第四章

嗤う、鉄仮面

 新暦九三八年初冬[一月]、東南公[オレッサンドラ・グブリエラ]とブアトリセ・ローレイルの婚儀が、オルコルカンで華やかに行われた。

 本来ならば、パント゠ダルガデ[東南州州都]で行うべきであったが、イルコアから鉄仮面が動けないため、オルコルカンでの挙式となった(※1)。


 ノルセン・ホランクも婚儀に出席していたが、アステレ・アジョウの死からいまだに立ち直っておらず、「猫が……、猫がいないんだ。困ったな」と、アジョウの死と共に消えた猫のことを心配するばかりで、心の傷は癒えていないようであった。


 式の前、ブアトリセに向かって、鉄仮面は「おまえが頑張って、東南公が姉離れして、私が楽になれることを願うよ。私の仕事はこれで終わりとしたいところだ」と言葉をかけた。


 しかし、宴がたけなわとなったところで、伝令が急報を伝えてきた。

 その内容は、七州[デウアルト国]の支配を不服とする一部の豪族が蜂起したというものであった。

 鉄仮面は、式場のすみで酒を飲んでいたじいさん[オヴァルテン・マウロ]を呼び出し(※2)、作戦会議を式場ではじめだした。

 こうして、次の大いくさ[第十一次バナルマデネの戦い]の発端となる争いがはじまった(※3)。



※1 オルコルカンでの挙式となった

 結果、オルベルタ・ローレイルの長男が、ノルセン・サレの次女と結ばれていたので、グブリエラ家とサレ家はローレイル家を通じて縁戚関係となった。


※2 式場のすみで酒を飲んでいたじいさん[オヴァルテン・マウロ]を呼び出し

 オヴァルテン・マウロの隠居話はうやむやにされた。


※3 発端となる争いがはじまった

 このつづきについては、ズニエラ・ルモサが書いた『続イルコア戦記』を参照のこと。




(おしまい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る