花、散って(二)

 新暦九三七年晩夏[九月]、ウストレリとの和約が正式に成立すると、それに貢献したラカルジ・ラジーネの権勢が、執政官[トオドジエ・コルネイア]のそれをりょうすることになり、ふたりの間のかくちくが看過できぬほどのものになった。

 そのために、北の老人[ハエルヌン・ブランクーレ]が裁定を下し、廃止されていた西せいなんしゅうしゅうぎょ使の官職を復活させて、それにラジーネをけ、執政官はコルネイアが引き続き、在任することとなった。コルネイアは名誉職に追いやられたので、ふたりの争いはひとまず、ラジーネの勝利に終わったと見るべきだろう。


 外とのいくさが終われば、また、内の政争がはじまるのが、学者[ズニエラ・ルモサ]に言わせれば歴史の常であった。

 小サレがどのように動いて来るのかわからなかったが、鉄仮面としては、なるべく高く、イルコアを彼に売り飛ばしたかった。

 先の東州公[エレーニ・ゴレアーナ]の動きも気になりはじめていた。


 晩秋[十二月]、鉄仮面は期限がきたので、しゅうぎょかんの官職を鳥籠[宮廷]に返上した。

 同時に、すでにちっきょを解かれていた[オレッサンドラ・グブリエラ]が東南州州馭使に着任した。

 それをもって、時機が来たと考えた鉄仮面は、「くにがたき」と数冊の書物と共に(※1) [、グブリエラ家当主の座を弟に譲った。]



※1 「国仇」と数冊の書物と共に(※1)

 ザユリアイ・グブリエラが著述したのはここまでで、以下は、夫であるロアンドリ・グブリエラもしくはズニエラ・ルモサが補ったと推定される。おそらく、ズニエラであろう。

 数冊の書物とあるが、そのうちの二冊は、本書とカラウディウ・エギラの供述書(の写し)であるのはまちがいない。また、現在行方不明の『スラザーラ内乱記』の原本が、この際にザユリアイからオレッサンドラ・グブリエラに渡ったとする史家もいる。

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