蒼き英雄
雨宮結城
第一章 Part 1
とある森の中、涼しい風と日差しが当たる木の下に、彼はいた。
「……」
この少年の周りには、鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでいる子供達がいた。
少年を含め、森で遊んでいる子供達は、皆孤児であり、両親がいないのだ。
いない理由は子供達によって様々だが、現在は施設で保護されている。
その為、心に傷を負っている子供達がほとんどであり、木の下に一人でいる少年も例外ではない。
「アスタ」
そんな少年に声をかけた一人の男の子。
「ん……あぁフェイか」
「また一人で木の下にいたの? 森の中は危ないって、先生言ってたよ」
「大丈夫だよ。ここは森の入口、危ないのはこれより奥に行った場所なんだし」
「それはそうかもしれないけどさ、もしモンスターが出てきたら危ないじゃないか」
「モンスターがいるのはダンジョンじゃん。それにもし出てきても、俺がやっつけるから大丈夫だよ」
「なに言ってるんだよアスタ」
アスタを心配するフェイ。
「僕達まだ九歳の子供なんだよ。ましてや剣士でもないし、危ないよ」
「別に剣士じゃなくたって、やつけられればいいんだろ?」
「まったく……そんな訳ないだろ。戦うお仕事の中で、剣士は確かになりやすいけど、最低限の実力とか契約があるんだよ」
「けいやく? なんだよ契約って、てかなんでフェイはそんなに知ってるんだ?」
「なんでって、僕は本を読むのが好きだし、色々な本を読んでいく内に、気づいたら覚えていたんだ。もちろん、忘れない為に日記へのメモもちゃんととってるよ」
「フェイは真面目だなぁ……俺はそんな事する気持ちになれないよ」
「まあとにかく、剣士はモンスターと戦うお仕事、つまり場合によっては死ぬかもしれない。そんな時の為にギルド、つまりは手続きをしてくれる偉い人達と契約して、サポートしてもらったりするんだよ」
「なるほどなぁ」
「だから剣士でもない、ましてやただの子供がモンスターに立ち向かうなんて、危ないし怒られるんだよ」
「怒られるって、誰にだよ」
「そりゃあ周りの大人だよ。 「なんてバカな真似をしたんだ!」 とかね」
「いろいろあるんだなぁ」
「戦うだけじゃ解決しない。ルールを守らなきゃ」
「ルールなぁ」
この世界において、剣士は最も簡単になれる職業な上に自由度が高いという良い面がある。
だが自由には責任が付き物。
職業を選ぶ際はギルドという場所に行くのだが、剣士になる時に、ギルドが最大限サポートできる人物は限定されている。
その限定されている者とは、ルールに縛られている者、つまりは自由度が少ない人材のみ。
自由度が高い事はメリットであり、事実ではあるが、ルールという縛りから離れている人材は、ギルドからのサポートを二割程しか受けられないのだ。
剣士として見られてはいるが、上位剣士でもない場合、そんな剣士は厄介者扱いされてしまう。
「なあフェイ。フェイの将来の夢ってなんなんだよ」
「僕の夢? 僕は作家さんかな。本を読むのが好きだし、やっぱりお話を読んでいると感動するんだよね。そんな時思ったんだ、僕も本を書いて誰かに感動してほしいなって」
「作家さんか。剣士は興味ないのか?」
「剣士なんて僕には無理だよ。剣の使い方だって知らないし。それに、戦って死ぬかもしれないだろ?怖いんだ……死ぬのは」
「そっか」
「なあアスタ、まさかとは思うけど、アスタは剣士を目指してるのか?」
「剣士、正直よく分かんないんだよな。戦うのは好きだし、それが叶いそうな仕事が多分剣士だから、そういう意味じゃ、剣士を目指してるってなるのかな」
「戦うのが好きなのは知ってるよ。たまに一人で練習してたもんね。でもそれは子供の遊びの中でだろ。剣士は遊びじゃない。死ぬかもしれないんだよ」
「その時はその時だよ」
「アスタは怖くないの?」
「なにが?」
「なにがって、死ぬのがだよ」
「さぁ……よく分かんない。まあ、将来の夢かはともかく、少し興味があるんだよ。剣士に」
「アスタは気づいたらすぐどっか行っちゃうから心配だよ」
「フェイは心配性だな」
「そりゃあ心配だよ。アスタは大切な友達だし、それに今日だって」
「なあフェイ」
「って人が話してる途中!」
「みんなはどこ行ったんだ?」
「え?」
「俺達、ずっとここにいたよな」
「あれ、誰もいない」
「俺達を置いて帰ったのか?」
「それはないよ、先生は毎回全員いるか確認していたし」
「だよな、じゃあどこに」
「そう言えば、アスタとの話に夢中で分からなかったけど、途中から皆の声が聞こえなかったような」
二人の近くで遊んでいたはずの子供達の姿が突然消え、困惑していた時、森の方から木の枝を踏みつける音が聞こえた。
「っ! フェイ……聞こえたか」
「うん、なんか森の方から」
森の奥の方を見ていると、赤く光るなにかを見つけた。
「あれって……熊か?」
「いや……ただの熊じゃない。あれは……熊型のモンスターだ」
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