第31話 気づけば...
彼女の置いていった、アイスコーヒーが微かにまだ波打っているのをずっと眺めていた俺。
せっかく仕事終わらせてきたのに、この有様。
”何やってんだ俺は...”
すると小春さんが俺に話しかけてきた。
小春さん「ごめんね...あんな事言っちゃって...なんで私もあんな事言っちゃったんだろう...」
亮「いやっ!大丈夫です!ちょっと彼女の様子見てきます!」
そう言って俺は彼女がついでくれたコーヒーを手に取り、外へ向かった。
外へ出ると、入り口の横のベンチに下を向いたまま座っている美華。
その横に俺もゆっくりと腰かけた。
そして...
美華「仕事忙しかったの?」
亮「まぁな。でもいつもの事だよ。俺の仕事の要領が悪いだけかなっ!」
美華「何それっ!ださーっ!」
亮「なんとでも言ってくれ~!でもキツイ仕事が終わった後に飲むこのコーヒーは最高だっ!まじで蘇る!」
美華「当たり前でしょ?私が入れてるんだから!」
亮「うん。これは仕事後もそうだけど、朝も飲みたいよな!」
美華「あっ朝も?」
亮「うんうん!本当に!」
美華「あ...ありがと...そお言ってくれて...」
そう。蘇るのは、美華が作ってくれたアイスコーヒーを飲むからだけじゃない。
こうして、アイスコーヒーにプラスして、二人で何気ない話をする事が一番俺にとっての元気の源。
そう思った瞬間、目の前に走る電車の音と共に俺は...
美華「あ...」
俺は彼女の頭を撫でていたのだ。
電車が通り過ぎ、微かに聞こえる数台の車の音と、風に靡く木々の音。
俺たちの時間は一瞬止まり、二人はほんの数秒だが見つめ合っていた。
亮「美華が作ってくれたケーキ一緒に食べに行くか...」
そお言って俺は彼女の手を握り、喫茶店の中へと戻る。
店内に入ると俺はすぐに手を離し、彼女の背中をポンと押し、俺の隣に座らせた。
ほんの一時の出来事だったが、彼女は拒否する感じもなく、ただただ顔を赤らめさせ、じっと目の前にあるコーヒーを見つめていた。
そんな彼女の状況を見て少しずつ我に帰って来る俺。
”ななんて事をしてしまったんだー!!いやっ!ここで焦ったらダサいっ!冷静でいないと冷静でっ!ジェントルマンでっ!”
内心そんな事を思っていたが、誰にもその様子は気づかれる事もなく、彼女が作ってくれたケーキを頂くことに。
そしてそのケーキは今まで食べたどんなものよりも、一番美味しく感じたのは俺だけだろうか。
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