
「そうか。アスタ君には、目が覚めた時に、聞いてみるよ」
「はい」
「俺がなんだって?」
「!」
アスタの一声に、フェイとノネは驚いた。
「アスタ……お前起きてたのか」
「あぁ……うん。痛みでなんか声出なかったけど」
「ビックリした……でも良かったよ。アスタが無事で」
「ごめんなフェイ」
「え?」
「心配かけて、気を失った後の事は知らないけど、お前も無事みたいだし」
「__アスタ」
「あと、お姉さんも」
「ノネでいいよ。それで早速なんだが、アスタ君はどうする」
「剣士の話ですか?」
「あぁ」
「もちろん目指します。ノネさん、剣を教えてください」
「分かった。怖い思いをした後だと言うのに、強い子達だな」
「確かに怖かったよ。正直死んだかと思ったし……でも、この怖さから逃げたくない。強くなりたい」
「分かった。先生の所に行ったら、その話をしよう」
その後三人は先生と子供達の所へ合流し、ノネは二人の無事と剣士の道の話をした。
初めは当然反対の気持ちが強かったが、ノネやアスタとフェイの気持ちが届き、先生からの了承を得ることができた。
「アスタ君……フェイ君……気をつけるのよ。ノネさんの言うこと……ちゃんと聞いてね」
「うん。大丈夫だよ先生、フェイとノネさんがいるから……俺強くなるよ」
「先生……アスタの事は任せてください。強くなりますから」
「大きくなったわね。それじゃあノネさん、二人の事……どうかよろしくお願いしますね」
「もちろんです。 私が責任をもって二人を鍛え、守り続けます」
「ノネさん、行こうぜ」
「そうだな……アスタ君、フェイ君……行こう」
「はい!」
三人は、ノネが普段泊まっている宿へと移動し、その日はゆっくりと休んだ。
そして次の日、ノネが普段練習で使っている小さな森に移動し、この日から、ノネによるアスタとフェイの剣士としての第一歩が始まった。
「それじゃあ二人とも、訓練を始めるぞ」
「はい!」
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