第一章 Part 2

「なあフェイ……熊型のモンスターに見つかった場合って、どうすれば逃げられるんだ?」


 熊型のモンスターに怯えつつ、逃げ案が無いか、アスタはフェイに聞いた。


「そ……そんなの分からないよ」


その質問に答えるフェイ。


 アスタはもちろん、フェイも逃げられる方法など、知る筈もなかった。


 それもそのはず、二人がモンスターに遭遇したのは、今この瞬間が初めてなのだ。


「……」


なにか打開策がないか、アスタは考えていた。


「__!」


 周りを見ていると、アスタはある物を発見する。


「なあフェイ」


「なに……アスタ」


「あれでなんとかならないかな」


「え?」


 フェイはアスタが言うそれの方向へと目を向ける。


「いや……あれは危ないって」


「でも、あれしか使えるものはないぞ」


「でも、あれ剣だよ? 剣士でもない子供の僕達があれを握ったとしても、怪我するだけだって」


 アスタが見つけた物とは、アスタとフェイの近くに落ちていた剣の事だった。



「でもやらなきゃ、どの道死ぬだけだろ」


「まさか、ホントにやるつもりなの?」


「なにもせず死ぬよりはマシだ」


 九歳の子供故に、アスタは無謀にも、熊型のモンスターに挑もうと、人生で初めて本物の剣を握った。


「これが、剣か」


「やめろってアスタ、ホントに死んじゃうよ!」


「やってみなきゃ」


 アスタは、遊びの時に使っていた木の棒を握った時と同じように、利き腕の右手で剣を握り構えた。


「わかんねぇって!」


 アスタは熊型のモンスターへと突っ込んでいった。


「アスタ!」


 突っ込んでいったアスタに驚き、名前を呼ぶフェイ。


「ハァァアァ!」


「__ガァァ!」


アスタに反応し、声をあげる熊。


「ガァ!」


 熊型モンスターは、尖った爪が目立つ両手をアスタに向けて動かした。


「(__!両手で俺を……どうする……正直何の考えもなしに飛び出しちゃった。でもこうなった以上、勘で動く!)」


 アスタは攻撃を避けるべく、両手で挟まれる所だったが、その瞬間にアスタは足に力を入れて、身長二メートルの熊型モンスターの上を飛び、後ろに着地したアスタは、熊型モンスターの死角と判断し、片手で握っていた剣を上から斬ろうとした。


「はいった!」


 アスタの攻撃が当たると思われた次の瞬間、熊型モンスターは剣を軽々と躱し、右手でアスタを殴り、吹っ飛ばした。


「__!」


「! アスタ!」


 三メートル先の樹木までアスタが殴り飛ばされ、フェイは思わず叫んだ。


「……(あ……やべぇ……身体に力が入んねぇ)」


「グルル」


 まだ獲物アスタが息をしているのを確認し、ゆっくりと歩いていく熊型モンスター。


「……」


 その光景に、フェイは見ている事しかできず、恐怖で身体が動かなかった。


「(ヤバい……どうしよう……このままじゃアスタが殺される……でも……どうしよう……怖くて……動けない)」


 殴り飛ばされ、意識が半分以上持っていかれたアスタは、樹木にぶつかった影響で、右腕が折れた上に、頭からは血が流れ、右頬に殴られた痕が残っていた。


「(ヤバい、全身が痛くて、動けない)」


 ぼやけた視界から、熊型モンスターが近づいてくるのが分かった。


「(それにアイツもこっち向かってきてる……ご丁寧にゆっくり歩いて)」


 向かってきているのは分かっても、痛みで身体を動かせずにいた。


「(俺……死ぬのか……こんな所で)」


 ぼんやりとした意識の中で、思い出が走馬灯のように流れた。


「(ヤベェ……これホントのやつだ)」


 そんな中、思い出の中のある人物の言葉が、頭の中で響いた。



「アスタ……困った時は……この言葉を言いなさい」


 ある人物が放った言葉を、アスタは口に出した。


「__かく……せ……い」


 その瞬間、アスタ、フェイ、熊型モンスターを囲むように、半径十五メートルにも及ぶ魔力爆発が発生した。


 魔力爆発とは、強大すぎる魔力を一気に解放することで、辺り一体に魔力による圧を敵に与える行為のことである。


「__! なんだ……今の」


 その範囲にフェイも入っていた為、圧は無かったが、0~100の様に、一瞬の内に膨大な魔力を感じ、驚いていた。


「そうだ……アスタは……!」


 フェイの視線の先には、白い髪色をしたアスタとお腹に大きな風穴を開けられた熊型モンスターの姿があった。

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